貴族嫌いの田舎者

フリーガム

第1章 貴族嫌いの少年、冒険者学校に入学する

1話 少年の旅立ち

 

 第1章 貴族嫌いの少年、冒険者学校に入学する


 1話 少年の旅立ち



 俺の名前はロイ。

 成長期真っ只中の15歳だ。

 明日から王都にある冒険者学校の入学試験を受けるために、生まれ育ったこの山奥の家を離れることになる。

 入学試験の次の日、つまり明後日に入学式が開かれるため、合格したらしばらく実家には帰れないことになるのだ。

 まぁ正確には絶対に帰れないという訳ではないんだけどな。


 「それじゃあ行ってくるよ。父さん母さん、これまで育ててくれてありがとう。リリィ、王都で待ってるぞ」


 「おう。風邪をひかないようにな」


 そう気楽に返したのは、ガタイのいい身体に栗色の短髪をオールバックにしたワイルド系イケメンの父親、名前はウィードだ。

 ちなみに35歳。

 元Sランク冒険者で「最強の魔法使い」と呼ばれていたらしい。

 魔王軍の幹部を倒した功績が認められ一時期は爵位を与えられていたこともあり、俺の魔法の師匠でもある。

 家庭内では母親の尻に敷かれているが。


 「夏休みには帰ってくるのよ?」


 聖母のような優しい表情で俺に微笑みかけた俺の母親、名前はエリスという。

 年齢は34歳だが、20代だといわれても何の違和感も持たないだろう。

 混じり気のないストレートロングの金髪に碧い瞳と、陶器のような白い肌が特徴的だ。

 ちなみに、俺の髪や瞳の色などの外見は母譲りで、妹は父譲りである。

 元ファルタ王国第三王女で「剣聖」と呼ばれていたらしい。

 俺の剣術の師匠でもある。

 両親ともに姓が無いのは、2人は駆け落ちして王都から出たからだ。


 2人がまだ王都にいた頃、俺の祖父にあたるファルタ王国の国王ジョン=ケージーは母さんを他国の王族との政略結婚の切り札として確保しておくために、父さんとの一切の接触を禁止した。

