12話 新しい仲間

12話 新しい仲間


 テミス達と別れてから、俺は露店街の小物店へと足を運んだ。

 

 「すみません〜。この麻袋をください」


 「麻袋かい? 鉄貨3枚だよ!」


 「はい! 鉄貨3枚です」


 俺は店主のおばさんに代金を渡して、寮の自室へと帰った。

 さっき買った麻袋は、ターナ用のアイテムバックを作るのに使うつもりだ。

 下手に高級な入れ物だとそれ自体を狙ったスリにあうかもしれないし、こういうのは安物の方が良いんだよな。

 他にもいくつか作りたいものがあるから、ターナが帰ってくるまでに作業を終わらせたいな。


 

 ***


 「ロイ君お疲れ様〜!」


 「おう! ターナもお疲れさん!」


 俺達は学校で待ち合わせて、授業中に起きたことなどを話しながらいつもの空き地へと向かった。

 例のごとく、周囲に誰もいないことを確認してから隠密魔法をかけてある。


 「訓練の前に、ターナに渡しておきたいものがあるんだ」


 「なになに? 気になる!」

 

 「まずこれだ。これはアイテムバッグってやつなんだけど、聞いたことあるか?」


 「聞いたことはあるけど⋯⋯。アイテムバッグって、とっても高いものだから見たことはないかな」


 「まぁこれは俺が作ったものだからほとんどプライスレスだ。付与魔法って本当に便利だよな」


 「ははっ⋯⋯。なんだか、もうロイ君が何をしても驚かないようにするよ⋯⋯」


 「他の人にはそれがアイテムバッグだってバレないように使うんだぞ?」


 「うん! ありがとう!」


 「それから、これは緊急時のための防護アイテムだ。一応ターナの両親の分も用意しておいた。とりあえず使い方を説明するか」


 俺は小石くらいの大きさの球体3種類をそれぞれ3つずつターナに渡した。


 「これは魔核に魔法を付与したものだ。これに魔力を流すと付与された魔法が発動する仕組みになっている」

 

 魔核とは、魔物の身体の中にある核のことで魔物の持つ力のエネルギー源のことだ。

 元々の性質からして、付与魔法と相性が良い。


 「⋯⋯なるほど。色違いで3種類あるっていうことはそれぞれ発動する魔法が違うの?」


 「その通りだ。白は防御魔法が発動して一定時間、発動者を守ってくれる。黒は攻撃魔法で、大抵の敵は倒せるくらいの強力な魔法が発動するぞ。最後は透明なやつだな。これに魔力を流すと上空に目印となる魔法が放たれるから、俺がすぐにターナの居場所を見つけることができる」


 「すごいや! 魔法ってそんなこともできるんだね!」


 目を輝かせるターナ。


 「俺もそう思うよ。しかも、これってかなり強力な魔法が発動されるんだが、事前に俺の魔力を込めてあるから実際に発動するときは少しの魔力でも大丈夫なんだ。防護アイテムとして使い勝手も良さそうだろ?」


 「うんうん! しかも、家族全員分も用意してくれて、ロイ君はやっぱり優しいね!」


 確かに、俺は深く考え過ぎているのかもしれない。

 テミスやルナと話した感じからしても、わざわざ友人に手を出すような汚い手を使う可能性は低いと思う。

 だが、もしものことを考えると怖いからな。

 むしろ少し臆病すぎると思えるこのくらいがいいのではないだろうか。


 「よし! じゃあ今日も今日とて訓練を始めるぞ!」


 背筋を伸ばして敬礼をするターナ。


 「お願いします師匠!」


***



 「そろそろか⋯⋯」


 あれからターナの訓練を終えて寮へ帰り、晩ごはんを食べたり風呂に入ったりしている内に気付けば夜になっていた。

 カヤとの待ち合わせの時間だ。


 男子寮の外に出ると屋外の休憩スペースでベンチに座っているカヤが見えた。

 向こうも俺に気付いたらしく、こちらに向かって歩いて来ている。


 「待たせたか? 悪いな」


 「私も来たばっかだから大丈夫だよ!」

 

 「ここじゃなんだし、俺の部屋で話を聞こうか」


 俺がそう言うと、カヤは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 「入寮して早々に女の子を部屋に連れ込んじゃって大丈夫なの? 噂されちゃうよ〜?」


 ⋯⋯こいつ本当に15歳か?


