Side Story〈Yuuki〉episodeⅧ
本話は、本編14~16話頃の話になります。
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ギルドに加入してから2年ほどが経ち、この間も私はLAを楽しんでいました。
皆さんともだいぶ打ち解け、ぴょんさんやゆめさん、あーすさんという新たな仲間とも出会い、もうオンライン上ならば敬語なしで話もできるくらいには、私も成長したと思います。
あ、でも、そんな順風満帆なLAライフとは対照的に、リアルでは残念な変化が一つありました。
そう、教員採用試験の不合格です。
大学4年生だった昨年の夏、一次試験の筆記は受かったものの、二次試験の面接で不合格。
今まで試験に落ちるという経験をしたことがなかった私にとって、それは初めての失敗体験で、大学4年生の秋頃に結果が分かった時は、本当にこれからどうしたものか思いつめたものです。
そして考えた末、非常勤講師で働くよりも、もう1年勉強して改めて試験に臨もうと決めたので、私は通っていた大学の大学院に進学することにしました。
なので今の私は大学院1年生。【Teachers】の方々には今だに職業詐称継続中です。
あ、でも不合格の要因を指導経験の少なさと判断し、塾講師のアルバイトも始めたので、ある意味先生と呼ばれる立場ではあるのかもしれません。
ちなみにゆずちゃんはこの2年の間に高校2年生になり、在学中も時折会って遊んだりしていた中高の友人である沙良ちゃんも、研究を深めるために大学院に進学したので私と同じくまだ学生を継続中。
でも学部生時代いつも一緒にいてくれた紗彩ちゃんは、思いのほか教師という仕事に魅力を感じてくれたのか、地元沖縄の採用試験を受験し見事合格、今は沖縄の中学校で国語の先生になりました。
なんというか先を越された思いではありますが、紗彩ちゃんは人にものを教えるのがとても上手だったので、きっとしっかりとした先生をやっているのだと思います。
なので紗彩ちゃんと離れた今、大学院ではいつも一緒にいるような人はいない、というのが現状です。少しだけ寂しい気持ちはありますが、それがかえって私をLAにログインさせているような、そんな気もします。
もちろん、というと情けない話ですが、大学生になる前に目標にしていた恋というものも今だに分からず。
もしかしてこのまま一生分からないんじゃないか、自嘲気味にそんなことも思い出したりするような、そんな日々が続いていた、6月の土曜日でした。
最近の私たちといえば、先月実装されたばかりの、現在最高峰の武器をドロップするキングサウルスという強敵モンスター相手に装備取りをするのがギルドのメイン活動となっています。
初めの頃は全く歯が立たなかった私たちですが、【Vinchitore】や【Mocomococlub】といったプレイしていれば誰しもが耳にする大手ギルドが討伐に成功し、攻略動画や攻略情報攻略サイトに上がり始め、それを参考に前回の活動日で私たちも初めて討伐に成功し、幸運にもゼロさんが銃を手に入れ、それに続けと今回もまた強敵に挑んだのがその日でした。
ですが、残念ながらその日は敗北。
敗因はおそらく3つあると思います。
1つ目は盾役に不慣れなあーすさんが盾役の一部を担ったこと。
ギルド内で一番の新人にあたるあーすさんは、キャラクターは可愛いのですが、正直話し方が鬱陶しい方です。ポジティブな性格はいいことだと思いますが、コンテンツに対する予習不足が明らかで、もうちょっと動画を見たりしながら、動きを理解しておいて欲しかったですね。
敗因の2つ目は、いつも安定した強さを発揮するだいさんが、何故かその日はミスを連発したこと。
だいさんはどんな場面でも安定した活躍を見せてくれていた、私がLAの中で2番目に尊敬するプレイヤーだったのですが、その日は本当に、不思議なくらいダメダメでした。
敗北の責任を感じ、皆さんが慰める中、『色々あって』、と仰っていましたけど、ご飯でも食べ損ねて空腹だったのでしょうか? 不思議です。
あ、1番目に尊敬するプレイヤーですか?
