第6話 強敵

 パワードスーツを調整するため、変身を解除した。

 

 エルノアがスーツを調整している間、俺はボックスから携帯食料とコップを取り出し休憩をとっている。


『調整が完了しました。いつでも装着できます』

「こっちも準備OKだ。それじゃあ、変身」


 準備が整った俺は、電力制御室の扉を開いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「部屋の中は……広いな」

『ええ、マップに記され以上の広さです』


 マップには、電力制御室の広さは縦が約24m、横が約11mのテニスコートぐらいの大きさだと記されている。


 しかし、この部屋の広さはそれを軽く超えている。


『計算しましたが、直径約100m、高さ約30mの円形のスタジアムのような形をしています』

「広すぎないか?」

『何かしらの外部要因のせいで、広くなったと推測します』

「外部要因か……」


 それなら心当たりがある。


 ここのダンジョンは寄生型ダンジョンなので、ダンジョンコアがこの電力制御室に寄生し、ここで成長したのだろう。


 ダンジョンコアの成長にあわせて、部屋の形が変わったと考えて間違いない。


 そしてダンジョンのボスは、ダンジョンコアが寄生した建物や部屋に出現する。


『部屋の中心位置に、生体反応が!』


 そこには、高さ5mはありそうなクリスタルで出来た巨人がいた。

 巨人の両腕はかなり発達しており、前傾姿勢をとっている。


「我にことわりを示せ、鑑定」


 鑑定を発動し、巨人の正体を確かめる。


 クリスタルゴーレム:異星のコロニーに寄生して生まれたダンジョン、ルーヴィルダンジョンのボス。クリスタルで出来たゴーレム。属性耐性あり。


「クリスタルゴーレム!?」


 ゴーレムは鉱物や金属で出来た、非常に硬いモンスターだ。

 硬いだけでも厄介なのに、属性耐性があるのはチートすぎる。


 魔法はともかく、スーツの攻撃が通らないかもしれない。

 パワードスーツの主な攻撃はプラズマだが、プラズマはに分類されるからだ。


「アイツ、倒せるか分からない」

『引き返しますか?』

「そうしたいが」


 後を振り返ると、扉が閉まっていた。


『戦うしかないようですね』

「そのようだな……」


 どのみち、あのゴーレムを倒さないと先に進むことができない。


「覚悟を決めるしかない」


 俺は戦闘態勢に入った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 こちらの戦闘態勢に気づいたのか、クリスタルゴーレムが動き出した。


 ゴーレムの正面に、魔法陣が浮かび上がる。


「魔法がくるぞ」

『空中に飛んで逃げましょう』


 スーツの両手両足にプラズマエネルギーを溜めて、ジャンプした。

 するとプラズマエネルギーを常に放出され、空中に浮くことができた。


「そういえば、このスーツって空を飛ぶことができたんだっけ?」

『知らなかったんですか?』

「今まで空を飛ぶことがなかったからな……って魔法が来た!」


 ゴレームが発動したバーニングランスを空中で避ける。


 バーニングランスは何度も発射されたが、それに当たることはなかった。


「思ってたより飛べているんだけど、俺ってセンスある?」

『センスと言うか、寝ている間に行っていた睡眠学習のおかげですね』

「睡眠学習? なんだそれは?」

『今は戦いに集中してください』

「いやだから……うわ!」


 今度は水魔法、ウォーターカッターが飛んできた。

 あれに当たると、パワードスーツですら貫通しそうだ。


「色々と気になることはあるけど、話はあとだ! バーニングランス!」


 お返しに、マシンガン魔法でバーニングランスを放つ。


 しかし……。


『謎の壁に魔法が吸収されています』

「なんであの魔法が使えるんだ!」


 ゴーレムは、魔法を吸収する、マジックドレインシールドで周りを囲んでいる。

 あのシールドはBランクまでの魔法を吸収するので、俺の魔法は通用しない。


「シールドで魔法を吸収したり、属性耐性があったり、あのゴーレムはクソだろ」


 俺が愚痴ってる間も、ゴーレムの攻撃は続いている。


『上からつららが!』


 天井からつららが落ちてきた。

 氷魔法、アイスクルニードルだ。


 あれに当たれば、氷漬けになってしまう。


 有効な手段が思いつかないまま、回避に専念する。


「くっそどうする? どうすればいい?」


 魔法はシールドに吸収される。


 今はかろうじて回避しているが、一生回避を続けるのは不可能だ。


『プラズマキャノンで攻撃しましょう』

「プラズマキャノンを? でもプラズマは雷属性だろ!」

『たしかに雷属性かもしれません。ですがパワードスーツはアーテラで作らたものです。この世界の法則を無視できる可能性はあります』

「そんな可能性なんて……いや、あるのか?」


 パワードスーツはアーテラの星で作られたもの。

 アーマーはもちろん、動力源のプラズマエネルギーには、この世界の素材が使われていない。


 そんな素材から生み出される攻撃は、この世界の法則に当てはまることができるのだろうか?


