第5話 宝箱

「吐きそう……」


 俺の目の前に、原形をとどめていないグレートゴブリンの死体の山がある。


 なぜこんなことになったのか。

 話は少し前にさかのぼる。


 部屋を出た直後、グレートゴブリンの群れと遭遇した。


 ゴブリン達は突然現れた俺に驚いていたが、すぐに攻撃を仕掛けてきた。


 しかし、パワードスーツを装着した俺に対して、ゴブリン達の攻撃は全く通用しなかった。


 攻撃が全く通らず、信じられないようなものを見る目つきで警戒しているゴブリン達に対し、俺はどうやって反撃しようか悩んでいた。


『プラズマエネルギーを、直径8cmぐらいボールような形で手に溜めて、それを放つ、プラズマショットの使用を推奨します』


 エルノアに言われた通りに、右手にプラズマエネルギーを溜め、プラズマショットをゴブリン達に向かって放った。


 結果は冒頭のような、かなりショッキングなものだった。


 プラズマ弾は一瞬でゴブリン達の上半身を消し炭にし、岩を貫通した。


 冒険者という職業柄、モンスターや人の死体にはある程度耐性があるが、ここまで気持ち悪いモノは見たことがない。


 今でも若干吐きそうである。


『予想外の結果ですね』

「……この技って、本来はどんな使用用途なの?」

『対パワードスーツ用の牽制技です』

「牽制技でこの威力か……」


 牽制技ですらこの有様なら、これより威力がある技をぶつけたらどうなるのだろうか。


 そういえば、プラズマナックルを受けたミノタウロスの顔は破裂したんだっけ。

 うげぇ。思い出したせいで、また吐きそうになる。


『これより威力がある技にプラズマキャノン、プラズマキック、プラズマフォースがあります』

「……当分は格闘とプラズマショットで倒していこう」


 心に固く誓った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 気を取り直して探索を再開したが、かなり順調だ。


 なぜなら、パワードスーツ――シルバーメタルスーツが予想以上に強いからだ。


 まず、暗闇から一撃必殺の攻撃を放つダークスパイダーに遭遇しても、暗視モードで敵の位置が丸見えなので、そこに向かってプラズマショットを放てば楽に倒すことができる。


 次にサイレントスネークだが、目による状態異常攻撃はスーツには通用しないので、プラズマショットを放つことなく近づいて仕留めることができる。


 ジェノサイドコカトリスは、バカの一つ覚えみたいにこちらに向かって突進攻撃をしてくるだけなので、適当にガードして殴れば終わる。


 スーツを装着する前は、マシンガン魔法で威力の弱い魔法を大量にぶつけて倒していたので、ワンパンで終わる今と比べると雲泥の差だ。


 ただ、スーツを装着してモンスターを倒すのは楽だけど、パワーを出しすぎると原形をとどめない物体ができてしまうので、そうならないように気をつけている。


 ちなみに、倒したモンスターはボックスの中に収納している。


 ダンジョン脱出後に、冒険者ギルドにモンスターの買取を依頼するためだ。

 傷が無いほど買取額は高くなっていくので、なるべく原形があるように、そして傷が無いように倒している。

 といっても、格闘かプラズマショットで倒しているので、傷がないモンスターはほとんどいないのだが。


 それから探索中は、エルノアにマッピングをしてもらっている。


 スーツには自分が歩いた道を、エルノアのデータバンクに保存する、自動マッピング機能があるようだ。

 おかげで、同じ道を歩くことはなくいし、迷うこともない。


 そして、奈落の中を隈なく探索して数日、下へと続く階段を見つけた。


『あの階段は、コロニーの外壁の階段です』

「!」

『やはりコロニーは、奈落の中に埋もれていた……』


 その階段は、木や石で作られたのではなく、明らかに人工物、例えば何かしらの金属で作られたように見えた。


 階段を今すぐ降りるかどうか相談したが、結局すぐに降りることになった。


 これ以上、この奈落を探索してもなにも見つからないし、もしかしたらあの階段を降りた先に、コロニーがあるかもしれない。


 不安がありながらも、階段を降りていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「すごいな……まるで映画の世界のようだ」

