突如現れたノートがこれから起こるラブコメ展開をネタバレしてくれるようになったのだが

本町かまくら

第1話 始まりのノート

「すまん七奈。今日俺日直だから黒板掃除しないと」


「そ、そうなのね……まぁ誠心誠意磨くことね!」


「いやお前も手伝ってくれよ!」


「イヤ‼」


 高校二年生になって今更イヤイヤ期が到来した俺の幼馴染、星川七奈(ほしかわなな)にあきれてため息をこぼし、俺はスクールバッグを机に置いて黒板消しを取った。

 

 至福の放課後の時間がやってきて、緩んだ教室をクラスメイト達がどんどん出ていく。

 皆大半は部活だ。勉強をした後に部活動にいそしむその健康さと健康さ! 帰宅部で体力のない俺には眩しい。


 ちなみに俺の名前は常盤慶(ときわけい)。

 名前だけはイケメンだが名前負けしている今作の主人公だうるせーよ!


 俺はせっせと黒板をきれいにしていく。 

 今どき黒板消しクリーナーもないとはなんと貧乏な学校なんだ。まぁ公立高校だから仕方がないんだが。

 校舎ボロいし。


 もう一度ため息をついたところで、「よっ」と肩をたたかれる。


「肩折れたから今すぐ治療費として黒板を俺の代わりに消せ」


「お前の仕事をとっちゃいかん。お前のためにここは先に帰ってやるよ」


「冷やかしかよ」


 冷やかしに来たこのお調子者は、中学からの同級生である榊田大夢(さかきだひろむ)。今のでわかったと思うが軽薄な奴である。(俺調べ)


 ただこういうやつに限って女子にモテるのが納得いかん。

 いや、俺がモテないことを逆恨みして愚痴ってるってわけじゃないからな? おい疑いの眼差しを俺に向けるな。


「じゃあ頑張れよー」


「うっせ」


 小さく手を振って、大夢は教室を後にした。

 なんだかんだで教室は、俺と七奈の二人だけになる。


 七奈と俺は家が隣なため登下校を共にしている。そのため、いつもこうしてどちらかに放課後、用事がある場合は、長時間でなければ待って一緒に帰るというのが、昔からのルールなのだ。

 

「早く帰りたいのなら手伝ってくれればいいのになぁ」


「私、黒板消し持つと両手に持って人の顔をはさみたくなる禁断症状出ちゃうのよ。それでもいいなら喜んではさんであげるけど?」


「……遠慮しときます……」


「最初から言わないでよねー!」


 肘を机について、外を見ながらそう言う。 

 とんでもないことを言う幼馴染だが、こうしてみればやはり美少女なのだ。


 赤いツインテールの髪は印象的で七奈のツンデレ具合にマッチしているのでとてもよく似合っている。

 さらにルビーと同じような輝きを放つ、赤い瞳は少女漫画のヒロインとまではいかないが一般人と比べたら大きいし、くりくりしている。

 いつも仏頂面で不貞腐れたような顔をしているが、たまに見せるデレた顔はツンツンしている分最高に可愛い。


 とまぁこんな風に幼馴染を絶賛している俺を「何よ。早く掃除しなさいよ」と言わんばかりににらみつけてくる七奈。


 全く動く気配はないので、手伝ってもらおうという期待は捨てることにした。

 周囲が冷たいですはい。


「あとわ、私……今日はこの後用事あるから……」


 スクールバッグを片手に立ち上がって、そう言う。


「えっマジ? あと十分くらいで終わるから、できれば待っててほしいんだけど……」


「あと十分⁈ いけない! 今すぐ行かなくちゃ!」


「ちょ、七奈⁈」


 教室からすぐさま出ようとする七奈を呼び止める。

 が、しかし——


「ほんと時間ないから先帰るわね! じゃあ黒板綺麗にすると同時にその腐りきった心も綺麗にしてね! じゃね!」


「最後の一言がクソ余計なんですけどー‼」


 そう叫んだころにはもうすでに七奈は走り去ってしまい、俺一人だけが教室にポツンと残されてしまった。

 とてつもない孤独感に襲われて、今俺に寄り添ってくれるのは黒板消しだけなんだなと錯覚。


 友達に見捨てられたことを悲しみながら、俺はその気持ちを拭うように黒板を綺麗にしていった。




    ***




 黒板を完璧にきれいにし終わった後、清々しい気持ちで帰路に着いた。

 黒板とひたむきに向き合っていたら、なんだかムカムカしていた気持ちも晴れ、汚れと一緒にきれいさっぱりじゃねばいばい。

 