 「⋯⋯あの感じだと隠密魔法も使えるんだろ?」


 「ふふ。まぁね〜!」


 そして、自室へと着いたところで俺はカヤに話を

促した。


 「あのね、ダナードさんは私の育ての親みたいな恩人なんだ。両親が強盗に殺されて、行く宛の無い私を拾い育ててくれてたんだよ。4年前の強盗って聞いて何か思い出すことない?」

 

 あるな⋯⋯。

 

 「ライオ強盗団のことか?」

 

 4年前、俺は父さんとダナードおじさんが強盗団のアジトを潰しに行くのについて行ったことがある。

 当然ながら現在よりも幼かった当時の俺は戦いに参加した訳ではなく、強盗達が次々と屠られていく様をただひたすらに見ているだけだった。

 ダナードおじさん曰く、俺が人の死に直面した際にどうなるのかを確認していたらしい。

 今思えばかなり危険な気もするが⋯⋯。

 

 「そうそう。それでね、私みたいに家族を殺された人って、犯人に対しての復讐心に囚われたまま大人になっちゃうことがあるんだって。私がそうならないように、ダナードさんとロイ君のお父さんは動いてくれたらしくてね。パパとママを殺した奴等はもういないからって」


 なるほどな。

 それでダナードおじさんが親を失ったカヤを育てるとともに鍛えてきたって訳か。


 「それでダナードおじさんから聞いて俺のことを知ってたのか。それにしても、どうして昨日は声を掛けてくれなかったんだ?」


 「それはね⋯⋯。私のダナードさん譲りの動きを見たとき、ロイ君がどんな反応をするのか楽しみだったから! かなり驚いてたでしょ!」


 なんだか、さっきまでしんみりした雰囲気だったのに切り替えが早いな⋯⋯。


 「そりゃ驚くだろ⋯⋯。それにしても、上手く隠してはいたが素晴らしい技術だったな。ハインツ教官すら多分カヤの実力に全く気付いていなかったぞ」

 

 「ロイ君に比べたらまだまだだよ〜。あ、ダナードさんからロイ君に関する話は色々と聞いてるからね!」


 俺はカヤの存在すら教えてもらえなかったんだけどな⋯⋯。


 「それで、カヤはダナードおじさんみたいに、いわゆる殺し屋になるのか?」


 こんな明るい雰囲気の女の子が実は殺し屋だったら、逆に怖いよな。


 「そういう訳じゃないよ! むしろ何をしようか全く決まらなくてね⋯⋯。だから、もし良かったら学校を卒業するまでロイ君の仲間にしてくれない? 冒険者でいうところのパーティみたいにさ!」


 ほう⋯⋯。

 これはむしろ俺にとってありがたい話だな。

 俺の両親関連の事情も既に知っているし、俺にはない技術も持っている。


 「もちろんだ。むしろこっちからお願いしたいくらいだよ。これからよろしくな!」

 

 そう言って右手を差し出すと、カヤは俺よりも少し小さな手で力強く俺の手を握った。


 「あ、そうだ。実はこの学校に仲間が1人いてな。毎日その子を訓練しているんだけど、カヤも一緒にどうだ? どっちにしろ紹介はしないといけないし」


 「もちろんっ! それなら私は魔法を教えて欲しいかな〜。隠密魔法とか索敵魔法ならできるんだけどね⋯⋯。明日から参加させてもらうよ!」

 

 カヤは魔法があまり得意じゃないんだっけ。

 身体能力も高いし、戦闘のタイプがターナと似ているんだな。


 「決まりだな! それじゃあ、改めてこれからよろしく!」


 「そうだね! こちらこそよろしく!」


 それから、カヤのダナードおじさんとの話を聞いたり今後の予定について話したりしてからカヤを見送った。 


 今日は色々なことが起きたから少し疲れたな。

 ゆっくり休もう。

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