『私からしてみれば、よく見た光景ですが』


 階段を降りて目にしたのは、SF映画で見たことがあるような、宇宙基地のような部屋だった。


 こんな作りの部屋は、この世界にはないはずだ。

 つまりここは、エルノア達が乗ってきたコロニーだろう。


「なぁ、エルノアはこのコロニーに乗って、この世界にやってきたんだろ? だったらさ、ここのマップとかあるか?」

『今、私のデータバンク内を検索しています……ヒットしました。頭部モニターに映します』


 俺の視界にコロニーのマップが映し出された。

 フロアごとに細かいマップが表示されている。


 現在俺達がいるのは、コロニーの外に出るための作業室のようだ。


「これがマップか……とりあえず、どこを目指す?」

『ここから離れた場所にある、中央管制室を目指しましょう。そこに行けば私のヒューマノイドの現在地が分かるかもしれません』


 中央管制室に赤いマークが付けられた。

 そこに行けばいいんだな。


『ですがそこに行く前に、コロニーの電力を回復させる必要があります』

「コロニーの電力を? どうして?」

『電力がなければ、中央管制室の扉は開かないようになっています』

「そういうことか、分かった。まずは電力を回復させよう。それで、今からどこに行けばいい?」

『ここから下に降っていけば、電力を管理している電力制御室に着きます。マップ上に青いマークを付けたのでそこに向かいましょう』


 マップを見ながら電力制御室に向かう。

 道中、モンスターに遭遇することはなかった。


 流石に、コロニーの中を住処にしているモンスターはいないだろう。


 そう思っていた時、ある物を見つけた。


「宝箱だ」

『宝箱?』


 そう、宝箱。

 ダンジョンでおなじみの、あの宝箱である。


「コロニーの中にダンジョンの宝箱があるということは、もしかしたらここは寄生型ダンジョンか?」


 ダンジョンとは、大気中のマナが凝縮して生まれたダンジョンコアによって、生成された迷宮のことである。


 ダンジョンコアがダンジョンを生成する目的は、ダンジョンで死んだ探索者やモンスターからマナを吸収し、成長するためだ。


 また、ダンジョンは2つのタイプに分かれる。


 1つ目は、洞窟のような形をした自然型ダンジョン。

 2つ目は、建物にダンジョンコアが寄生した寄生型ダンジョン。


 そして寄生型ダンジョンは、寄生した建物に近いほど宝箱やボスを配置する特徴がある。


 宝箱で探索者を奥まで誘い、ボスに倒されることで、そのマナを吸収する。


 今までここのダンジョンは、規模が小さい自然型ダンジョンだと言われていたが、本当は地下深く埋もれたコロニーに寄生して生まれた、寄生型ダンジョンだろう。


 地上までダンジョンが伸びていることを考えれば、ダンジョンコアはかなり成長しているはずだ。


 とはいえ、これ以上ダンジョンのことを考えても時間の無駄だ。


 とりあえず、宝箱の中身を確認しよう。


「我にことわりを示せ。鑑定」

『……何度聞いても恥ずかしいですね』 


 エルノアからの詠唱に対する感想を無視しつつ、中身を確認する。


 宝箱:電力制御室の鍵。


「あの中に電力制御室の鍵があるようだ」

『電力制御室の鍵ですか。どうしてその鍵が宝箱の中に入っているのでしょうか?』

「もしかしたら、ボス部屋の鍵だったりしてな」


 寄生型ダンジョンには、寄生した建物の鍵がボス部屋の鍵に変化するという特徴もある。


『もし電力制御室がボス部屋になっていたらどうしますか? 引き返しますか?』

「いや、ボス部屋だったら余計に引き返したくないな。電力を回復させるためにボスを倒す……SF映画やゲームみたいでワクワクしない?」

『ここはファンタジーな世界ですよ? ですが、その部屋に入らない限り先に進むことはできません。全力で支援します』

「期待しているよ、エルノア」


 ボス部屋だろうが電力制御室だろうが、俺達は先に進むしかない。

 電力が回復しないと、中央管制室に行くことができないのだから。


 宝箱から鍵を取り出し、前に進んでいく。


 そしてついに、電力制御室の前までたどり着いた。


 だが、その部屋の扉は異彩を放っていた。


 まるでボス部屋の扉のように。

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