 世界の法則に当てはまらないなら、それは属性の無い、無属性になる。


「分かった。プラズマキャノンだな」


 ここで考えても仕方がない。

 直接ぶつけて、確かめてやる。


『プラズマショットより、大きなプラズマエネルギーを腕に溜めるイメージをしてください』


 言われたとおりにイメージをする。


 しかし、俺の行動に気づいたのか、ゴーレムの攻撃が激しさを増す。


「ここから反撃だというのに!」


 必死に魔法を避ける。

 避けきれない魔法が体の一部をかすっていくが、それを気にする余裕はない。


「エルノア! 俺の代わりにエネルギーを溜めろ」

『不可能です。私はただの管理用AIですよ。エネルギーを溜めるイメージなんて……』

「お前は管理用AIだが、電子生命体でもあるだろ! 生命体なら、自分で考え、意思を持つ。だったらお前もイメージができるはずだ!」

『……! 分かりました。やってみます』

「その意気だ! 俺は回避に専念する!」


 これは賭けだ。

 はたしてエルノアに、そんなことができるか分からない。

 だけど今は、この賭けに出るしかない。


『胸中央のリアクターから、プラズマエネルギーを右腕に溜めるイメージ……できました!』


 俺の右腕にプラズマエネルギーが溜まるのを感じる。


 この賭けは俺の勝ちのようだ。


 空中でゴーレムの攻撃を避けながら、右腕をゴーレムに向ける。


「プラズマキャノン!」

「……!」


 解き放たれたプラズマの塊は、ゴーレムのシールドを打ち破り、左肩を貫通して左腕を粉砕した。


「ウオオオオオ!」


 攻撃を受けたゴーレムは、痛みから叫び声をあげる。


 だがしかし。


『砕け散ったクリスタルが、左肩に集まっていきます』


 ゴーレムは、体内にあるコアを破壊しない限り何度でも再生する。

 つまりアイツを倒すには、より強力なプラズマエネルギーをぶつけるしかない。


『もう一度、プラズマキャノンを撃ちますか?』

「それしかないだろうな……いや、待て」


 再生しているゴーレムの左腕に注目した。

 クリスタルだけでなく、クリスタルの破片についた土も一緒に取り込んでいる。


「アイツの体内に直接プラズマエネルギーを入れれば、倒せるかもしれない」


 しかし、その方法が思いつかない。


『それでしたら、プラズマキックでゴーレムの体を貫通し、ゴーレムが回復している時に、あえて体に取り込まれて、スーツ全体からエネルギーを放出するのはどうでしょう?』

「それだ!」


 エルノアからの提案を受け、右足にプラズマエネルギーを溜める。


 ゴーレムは反撃をしてくるが、さっきと比べて魔法の激しさはなく、避けることは難しくない。


『エネルギーが溜まりました。プラズマキックが使用できます』


 十分な距離を取るため、ゴーレムから離れる。


 ゴーレムは次の攻撃が最後の一撃だと気づいたのか、攻撃をやめ、防御姿勢で待ち構える。


「ここで決める」


 空中からゴレームに急接近し、跳び蹴りをするような姿勢をする。


「いけえええ!」


 プラズマキックを放つ。


 ゴーレムのシールドと右腕を破壊し、ゴーレムの体を貫通する。


「ウウウウウウ!」


 傷ついたゴーレムは体を回復するため、散らばったクリスタルを体内に取り込む。


「今だ!」


 俺はわざとゴーレムの体内に飛び込み、スーツ全体からフルパワーのプラズマエネルギーを放出した。


「ウウウオオオオ!」


 体全体にプラズマエネルギーが駆け巡ったゴレームは、大量のエネルギーを吸収し、苦しみだす。


 そして――。


「ウオオオォ!」


 クリスタルゴーレムは、コアごと木っ端微塵に破裂した。


「うわ!」


 その衝撃に巻き込まれた俺は、地面に思いっきり激突し転がり込んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「痛い……ヒール」


 回復魔法を唱え、痛みを回復させる。

 パワードスーツが無かったら、クリスタルゴーレムに巻き込まれて死んでいた。


『なんとか勝ちましたね』 

「ああ、なんとかな」


 痛みがなくなったあと立ち上がり、周りを見渡す。


 ゴーレムの残骸があたりに散らばっていた。


「ボスを倒したな」

『そうですね。ですが残念なことに、ここにはもう電力制御室の面影が無いです』

「そうだな……」


 電力制御室に寄生したダンジョンコアによって、この部屋は完全にボス部屋に変わってしまった。


『仕方がありません。別の電力制御室に向かいましょう』

「えっ、電力制御室はここだけじゃないの?」

『なにを言ってるんですか? コロニーの電力を制御する部屋が、一部屋しかないのはおかしいでしょう』

「先に言えよ!」


 今までの戦闘は、いったいなんだったのか。


 ゴーレムの残骸を見つめる。


 すまんな、クリスタルゴーレム。

 エルノアのせいで、とんだとばっちりを食わせてしまって。


 そう思っていた矢先、あるものを見つける。


『地面に剣が刺さっています』

「今まであんなところに剣なんてあったか?」


 鑑定で剣を確認する。


 変幻自在の魔剣・ヴァリアブルソード:エスティバが生成したワールドウェポン。契約者の想像によって姿形を変える。アーテラのテクノロジーを参考にして作られた変幻自在の魔剣。


 ワールドウェポン?


 それは、見たことも聞いたこともない武器だった。

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