Episode05 F等級という身分


──《思念開通リンク》──




「こっちは二人をやっつけた。そっちはどう?」

『おおアスベルか!? ちょうど良かったわー』


 いつも飄々としているリヒトにしては、焦った声色。

 

『リーダーが思念を飛ばす余裕もないくらい切羽詰まってるから、すぐに岩山エリアに加勢に来てくれへんか!?』

「フィオナさんが?」


 模擬試合をするまでの一週間、間近でフィオナの実力を見てきたので、ちょっと意外だ。


「食い止められそうなら、今のうちに僕が灯籠に火を灯しても」

『なんでか知らんけど、相当なダメージ負ってんのに宝石が赤色に点滅しいひんのや!! 教官もこの状況に気づいてないみたいで、このままやと、リーダーが大怪我を負ってしまう!!』


 ダメージを負ってるのに宝石が赤く光らない?

 なんだ、それ──

 

「とにかくすぐ行く。リヒト君は、遠距離から回復魔法を飛ばしておいて」

『分かったッ!』



  

 ──《思念終了リンクレス》──




 再び疾走を開始。

 さっきまでは軽い準備運動くらいだったけど、クラスメイトが大怪我を老いそうなこの状況、本気以上のスピードで岩山エリアへと向かった。

 

 ゴツゴツとした岩肌に、人の背を超えるような岩山が何本も並んでいる。

 その向こうで、片腕一本で大剣を振り回すフィオナの姿があった。


「フィオナさん!!」

「アスベル君!! っダメよ、こっちに来ちゃダメ!!」


 違和感を覚えて、僕はすんでのところで足を止めた。

 ここから一歩でも彼女に近づけば…………。


「おやおやおや、まぁたF組に生徒が増えたなぁ」


 男の声が聞こえるのと同時、フィオナが吹っ飛ばされた。

 背中を強く打ち付け、気絶してしまっている。


 僕は構わず彼女に駆け寄った。

 ひどいありさまだ。

 服がボロボロに裂けて、少し下着が見えてしまっている。血も滲んていて、明らかに過剰攻撃。なのに彼女の宝石は光っていなかった。


「彼女に何をした?」

「何って、自分の立場を弁えてもらっただけなんだけど」


 灰色ががった髪を逆立て、耳には主張の激しいドクロのピアス。

 クツクツと不気味な笑いを浮かべるB組の男子生徒は、長い舌で己の唇を舐めていた。


「だってさぁ、こっちはB等級なんだぜ? しかもケルト商会の会長の息子。それなのにさぁ、そこの女、このあいだ俺に向かってなんて言ったと思う? F組の女子メルに手を出さないでって言ったんだぜ」


 メル?

 確か、F組にいた一番身長の低い金髪の女の子だ。

 僕が話しかけようとしても、すぐ背中を向けて逃げられた。


「おまえが怒らせるようなことをしたからだろう?」

「はぁ? おまえバカなの? 俺、B組。おまえらF組だよ? B組の俺がF組の女子に手を出そうとしたって、誰も困らないじゃん? その子だって、高等級の男に話しかけられて嬉しかったかもしれないしさぁ」


 怒りがふつふつと沸き起こる。

 宝石が光らないように小細工をしかけ、彼女をいたぶるために、岩山エリアに設置型の魔法を仕掛けた。

 だからフィオナは片腕だけで大剣を振り回していたのだ。

 そんな反則、学園の剣士がやることじゃない。


「あとさ、おまえもその女の正体聞いたら、嫌いになると思うぜ?」


 追い打ちをかけるように、ケルトはこっちに歩いてくる。


「その女はFなんだってさぁ。なんでF等級のゴミが学園にまでやって来るんだって話だよなぁ? F組のFはF等級から来てるのに──」


 その瞬間、ケルトの声は途切れた。

 僕が思い切り剣の腹でケルトを叩き飛ばしたからだ。


 これ以上、彼女に対する暴言は許せない──


「いってぇなぁオイッ!! なんで設置した魔法が効いてねぇんだよッ!!」


 間髪入れず、僕は地面を踏み抜いた。

 超低姿勢の状態で剣を構えたあと、岩山もろともケルトを打ちのめす。


 けれど、ケルトはすんでのところで避けていた。

 衝撃波だけで崩壊した岩山を見て、ケルトは青い顔をしている。


「ちょ、おまえ本気出しすぎじゃ──」


 突きと払いを繰り返しながらケルトを追い詰めていく。


「ひひっ、たかが模擬試合ごときにマジになるなんて、しょせんはF組だな」


「今、なんだって?」


「だからF組は────ひッ!」


 僕の剣が、ケルトの首にピタリと添えられた。


「Fは誇り高き人間だけが持つ。他人の名前を、安々と侮辱するな」

「まさか、おまえもF等級──」

 

 その瞬間、僕はケルトを思いきり剣で薙ぎ払った。

 岩山にぶつかっても勢いは止まらず、森の方へと消えていく。 


 勝利を確定する号砲が鳴り響いた。

 僕たちF組の勝利だった。


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