 昔校長先生が、「掃除は心を磨きますからねー」と言っていたが、どうやらそれは本当らしい。

 

 それに小学生のころ黒板消し担当やってたから、なんだか童心にかえれた。

 あの頃は黒板を無我夢中で消してたな。あの時も、一人だったけど。


 悲しい思い出に花を咲かせてしまいながらも、途中コンビニで適当に甘いものを購入して家に到着。

 

「ただいまー」


 玄関に入った時に、ちょうどアイスを銜えた俺の妹、三咲と目が合った。


「おかへりー」


「アイスくわえたまましゃべんな。おとすぞ?」


「私に限ってそんなことはないよ。何年アイス食べてきたと思ってんの」


「しょうもないなおい」


 そんなツッコみを入れながら靴を脱ぎ、家に上がる。

 

 三咲の視線が、俺の顔から下がって左手に下がったコンビニの袋に移動。

 コンビニの袋をロックオンした瞬間、パーっと花咲くように、三咲の表情が明るくなった。


「そのシルエット! さてはお兄ちゃん、私の機嫌を取りにきたな~? 何が望みだ! 何が望みなんだ!」


「わがままを卒業して大人になってくれること」


「何言ってんの私はもうお・と・な!」


 堂々と胸を張りながらそう言う三咲。

 しかしながら、大人というにはちょいと張る胸が小物な感じがするんだが……中学二年生だしな。

 うん、ドンマイ。


 とりあえず「ふっ」っと鼻で笑っておく。


「うわぁぁセクハラお兄ちゃんだぁぁ‼ 妹にセクハラして楽しんでるセクハラお兄ちゃんがいるよぉぉ‼ お母さん! 今すぐ児童相談所に連絡を!」


「おいやめろ! セクハラなんてしてねぇ! とりあえずこれだこれ。ほれ。シュークリームだぞ!」


 コンビニの袋からすっとシュークリームを差し出すと、シュパッと奪われる。


「……最初からそうしたまえ」


「……くそう」


 俺の家では女性の方が強い。

 俺はこうして妹のいうことを従順に聞くしかないのだ。


 別にそもそもあげるつもりで買ってきたので、今更ムカついたりはしないけど。


「ひゃっほーい! 今日は祭りだー!」


「アイスちゃんと食ってからにしろよー」


「へいへいよー!」


 全く調子のいいやつだなと思いながら二階へと上がる。

 上がってすぐのところに俺の部屋があり、俺は真っ先に自分の部屋に入った。


 趣味がないので、簡素でなんの面白みもない部屋。

 加えて何度もこの部屋を見てきているので、味がしなくなったガムを通り越してそもそも噛んでない。何言ってんの俺。


「ん? なんだこれ」


 制服をハンガーにかけたところで、ふと机の上にあるものが目に入った。

 ライトと時計のみの机に、ポツンと見慣れないノートが置いてある。


 七奈がよく俺の家にくるので七奈の忘れ物か、それとも三咲の忘れ物かななんて思いながら手に取ってみるが、名前はどこに書かれておらず、見るからに新品そう。


 不思議に思ってぺらっと一枚めくってみると、そこには一文だけこう書かれていた。




『明日、お風呂からあがって部屋に入ってみると、幼馴染がベッドで寝ている』


 


 それ以外に何も書かれていない。 

 ど真ん中に堂々と、この一文のみ。


「なんだこれ。ラノベかよ」


 そうツッコみを入れる。

 誰かのいたづらなのか、それとも寝ている間に俺が寝ぼけながら書いたのか。何なのかはわからないが、バカげたノートだなと思った。


 だから俺は特にこのノートについて詮索せずに、ベッドにポイっと放っておいた。



 

 この時の俺は全く予測していなかった。

 

 この突如現れたノートから、俺の青春がガラリと変わってしまうなんてことを——

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