 その他にも、様々な貴族特有の面倒ごとに巻き込まれた2人は生まれ故郷を捨て、駆け落ちすることを選んだのだ。

 そんな両親から『貴族とは関わらないでくれ』と口酸っぱく言われ、育てられてきた俺達。

 まぁ、それを抜きにしても両親の幸せを奪おうとした貴族や王家の面倒なしがらみには嫌気が差す。

 一方で、俺達家族は貴族=悪人みたいな偏見で凝り固まっているという訳ではないと思う。

 貴族の中にも良い人はいるし、平民の中にも悪い人はいる。

 では、貴族の中でも良い人達だけと関わるとしよう。

 そうすると俺達の関係を利用しようと考える悪い貴族が現れ、結果としていざこざが起きてしまうのだ。

 俺達の場合は、絶縁しているとはいえ王家の血を引いているから尚更だ。

 こういった経緯から両親は俺達に貴族と関わらない人生を過ごして欲しいと願っている。

 自分達の所為で、子どもが面倒ごとに巻き込まれるのを心から嫌っているのだろう。


 だから俺は、貴族の持つ理不尽な権力にも屈しないで済むように両親から血の滲むような修行をつけられ、力を得たのだ。


 「お兄ちゃん⋯⋯。私も絶対に合格して王都に行くから待っててね! ⋯⋯ぐすっ」


 ベソをかきながら俺の腰に抱きついているのは先ほどから少し触れていた妹のリリィ。

 俺と1つしか年齢は変わらないが、これ以上ないってくらいのお兄ちゃんっ子だ。

 俺が冒険者学校に通うと言ったら「じゃあ私も通う!」と言い出したのは記憶に新しい。

 入学試験は15歳にならないと受験できないと母親に諭されたときの絶望に染まった顔は本当にこの世の終わりみたいだったな。

 この1年間で兄離れできればいいんだが⋯⋯。



 ちなみに、まだ試験を受けてすらいないのに俺を含めた家族全員が不合格になることなど全く考えていないのには理由がある。

 世界でも最強クラスの両親に育てられ、そして師事してきた俺とリリィは規格外に強くなっているのだ。

 両親曰く、俺に至っては既にSランク冒険者を軽々と凌ぐらしい。

 そんな俺が実力主義の冒険者学校に入学できないはずがない、そういう思考な訳だ。

 しかし、こんな俺達以外に誰も住んでいないような山奥に住んでいると、いくら強くなっても大して意味がない。

 そこで冒険者学校に入学して色々と経験してこようということになったのだ。


 「じゃあ、今度こそ行ってくるよ! 」


飛翔フライ" "防護プロテクト


 俺が発動したのは超級の浮遊魔法と、中級の防御魔法だ。

 高速飛行を行おうとすると風圧で息ができなくなるし、目が開けられない。

 だから魔法による防護膜を身体の周囲に張り巡らせるのだ。


 この速度だと王都まで3時間ってところか。

 ⋯⋯暇だから魔法の研究でもしながら向かうか。


***



 「これが王都かぁ! 広いし人多いし、何というか、すげぇ⋯⋯」


 超が付くほど田舎者の俺にとっていきなり王都は刺激が強い⋯⋯。

 初めての都会に舞い上がるそんな俺を見て、守衛のおじさんが声をかけてきた。


 「おい君! もしかして明日の冒険者学校の入学試験を受けにきたのか?」


 「そうです! 初めて王都に来たんですが、色々と凄いですね!」


 「テンション上がるのも良いが、スリや暴漢には気を付けろよ? この時期は、君みたいな子を狙った輩が増えるからな。人通りの少ない道には行かないこと! そして財布は肌身離さず持っておくこと! 分かったか?」


 「はーい! ありがとうございます!」


 優しい人だったな。

 まぁそこらへんの暴漢なんて相手にすらならないだろうし、財布はマジックバックの中に入れてあるんだが余計な揉め事は起こしたくないな。

 マジックバックとは、入れ物に魔法を付与することによって中身を異次元にて保存することができるという付与魔法の施された優れアイテムだ。

 以前、修行の一環でファイアドラゴンを倒しに行ったときに、少なくとも体長20メートルほどのファイアドラゴンが20匹は入りきってしまうほどの大きさだと実証している。

 他に優れている点として、中に入っている間は時間そのものが固定されているため腐敗したり温度が変わったりしないということがある。

 そしてこのマジックバックを付与魔法により作ったのは他ならぬ俺だ。

 俺に付与魔法を教えた父さんでもこれほど内容量の多いものは作れないらしい。



 「よし! まずは宿をとって、その後は王都散策といくか! あ、あと父さん母さんの知り合いって人たちに挨拶しに行かないとだな」


 実は、両親から自分たちの知り合いの人たちを訪ねることができるように簡易的な地図を書いてもらっている。

 父さんは元Sランク冒険者だけあって市民の知り合いが多いみたいだし、母さんは人一倍強い正義感から亜人族――エルフやドワーフなど――の差別撤廃活動を行なっていたので、亜人族の人々からの好感度が非常に高いらしい。

 未だに、貴族を中心とした一部の人族による亜人族への差別はなくなっていないという話だが。


 安く泊まれるおすすめの宿はさっきの守衛のおじさんにちゃっかり聞いておいたから、さっそく行ってみるとするか。


***



 俺が訪れたのは、少し地味というか小さめの建物であまり目立たない感じの宿屋だ。


 「すみません。1人部屋って空いてますか?」


 「おう! 1人部屋なら入れるぜ! 1日分でいいか?」


 「2日分でお願いします! いくらですか?」


 「2日分か! なら銅貨5枚だぜ!」


 俺はマジックバックより事前に取り出してあった財布から銅貨を5枚掴んで店主に渡した。

 お金は両親からこれでもかという程に持たされているために心配はしていない。


 ちなみに、貨幣には5種類の硬貨が用いられている。

 値段の低い順から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっており、価値はそれぞれ10倍ずつ増えていく。 

