第15話 窮奇(キュウキ)

子猫は喜々としてハルトの周りを飛び回り、楽しそうに宙で踊っている様だ。


虎柄の子猫の背中に鳥の翼。

鳥の翼は猛禽類の様だ。


「楽しそうだね……。お前……、そう言えば名前はあるのかな?」


(名前はないにゃ)


突然心に直接響く言葉に驚くハルト。


「今の言葉って、君が話したの?」


喋れる事を知って「お前」から「君」に、呼び方が急に変わったハルト。


(そうにゃ)


「おお! 凄い!」

驚き子猫を見詰めて、動けずにいるハルトに子猫は話し掛ける。


(名前をつけてにゃ)


「そう言えば、名前を聞いたんだった。どんな名前がいいだろう? ……ところで、君はモンスターなの?」


(ん~。モンスターじゃ無いにゃ。セイジュウだにゃ)


「聖獣? なんて名前の聖獣なんだろう?」


(キュウキだにゃ)


「キュウキ? 聞いた事ないなぁ。」


(そうかもにゃ)


「キュウキかぁ。んじゃ、名前はキュウでどうだい?」


(うはぁ、安易だにゃ。まあ、いいにゃ)


「あははは、ネーミングセンスがなくて御免よ」


(しょうがないにゃ)


「よし、進もう。追ってがまだ来るかもしれないしね」


(分かったにゃ、こっちの方が良い気がするにゃ)


キュウはスイーっと飛びながら、先導し始めた。


携帯していた食糧が少なかったので、ダンジョンの中で食事はモンスターの肉がメインとなる。キュウは好き嫌いがなくて、何でも食べるので、キュウの食事に関しては、全く問題がなかった。


問題はハルト、

「腹減ったなぁ……」


(これ美味しいにゃ)


このダンジョンでは虫系のモンスターが多い。


例えば、蜘蛛、蟻、蛾、毛虫、青虫、蜂、蟷螂……。


その中でキュウが勧めてきたのは、蜘蛛のモンスター。


「蜘蛛だろう? 食えるのかぁ?」


背に腹は変えられず食べる事にしたハルト。

しかし、キュウの様に生で食べるのは気が引ける。


「せめて焼いてみるか?」


携帯の火器で蜘蛛の足を炙る。

まわりの皮を剥いで恐る恐る目を閉じて口に入れた。


「ん? 割りとイケる!」


蜘蛛の足は蟹の様な味がして、食べられる事が分かった。


「まあ、この後お腹を壊さなければいいのだけど、取り敢えず即効性の毒はなさそうだ」


蜘蛛の足は食糧として数本持っていく事にした。


その後もキュウの先導でダンジョンを進み、数日が過ぎた。


モンスターを倒して、レベルが上がった事から身体能力が上がった事と、キュウの探知能力は高く、常に先手で攻撃出来た事からモンスターを比較的楽に倒し、モンスターから、魔石や売れば高額になりそうな素材を剥ぎ取りながら進む。


キュウに先導されるままにひとつの部屋にたどり着いた。


(ここに何か良い物がありそうだにゃ)


「良い物って何だよ?」


そこは何も無い部屋。

天井も床も前後左右の壁も土壁だけの部屋だった。

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