それはよく動画を見ながらプレイの参考にさせていただいている、【Mocomococlub】のギルドリーダーである〈Moco〉さんです。同じ刀を使う身として、パーティのメイン盾役を担いながら、アタッカーにも加わる、一人で二役以上をこなす戦い方を見せてくれる方で、憧れています。
前回の討伐成功動画をリダがSNSに投稿したところ、ご覧になってくださったようで、それがきっかけでコンテンツ突入前に初めてゲーム内でお言葉を頂く機会があったのですが、そこで予想外にもお褒めの言葉を預かり気が動転してしまったほどです。
あれは恥ずかしかったな……。
話が逸れましたが、敗因の3つ目は、ギルドのメインアタッカーであるゆめさんが来なかったことだと思います。
何でも出来そうなジャックさんを除き、斧・両手剣・槍と瞬間火力の高いスキルがある武器をメインに鍛えているアタッカーはギルド内でゆめさんしかいないのですが、やはりゼロさんの火力がどんなに上がっていたとしても、ゆめさんの火力は欲しかったところかな、と思います。
ゆめさんもあーすさんと同じく、私よりも後にギルドに加入した方で、私が加入した翌年の年明けすぐに加わったと記憶しています。キャラクター自体はクールな銀髪の女性エルフキャラなのですが、話し方がまるで女子高生のような、物怖じしない性格の方です。
私の加入から遅れること2か月ほどで加入しました小人族のぴょんさんとは性別が違うのにすごく仲が良く、【Teachers】内でも積極的に話題を振ったりするような、みんなで遊ぶ活動日を大切にしているイメージの方でした。
なのでそのゆめさんが活動日にお休み、というのは少し不思議な感じがしたのですが。
その原因が分かったのは、私たちが敗北を喫した、その直後でした。
〈Yume〉『ねぇ聞いて!!』
それまで青色の文字のパーティチャットで満ちていた私の画面に、不意にギルドチャットを示す緑色の文字が現れました。
既に時刻は22時半近く、21時の集合時間からはだいぶ遅刻ですね。
〈Jack〉『今日は遅かったねーーーー』
〈Soulking〉『聞いてって、どうしたのー?』
そんなゆめさんの登場に、みんなもチャットをギルドチャットに切り替え、緑色の文字を発しだします。
あ、そういえばこの2年間の変化の1つに、〈Soulking〉さんが嫁キングと呼ばれるように変わったこともありますね。
出会った頃はまだリダとお付き合いという状態だったのですが、私が入って間もなくお二人は入籍をされたようで、今は夫婦のプレイヤーになっています。今年の初めころにはお子さんも生まれたようで、きっと幸せいっぱいの家庭を築いているのではないでしょうか。
……いつか私も、なんて想像はなかなかできませんけど……。
〈Yume〉『フラれちゃったーーーー』
むむ。
まるでジャックさんみたいな話し方になってますけど、これは失恋、というやつですよね……。
ゆめさんはよく彼氏さんとのお話をみんなに恥ずかしげもなくお話してくださっていたので、交際相手がいらっしゃるのは知っていましたが、仲が良いカップルなんだろうなと、そう思っていたのですけど……。
〈Yume〉『今日は活動日だから帰るねーって言ったら』
〈Yume〉『いつまでゲームやってんのって言われて』
〈Yume〉『ケンカなって』
〈Yume〉『フラれました!!』
〈Yume〉『誰か私を慰めて!』
ふむふむ。
人の趣味に口を出すのは、よくないのではないでしょうか……。
可哀想に、そう思ったので慰めの言葉を私が打ち始めると。
〈Pyonkichi〉『人の趣味に口出すとか、ひどい男だなー』
〈Daikon〉『そうだな、嘘つかずにちゃんと言ってんのにひどい男だ』
〈Yukimura〉『ゆめ可哀想・・・』
〈Jack〉『女々しい男だねーーーー』
〈Soulking〉『よしよし、いっぱい愚痴っていいよー』
〈Earth〉『男なんて、星の数だけいるからねっ』
みんなほぼ同時に、リダとゼロさんを除くメンバーからゆめさんを慰めるログが出現しました。
そんなお話聞いたら、悲しいですし、怒りたくなりますよね。
大学4年間の間に沙良ちゃんに彼氏ができて、喧嘩して別れた時もたくさんお話をしたがってましたし、やはりこういう時はお話して発散するのがいいのではないでしょうか。
嫁キングさんの言う通り、私も今はたくさんお話を聞こう、そう思っていると。
〈Pyonkichi〉『よし!明日オフ会やろうぜ!ゆめを慰める会だ!』
〈Yume〉『え!それ超いい!みんな私を慰めて!;;』
