13杯目 吟遊詩人と報復

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月十八日・シルフ・天気:雨


 目が覚めると時刻はすでにお昼過ぎ。なんですかね……雨の日ってどうしてこう遅くまで寝てしまうんでしょう? 不思議です。

 そう、これは天候のせい。決して飲み過ぎて寝坊したわけではありません。


 遅めの昼食を終えたら、支度をして街の商業区へ。

 目的は馴染みの武具店です。昨夜の件で商売道具にちょっと無理をさせましたからね。予備があるので仕事には困りませんが、早めに点検してもらうに限ります。


 ちなみに楽器店に持ち込まない理由は以前、魔物の素材を使用したリュートの点検を断られたからです。特殊すぎて上手く整備できる自信がないと……。

 それ以来、普段使いの通常品も武具店にお任せしています。まぁ、持って行くたびに、俺も専門じゃねーんだがなぁ、と店主のおじさんに嘆かれますが……。


 リュートを預けたら次に向かう場所はもちろん馴染みの酒場です!

 雨の中出歩いたせいで、すっかり冷えてしまいましたからね! 早く身体を温めないと風邪をひいちゃいます!


 そうして酒場を訪れると……やった! 例の吟遊詩人がいません!

 給仕のお姉さん! お酒とおつまみをお願いします! ふふっ……まだ少し時間は早いですが、もう始めちゃいましょう! 今夜はロングランでいきますよ!


 上機嫌でお酒を飲むこと数杯。身体も温まり、リュートの調律も終えたのでお客さんのリクエストを演奏しようとした瞬間、


「皆さん! あいつ! あいつです! 昨日、私を襲ったのは!」


 店の入り口で大声を上げ、私を指差すのはあの吟遊詩人。背後には紺色の革鎧と外套を身に纏った数人の男たち……。

 うわぁ~、保安騎士を連れてくるとかやめてくださいよ。勇者や聖女たちが自世界の治安維持機構を模して組織したせいか、融通が利かないのに!


 なんて思わず漏らしそうになった愚痴をぐっと飲み込み、愛想笑いを浮かべていると、


「吟遊詩人シオーネ。貴女に暴行容疑がかかっています。詰所までご同行願えますか?」


 有無を言わせぬ表情で問いかけてくる保安騎士。

 これは……不味いです。普通にアウトな気がします。万事休すです。はぁ~、最後にもう少しだけお酒を飲みたかったですね……。

 しかし、大人しくついて行こうとしたその時、


「はい、ストップ。冒険者ギルドおよび女神教会は、そこの男を婦女暴行未遂で保安騎士へ告発します」


 颯爽と間に割って入ってきたのは、紅い眼鏡をかけた金髪エルフの女性。冒険者ギルドマスター、エルフィーナ・シルフィリア、その人でした。


 予想外な人物の登場に驚きの表情を浮かべる保安騎士と顔を青ざめさせる吟遊詩人。これは、もしや助かった? いや、でも油断は禁物ですか……。


 不安に思いつつ無言で事態の行方を見守ります。

 エルフィーナ氏たちが深刻な様子で話し合うこと数分……例の吟遊詩人は縄で縛られ、自らが引き連れてきた保安騎士に連行されていきました。


 その様子にほっと胸を撫で下ろすと、


「また貸し一つよ、シオーネ」


 こちらを見やり楽しげに笑うエルフィーナ氏。

 うぐ……タイミングよく現れたと思ったら……。素直にお礼を言おうと思った私がバカでした。いえ、助かりましたけど! 感謝してますけど!


 はぁ~、前回はまだマシでしたけど、今度はどんな無茶ぶりをされるか……。

 うぅ……とりあえず気分を変えるために飲んで歌いますか。ポロロンポロロン♪



 今夜のお酒

  ユウヒ オフ(麦酒)(度数3度以上4度未満):一杯

 キックスイの純米酒(度数15):三本と少々


 おつまみ

 冷や奴、エビフライ、野菜の天ぷら、大根と青魚の煮染め、おから、ご飯

 

 連続飲酒日数:十四日目


 今日は厄日です……厄日! お酒を飲んで清めないと!

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