23杯目 シオーネさんは今日もきっと飲んでます

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十八日・サーン・天気:晴れ


 この日、私とノンネたち四人は街の郊外にある共同墓地を訪れました。

 林を切り開いて作られたそこは、街の喧騒とは無縁の静寂に包まれた世界。

 その一角に優しい木漏れ日を浴びながらひっそり立つ、まだ新しい墓石が三基。


 刻まれている名は、ハルバ・ランツェ、カブダ・クラーク、ケミア・アルヒミア。

 かつて私たち四人と冒険をともにした友人たち……。埋葬のあと、また来るつもりでずっと足が遠のいていた彼らの墓。


 皆、久しぶりですね……。今までこれなくてごめんなさい……。

 墓石を見つめていると、自然にそんな言葉が溢れてきます。……って、ダメですね。今日はそんなことを言うために来たわけではないのに……。

 ふぅ~、よしっ! 掃除をして色々報告を済ませてしまいましょう!


 気持ちを切り替え作業をすること小一時間。

 全員で協力したおかげか、意外と早く終わりました。

 綺麗になったお墓へ手を合わせ、魔獣ムルシエラゴを討伐したことを報告します。

 ふふっ……仇を討ったことを彼らは喜んでくれるでしょうか?

 ハルバとカブダはなんだかんだで褒めてくれそうですね。でも、ケミアには怒られるかもしれませんねぇ。無理しないでください! とか言って……。


 墓参りを終え、墓地の出口に向かい歩いていると、吹き抜ける一陣の風。

 ふと振り返れば、彼らが木陰で微笑みながら手を振っている姿が、見えたような気がしました……。

 また来ますね……。今度はそんなに遅くならないうちに……また皆で来ます。


 夕方。私たち四人は馴染みの酒場で杯を傾けていました。

 こうしていると、なんだか冒険者時代を思い出しますねぇ……。

 依頼を達成するために一日中走り回って、夜帰ってきたら皆でお酒を飲む。

 今思い出せば、とても充実していて、楽しくて、幸せな時間でした……。


 そうしてお酒を飲んでいると、昼間のこともあってか昔話に花が咲きます。

 シエールって当時はちょくちょく無理をしてマナ欠乏症に陥ってましたよねぇ~。そのたびにグラディやハルバに運ばれて、ケミアが薬を調合してましたっけ……。


 あの頃の様子を思い出しながら笑うと、そのことは忘れてくれたまえよ、と不機嫌そうにそっぽを向くシエール。

 キミだって似たようなモノだろう? ボクは忘れていないよ? 酒場で馬鹿をやって危うくカブダ共々、保安騎士に連行されそうになったことを、って……。


 ははっ、ありましたねぇ。そんな事件も……。でも、アレはカブダが悪いんですよ? 勝手に飲み比べを初めていつの間にか私を巻き込むんですから……。

 グラディとケミアが探しに来てくれなかったら、大変なことになってました……。


 なんて懐かしい話を語り合っていると、にわかに酒場が騒がしくなります。

 視線を向けると、そこには東の霊峰エーベレスで小鬼たちの討伐をおこなっていたA級冒険者パーティの姿が……。

 なるほど、ついに殲滅が完了したんですね。これであの麓周辺の村々も安心して暮らせます。


 とか思っていると、パーティのリーダーらしき男性がこちらへ向かってきます。

 そして私の顔を見るなり、よう、シオーネ。お前さんのおかげで楽に稼げたぜ! 礼と言ってはなんだが、一曲歌ってくれねーか? と重そうな革袋を渡されます。


 どう返事をしようか迷っていると、


「行ってこいよ、シオーネ」

「あぁ、行ってきたまえよ。ボクらはゆっくり飲んでいるから」

「ほら、待たせたら悪いわよ、シオーネ? お仕事、頑張って」


 思い思いの言葉を口にしながら、笑顔で送り出してくれる仲間たち。

 はぁ~……。しかたありませんねぇ。今の私は吟遊詩人ですもんね!


 さぁ! どんな英雄譚がお好みですか? どんな曲でも任せてください!

 私は吟遊詩人のシオーネ! 酔いどれ吟遊詩人のシオーネです!



 今夜のお酒

 ユウヒ オフ(麦酒)(度数3度以上4度未満):一杯

 キックスイの純米酒(度数15):三本と少々


 おつまみ

 お刺身、鶏肉のソテー、サラダ、ご飯

 

 連続飲酒日数:二日目

 最大連続飲酒日数:二十日

 最大連続禁酒日数:二日


 シオーネさんは今日も! 明日も! きっと飲んでます!

 

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酔いどれ異世界吟遊日記  シオーネさんは今日もきっと飲んでます 荒木シオン @SionSumire

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