むむ。
オフ会、ですか……。
このメンバーと会う、ということですよね……。
その言葉の響きは、とてもとても魅力的に見えました。
顔も知らない皆さんが、現実ではどんな方なのか、どんな先生なのか、すごく気になります。
明日は特に予定もないので、参加できなくはないと思うのですが……行っていいものか、少しだけ私の心に歯止めをかけることが、二つありました。
〈Pyonkichi〉『昼からカラオケでも行って叫んで、夜は飲もう!』
〈Yume〉『歌う!飲む!みんな来て!』
〈Jack〉『急だなーーーーw』
私が皆さんについている嘘は二つ。
〈Yukimura〉は男キャラで、私は男を演じていること。
そして何より、ギルドの加入条件である教員という条件を満たしていないこと。
……やはりこの嘘がバレるのは、よくないですよね……。
自己申告で加入を認めてもらえたのは、教員は嘘をつかないだろうという前提のものだったのでしょうし、条件を満たしてないから追放とか言われでもしたら、困ります。
この居場所を失いたくないですし……。
〈Yukimura〉『む、明日は予定いれてしまった・・・』
なので私は不本意ながら、皆さんに会いたいという気持ちを抑え嘘をつきました。
嘘を嘘で隠すなんて、人として駄目だとは分かっていますが、苦渋の決断です。
〈Pyonkichi〉『そんなのキャンセルだー!仲間のピンチだぞー!』
〈Yume〉『そうだそうだ!』
それなのにぴょんさんやゆめさんときたら、そんな私を強引にでも誘ってきます。
ごめんなさい、本当は行きたいんです。
でも……。
〈Gen〉『今日の明日でいきなりは無理だろw』
〈Soulking〉『ごめんね、行きたいのはやまやまだけど、まだ子ども小さいから・・・』
〈Pyonkichi〉『それはしょうがない』
〈Yume〉『うん、それはしょうがない。家庭優先』
あ、よかった。行けないのは私だけじゃないんですね。
いや、これをよかったと思うのも、どうかとは思いますけど、それでも私だけが行けないということではないようで、少しだけ安心したのも事実。
〈Pyonkichi〉『ゆめって、どこに住んでるん?』
〈Yume〉『横浜!』
そんな私の気持ちなど知る由もなく、ぴょんさんはオフ会の話を進めます。
〈Pyonkichi〉『いい場所だ!じゃあ明日は横浜オフ開催!』
〈Pyonkichi〉『関東民挙手!ノ』
〈Pyonkichi〉『ノ町田!』
〈Soulking〉『栃木の北関東は仲間にいれてもらっていいのかなー、行けないけど』
〈Yukimura〉『ノ大宮。次回あれば、行く』
そして住んでいる場所を聞かれたので、ここは嘘をつかずに正直に答えることに。
でも私が加入してからの2年間でオフ会なんて1度も話に出ませんでしたから、きっとそう簡単には次回なんて開催されないでしょう。なので、次があればなんて、軽く言ってみたのは私の
〈Jack〉『ノ千葉ーーーーでも明日はごめんねーーーー俺も次回あれば行くーーーー』
〈Earth〉『えーーーーみんな関東なのっ、いいなぁ・・・』
〈Yukimura〉『あーすはどこなの?』
〈Earth〉『大阪やで☆』
〈Gen〉『関西人だったのか~』
そしてさらに会話は続き、ジャックさんとあーすさんも来れないことが判明。
そうなると不参加が私含めて5人になったので、半数以上は参加できないことになり、多数派になったことで、さらに少し安堵が強まりました。
というかここまでぴょんさんとゆめさん以外欠席ですけど、無事開催されるのでしょうか?
ぴょんさんとゆめさんの二人だと、男女でのデートみたいになってしまいませんか?
たしかに皆さんすごくいい人ですけど、顔も知らないオンライン上で出会った人とデートなんて、ちょっと私には想像ができません……。
そんな風に私が少し勝手にもドキドキし始めると。
〈Daikon〉『ノ都内』
〈Pyonkichi〉『都内!だい確保!』
〈Yume〉『だい確保!』
〈Pyonkichi〉『ゼロやんは!』
〈Yume〉『ゼロやんは!』
〈Zero〉『お、俺も都内』
〈Pyonkichi〉『都内!確保!』
〈Yume〉『ゼロやん確保!』
ここまで不参加の表明ばかりだった中、都内在住ということが判明しただいさんとゼロさんがお二人に確保される流れに。
ああよかった、なんて思いますけど、そうすると今度はゆめさんが女性一人で、ぴょんさん、ゼロさん、だいさんと、男性が三人。
それはそれで、なんというか、いいのでしょうか?