 銅貨1枚=鉄貨10枚、銀貨1枚=銅貨10枚になるってことだ。



 俺は店主のおじさんから鍵を預かり、部屋に入ってみる。


 「これが宿かぁ。1人だけの空間って初めてで、何だか不思議な感じだ」


 実家だと俺はいつもリリィと同じ部屋で過ごしていた。  

 いわゆる子ども部屋ってやつだな。


 「よし! さっそく出発だ!」


 俺は着いたばかりの宿を出て、散策をはじめた。


 当然のことなんだろうが、王都はとても賑わっている。

 大通りには沢山の露店が並んでいるし、少し大通りから離れると、武具屋や恐らく貴族向けであろう洋服店など多種多様な店が構えられている。


 俺が真っ先に向かうのは、鍛冶屋を営むドワーフのレコルさんの店だ。

 王都でも随一の技術を持つ鍛治師らしく、普通だと俺みたいな子どもは相手にしてもらえないだろうが、母さんの知り合いらしいので行ってみる価値はある。

 どうせならできるだけ出来の良い剣を使いたいしな。



 「すみません〜。レコルさんのお店ですか?」


 店の中を覗いてみると、真っ白に伸びた長い髭をたくわえ、丸太のように太い屈強な腕をしたドワーフの男が仏頂面で座っていた。


 「なんだ坊主、お前さんなんかがこの店に来るにはまだ100年早いぞ」


 200年は生きるとされる長寿のドワーフの人から言われると、何とも重みがあるな⋯⋯。


 「母からの紹介で来ました。ロイっていいます。母親の名はエリスです」


 そう告げると、レコルさんの俺を見る目が冷たいものから、とても優しいものに変わった。


 「なんと! お前さんがあのエリス嬢の息子か! よう来たよう来た! 武器を買いに来たのか? どれでも好きなのを持っていっていいぞ!」


 ⋯⋯想像以上の歓迎っぷりだが、どれだけ好かれてるんだあの人。

 しかし、嬢って年齢じゃないと思うんだけどな。


 「よ、よろしくお願いします。俺の体格に合った大きさの剣が欲しいんですが⋯⋯」


 冒険者として活動する際には防具もあった方が良いだろうが、今日のところはまず剣だけで良いだろう。

 俺の希望を伝えると、レコルさんの表情が引き締まり、職人って感じの雰囲気が全開になった。


 「して、お前さんは剣のみで戦うスタイルなのか? それとも魔法と剣の併用か?」


 俺の父親が、あの魔法使いウィードだと知っているからこその質問だろう。


 「魔法と剣の両方を使います!」


 そう言うとレコルさんは少し考えた後、何か思い出したような顔をして店の裏に引っ込んでしまった。

 1分ほど経った後、戻ってきた彼の手には刃渡り50cm程で漆黒の鞘に納められたショートソードが握られていた。


 「魔法と相性の良いミスリルの剣だ。俺の店に置いてあるショートソードの中でも中々の出来だぞ!」


 そう言って、ドヤ顔をしつつ俺に剣を渡してくるレコルさん。

 大人からするとショート扱いだが、子どもの俺からするとショート感は無く、むしろ丁度良さそうだな。


 剣を手に取ると真っ先に違和感に気付いた。

 信じられないくらい軽いのだ。

 まるで中身が空洞になっているかのように軽い。 

 何も知らずに持たされたら模造刀かと間違えてしまうかもしれない程だ。


 驚いてレコルさんに目線を戻すと、何やらニヤニヤしながらこちらを見ている。


 「これは⋯⋯。凄いですね」


 俺は、剣そのものについての知識なんかはほとんど素人だし細かい技術なんかは分からないけど、なんとなくこの剣がすごい業物だってことは理解できる。


 「そいつはお前さんへのプレゼントみたいなもんだ。お代はいらないから、大事に使ってやってくれ!」


 恐らく金貨数枚はするであろう高級品をこんな簡単に人にあげてしまうなんて⋯⋯。

 俺もいつかはこんなカッコいい大人になりたいものだ。


 俺はレコルさんに何度もお礼を言い、そんなことを考えながら店を後にした。

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