恋愛ごっこ

タマ猫さん

第1話 記憶

最近夢を見る。

「私!大きくなったらター君のおよめさんになるね!」

彼女はそう言い、彼の頬に軽く口付けする。

「僕も、ミーちゃんのおむこさんにしてください!」

彼からしたら精一杯の告白だろう。

顔は見えないが、その声色や、俯いた様子から、顔はまるでトマトのように真っ赤に染っているだろう。

子供たちの口約束。いつもそこから夢は始まる。

そして、彼女は言うのだ。

「また、会えるよね?」

瞳に涙を浮かべながら言う彼女に彼はこう答えた。

「うん!きっと!僕が迎えに行くよ!」

ここで夢は終わる。

これは夢だったのか、誰かの記憶なのか、誰かの記憶なのならば、誰の記憶なのだろうか、僕の記憶なわけはない。

あいにく、僕にそんな甘酸っぱい子供時代はない。なぜなら、僕は人見知りで子供の頃から人と話すことなど出来ないからだ。

それに、子供の頃の記憶なら僕ははっきり覚えてる。

なら、誰の記憶なんだろうか。


「またあの夢か、同じ夢見せるくらいなら続きを見せてくれよ。」

そう言いながら、時計を確認する。今は6時半だ、起きるのにはちょうどいい時間だろう。

名残惜しそうに温もりを伝えてくる布団に一時の別れを告げ、夢見心地で洗面台へと向かう。

冷たい水を浴びると意識が覚醒してくる。

「おう、愛斗(マナト)起きたか。」

そう声をかけるのは

僕の父、田中 明夫(タナカ アキオ)

まるで鷹のような顔つきから近所の人から怖がられているのが最近の悩みだという。

「うん、」

僕はそう答え、洗面所を後にする。そして、制服に着替え、スマホ片手に朝ごはんを食べる。

朝ごはんと言っても朝はあまり入らないので、シスコーンに牛乳を入れて食べるだけだ

「愛斗、朝はちゃんと食べないと元気が出ませんよ?」

そう言ったのは、

僕の母である、田中 縁(タナカ ユカリ)

この家庭のカースト最上位に位置するものだ。

力関係は一目瞭然。父が鷹だとしたら、さしずめ母はそれを使役する調教師と言ったところか。

よくもまぁ、あんな鷹のような父を懐柔したものだ。

「うん、でも今日は時間が無いからさ。」

ここから学校まで約30分。8時までに到着しないと生徒指導係、鬼嶋 裕二(キジマ ユウジ) またの名をオニジマに怒られてしまう。それは、どうにかしても避けなければならない。

「もう!明日は食べなさいよ?」

と言う母の言葉を聞き流し、時計を確認する。

もう7時かそろそろ授業の準備を、

「そうえば、今日は転校生が来るって、クラスメールに届いてたわよ?」

転校生か、まぁ、仲良くしたいところだが、正直どうでもいい。程々に仲良くしとけば十分だろう。

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恋愛ごっこ タマ猫さん @Kyu7630

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