第13話 つまりデート

「起きて……」


「んあ……」


「起きて……!」


「……んあ」


「いい加減起きろ‼」


「ふぁっ⁈」


 飛び上がるように体を起こす。

 さっきまでぼんやりとしていた意識が、耳元で叫ばれたせいで完全に目覚め、俺は口をポカーン開けていた。


「慶いつまで寝てんのよ。もう十二時よ?」


「えっマジ?」


 壁にかかった時計を見てみれば、もう時計の針は十二時を回っていた。

 さすがに寝すぎたと思うが、今まで睡眠不足だったことを考えれば、案外妥当な時間に起きたと言っていいだろう。


っていうか、十二時まで寝る羽目になったのは七奈と三咲のせいじゃねーか。


「そんなだらしない生活送ってたら早死にするわよ」


「深夜三時までゾンビ殺してたお前には言われたくなかったよ」


「えっ、何?」


「……何でもないです……」


 目力すごいな……。

 その目力があれば軍隊一つ壊滅させられそうである。(それは大げさ)


「とりあえず顔洗って」


「うぃ」


 七奈に言われるがまま洗面所に移動し、顔を洗う。

 母さんと父さんは土曜日も会社で、三咲はもうすでに部活に行ったらしい。

 

 そのため現在常盤家にいるのは俺と七奈のみ。

 

 それにこうして一緒に顔を洗っていると、なんだか新婚みたいだな、と思った。

 がしかし、それを言ったら、「あ、あんたと新婚⁈ せ、セクハラよそれ!」とツンデレ返しされそうなので言わないでおいた。


「んで七奈はなんで俺の家にいるんだ?」


「べ、別にいいでしょ? 私がいたって……」


「まぁ別にいいんだけどさ」


 そんな会話をしながら冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ぐびっと飲む。

 起きたらまずは水を飲む! これは俺のいわゆるモーニングルーティンというやつだ。


「あと今日、この後町に出かけるわよ」


「町?」


「ひ、久しぶりに遊びに行きたいなと思って」


「お、おう」


「あっべ、別にあんたと一緒に行きたいってわけじゃないんだからね!」


「ハイハイツンデレ乙」


「きぃぃぃぃ‼」


 今日は俺が主権を握ったり!

 

 そう思いながらも、猫のように爪を立てる七奈をなだめ、またペットボトルに口をつけた。




   ***




「待て待てもう夏なのかこれは」


「今日は今年に入って初めての夏日らしいわ。半袖で着て正解ね」


「先生、ありがとうございます」


「ふんっ」


 お礼を言われて恥ずかしがっているのか、照れくさそうに俺から視線をそらした。


 全く可愛いやつめ……。


 そう思いながらも、そういえばこのイベントはあのノートの予言にはなかったなと思う。

 まぁラブコメイベントのすべてがすべて予言されるというわけでもないのか。

 七奈と出かけるのもそう珍しいことではないし。


「さて、今からウィンドウショッピングしましょう!」


「それ男が疲れるめんどいランキング不動の一位のやつ……」


「え? なんて?」


「ウィンドウウィンドウ! わーい!」


「いい子ね」


 何このSMプレイみたいなやつは。

 俺と七奈の立ち位置こんなんじゃなかったよね⁈ ってか、俺完全に七奈に手なずけられてんじゃねーか。


 ただ、この幼馴染は強いので逆らえまい。


 本心を言えば、このクソ暑い中人がごった返す中を歩きたくねぇ日本広くなれ、と思っている。


「早く行きましょ!」


「あいー」


 しかし俺に発言権はなく、七奈の後について行った。

 

 これをデートというのかはわからない。

 幼馴染なので二人で出かけるのは普通だし、七奈はそういう気があって俺を誘ったのかも俺にはわからない。


 だからこそ、これは俺の独断と偏見で判断できる。


 よし、これはデートだ。


 ってなわけで、デートが始まった。


 

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