皆さん教員ですし、問題はないとは思いますが、もし私が一人、リアルでは初対面の男性三人とカラオケに行ったあと飲みに行けと言われたら、さすがに困惑してしまいますね……。
〈Pyonkichi〉『ゼロやんは強制な!』
〈Yume〉『強制な!』
〈Zero〉『なんでだよw』
〈Daikon〉『ゼロやん行けるのか?』
〈Zero〉『あー、予定はない。だから行くよ、行かなきゃどうせ文句言うんだろ?』
〈Pyonkichi〉『ええ、強制ですから』
〈Yume〉『来なかったら一生恨んでやる』
〈Zero〉『こえーよw』
〈Daikon〉『俺、昼はちょっと予定あるから、夕方からでもいい?』
〈Pyonkichi〉『もち!飲むぞ!』
〈Yume〉『飲むぞ!』
〈Earth〉『男子3人で、ゆめちゃん逆ハーレムだねっ☆』
でもそんな私の心配をよそに、ゼロさんとだいさんの参加が確定。
あーすさんと同じことを思うのはちょっと癪ですが、ゆめさんは大丈夫なのでしょうか?
〈Gen〉『明後日は平日だからなー。大人としての節度は守るんだぞ?』
〈Pyonkichi〉『それはどうかな!』
〈Zero〉『いや、それは守れw』
〈Pyonkichi〉『集合時間はどうする?』
〈Zero〉『おい、無視すんなw』
〈Yume〉『桜木町のサンデイズ前に11時で!』
〈Daikon〉『けっこう長丁場で歌うんだなw』
〈Yume〉『ぴょんとゼロやん一緒にお昼食べよ!』
〈Pyonkichi〉『昼飯からか!おk!』
〈Zero〉『それはいいけど、どうやって合流する?』
〈Yume〉『ロンTにバラ柄のスカート履いてく!』
〈Pyonkichi〉『おお、それはわかりやすい!』
〈Yume〉『元カレがくれたスカートwww』
〈Daikon〉『身を削ったボケだなw』
〈Yume〉『あんな男忘れてやるー!』
〈Yume〉『あー、みんなと話して元気出てきた!明日楽しみ!』
〈Soulking〉『よかったよかったー』
〈Earth〉『ゆめちゃんは元気が一番だね☆』
〈Yukimura〉『次回は、必ずいくから』
そして私の心配なんか誰も気にすることがないように会話は続きました。
具体的なオフ会の話には参加できなかったので、基本的に眺めていたのですが、何も言わなすぎるのもどうかなと思って、次回は必ず行くなんて言ったのは、重ね重ねの贖罪です。
〈Jack〉『そうだねーーーー次回は新宿でーーーーwww』
するとジャックさんが次回は新宿で、なんて言うので、ちょっとドキッとしてしまいます。
え、本当にあるのでしょうか……?
そうなるとこの贖罪が墓穴を掘ることになってしまうのですが……。
〈Gen〉『宇都宮でやるときがあれば、案内するぞw』
ですがジャックさんに続き、少し遠方に住むリダまで別な機会を提案したり。
今まで一度もなかったのに、オフ会ってそんな簡単に企画されるものなのですか?
むむむ……なんだか心配な気持ちが増してきます。
〈Daikon〉『餃子・・・』
〈Pyonkichi〉『餃子いいね!夏にやろうぜ!』
〈Zero〉『色々気が早いなw』
でもやはり、
もし本当に次回があったら、どうしましょうか……。
私にMMORPGの楽しさを教えてくれた皆さんに会ってみたいという気持ちは、私の胸の内にたしかに存在しています。
でも会って本当のことを言ったら、嘘つきと怒られ、軽蔑されるかもしれません。居場所を失うことになるかもしれません。
それなら、このまま嘘をつき続ける方が、いいのかな……。
心の中のもやもやを抱えたまま、私はその後も続いた会話に適当に加わりつつ、本当に次回があったらどうするべきか、その問いと向き合い続けるのでした。
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以下
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ゼロやんの尊敬度は同率でジャック・リダと同じ3番目くらいらしいですよ。笑
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