第33話

 33



 洗い直す…

 ロダンの言葉が自分の心の内を震わせる。洗い流すのは彼の推理だけでではないだろう。きっとそれは自分にとっても…、に違いない。

「僕が録画したこの動画ですが、これに出て来る老人の言葉を考えてみたのです。詐欺とは一体何なのか?」

 そこでロダンは二つある桐箱から一つの上蓋を外した。すると『三つ鏡(みかがみ)』、いや、正確にはそのレプリカが出て来た。それを撫でる。

「田中さん、恐らく本物は確かに三室魔鵬(みむろまほう)の元から持ち去られたんです。見てください。このレプリカ、縦にも線がある。まるで割れた後を縫合している跡に見えませんか?それ程までに精緻に彼等は創り上げている。それはその後の色んな事や彼自身が病院で美術関係者に語った通りで間違いなく、それが脅迫された虚言であったとしてもです。それでは本物は勿論、あの三人の手元にあり、大事に秘匿され二十年前までレプリカを造り、有馬春次自身の裏ルートでレプリカを本物として密売されていた」

 ロダンが眉間に皺を寄せて険しくなる。

「…おそらく、最初は本物を見せて取引をする。それから暫く本物を相手方に置き、その後何らかの方法でその本物に接して、レプリカとすり替える」

 戸惑いを見せる巡査をちらりと見る。

「勿論です、勿論、それはあまりにも子供騙しの方法だと、田中さん…あなたは思っちゃうかもしれないが、そんなシンプルな方法こそ、意外と分からなく、長く続けることができるでしょ。もしここに犯罪者が居れば長く犯罪を続けるコツと言うものがあるとすれば、それはきっと分かり易く、シンプルだと言うに違いない」

 それから一斉に髪を掻く。

「そうです。きっとそうでしょう。いやいや…ここは僕のあくまで推論です。事実はどんな手段なのかわかりません…しかしどにょうな形であっても彼等はそれらを二十年前まで続けていたと想定思案す」

「二十年前?」

「ええ、正確には1995年まで」

 ロダンが突如言い出した暦に思わず復唱する。

「1995年?」

「ええ、そうです。そこまで本物は在った筈です」

 田中巡査はややもんどり打つような心持ちで彼に問いかける。

「何故?その時なんだ??ロダン君??」

 彼は頭を掻いた手を止めるとゆっくりと田名巡査の方を見た。

「…遂に起きたんです。彼等に不幸が…」

「不幸?」

 巡査が身を乗り出す様にロダンに向き直る。

「それは??一体」

 乗り出した巡査の喉が鳴った。乾いた喉に唾を流し込んだ音。その音の後にロダンの声が響いた。

「阪神大震災ですよ。阪神大震災で、彼等の手にしていた一切合切が壊れてしまったんです。そう『三つ鏡(みかがみ)』も…」

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