Episode04 初めての模擬試合で


 当学園には、等級と成績を総合的に判断した組分けがある。

 入試試験及び、学年末の総合成績の上位40名がS組、41位から120位までの80名がA組、それ以下はB組となる。1年生でA組だった者が2年生でB組に落ちる、なんてのは毎年起こるらしい。


 ただ、B組の人間がF組に落ちることは絶対にない。


 どれだけ成績が悪くてもF組には転落しない安心感からか、B組はF組を侮蔑する者が多いという。

 絶対安全な位置から自分より劣った地位にいる者をバカにするなんて、小者がやりそうなことだ。


「F組だよF組。大変だよなぁF組って、成績が悪いと退学なんだぜ」

「見ろよ、あの鬼気迫った顔。こんな模擬試合ごときで本気になるなんてだせぇよな」


 野外施設に到着した僕たちF組を見て、B組の奴らが笑っている。

 彼らにとって、この試合はただのお遊びだ。

 馬に乗った貴族が、猟銃を持って鹿を狩るのと一緒。


「みんな気にしないように。大丈夫、私達は強いわ」


 フィオナがフォローに入っているところ、目利きが鋭い。クラスメイト全員の顔色を見て、本日の士気具合を調整している。初めて見たときからカリスマ性があると思っていたが、まさにその通りだ。


 今回の模擬試合は、簡単に言えば陣取り合戦だった。

 

 野外施設には砂漠、岩山、森林、街中、水辺の5つのエリアが存在している。三人一組でパーティを組み、相手の陣地にある灯籠に火を灯したほうが勝ち。これを一パーティずつ繰り返すのだという。

 

 ちなみに、僕はフィオナとリヒトと一緒のパーティだから、戦うのは一番最後だ。


「ねえフィオナさん。B組って何人いるんだい?」

「一年生は240人いるわ」

「B組だけで!?」


 F組なんて9人しかいないのに。

 

「人数が多いから特別にグループ分けされているの。総合成績が良い順番から、1から6までグループがあるわ。今回の対戦相手で言うと、一年B組の第4Grジー・アールって言えば正解よ」


 再び沈黙したフィオナは、厳しい表情をしていた。

 控室の中央には、試合内容を伝える特大映写機モニターがある。

 各所に配置された定点撮影機カメラがリアルタイムで編集され、臨場感ある試合を楽しむことができる。それによると、F組のパーティは頑張っている。もう少しで相手の灯籠に火を灯せるところまで来ていた。


「どうしてそんなに険しい顔なんだい?」

「え? えぇ、まぁね。みんなは頑張ってくれてるし、私も本人が持ってる最高のパフォーマンスを引き出してるつもりよ。でもどれだけ頑張っても、Fってだけで底から這い上がれないのよね。報われない努力をさせていいのかしらって……」


 なんだろう、と僕は思った。

 その言い方だと、僕たちF組を指していないような気がした。

 まるで、F等級のことを指しているかのような──


「ごめんなさい、感傷に浸りすぎたわ。もうすぐ私達の試合が始まる。移動するわよ、アスベル君」

「うん」

「リヒト、あんたいつまで寝てんのよ」

「あいだっ」


 腕を組みながら寝ていたリヒトがどつかれた。痛そう。

 僕はフィオナとリヒトと一緒にスタート地点についた。


 腰から模擬剣を抜く。

 ゴリゴリの前衛役であるフィオナは、肉厚なバスターソードを模した剣を持っている。大剣を振り回して大立ち回りする様は、模擬試合前の練習の際にも確認したが、かなり強い。実技の総合評価はSからEまであるうちのA+と聞いた。

 

 狙撃手であるリヒトは魔導ライフルと模擬短剣を持っている。通常のライフルは実弾を込めて敵を狙撃するが、魔導ライフルでは魔法を放つ。魔元素マナを塊にして魔弾として打ったりもできるし、なにより回復魔法や支援魔法を銃で撃つことができる。自分の力では及ばないが、ピンポイントに遠くまで魔法を放ちたいときに便利だ。

 ……それにしても、魔導ライフルと短剣を一緒に持つ人、初めて見た。


「もしかして二刀流?」

「メインはライフルこっちや。ばっちり後方支援バックアップしたるさかい、期待してるで編入生」

「アスベル君が前衛特化で助かったわ。コイツは近接戦闘はてんでダメだから」

「へへっ」


 試合開始の合図となる号砲が鳴り響いた。

 僕たち三人はそれぞれ疾走を開始。

 前衛である僕とフィオナは正面突破で相手に突っ込む。実力を鑑みて、下手な小細工は不要だと考えたゆえだ。後方寄りのリヒトは、高所から敵を狙いつつ動向を逐一教えてくれる。


 どうやって教えてくれるのかというと、思念を飛ばす魔法を使うのだ。魔導士以外の者がやるには結構難しいらしいけど、僕たち3人とも難なく思念を飛ばすことが出来た。やっぱりF組ってすごい。



 ──《思念開通リンク》──



『敵のうち二人は剣士、もう一人は魔導士やな。剣士一人と魔導士一人が森エリア、もう一人が岩山エリアから登ってきとる』

「僕が一人で森エリアに行くよ」

『アスベル君が強いのは分かってるつもりだけど、二人相手に一人で挑むのは危険だわ』

『そやで』

「大丈夫、何とかする。伊達に編入試験を合格したわけじゃないよ」

『分かったわ。リヒト、私の後方支援バックアップに回りなさい。岩山エリアで敵を迎え撃ちつつ、隙があれば敵陣を叩くわよ』

『了解』



 ──《思念終了リンクレス》──



 僕はすぐさま森エリアに向かった。

 相手は二人には二人、一人には一人という戦力をつぎ込んでくると予想しているだろう。その裏をかき、僕は二人に対してあえて一人で乗り込むのだ。


 こそこそ隠れたりしない。

 森の出口で、あえて分かるように棒立ちになる。


 敵は無防備な僕を襲いたくてウズウズするだろう?

 ほら。


「かかった…………」


 飛んできた風の刃を躱し、一気に加速を開始。

 予想外の速さに相手は目を丸くしている。


「わ、我を助けたまえ──」


 ここまで近づいたらこっちのものだ。呪文を唱えるよりも僕のほうが早い。

 相手のみぞおちに強烈な一撃を叩き込むと、魔導士は軽々と吹っ飛んだ。


「ゲホッ。──んだアイツ、速すぎんだろ……ッ!」


 魔導士はもう動けない。

 服につけられた宝石が赤く光っている。あれは、生徒同士で必要以上の怪我を負わせないためのモノだ。僕もこれ以上攻撃してはならないし、攻撃された方もその場から動いてはいけない。

 

 そうとなれば、相手しないといけない敵は一人だけ。

 剣士のはずだ。

 かすかに草がこすれる音。抜き足で進む音。男の荒い呼吸音。そして、強く地面を踏みしめる音──


「調子に乗るなF組がぁああああ!!」


 目潰しのつもりだろうか、砂を撒き散らしながら突貫してくる剣士。

 最初から目を瞑っていた僕は、相手の気配を感じ取るため精神を集中させる。大上段、と見せかけて払いをするつもりだろう。にやりと微笑むB組男子の表情が目に浮かぶ。


 僕はしっかり軸足を地につけ、剣を逆手持ちにする。

 そして、思い切り相手の横腹めがけて蹴り上げた。

 胸元で宝石が赤くきらめき、面白いように吹っ飛んで木に激突。

 気絶したのか伸びていた。


 

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