第2話 変身

 ミノタウロス!?

 こんなところで遭遇するようなモンスターじゃないだろ!


「グウゥゥゥ」


 ミノタウロスはニヤニヤしながら俺を見ている。

 俺のことを餌だと思っているのか?


 ミノタウロスから離れるため、ゆっくり後ろに下がるが、それに合わせるようにミノタウロスは俺に近づいてくる。

 鑑定を使いたいが、詠唱している間に攻撃されるかもしれない。

 だが、まだハルバートが届くような距離じゃない。

 ならば、ここは先手必勝!


「バーニングランス・マシンガン!」


 俺が使える最も威力が高い炎魔法、バーニングランスを、マシンガンのようにミノタウロスの顔面に向けて打ち続ける。

 ミノタウロスには魔法耐性があると聞いたことがあるが、流石にこの魔法をくらえば、死ぬことはなくても傷つくことはあるはずだ。


「グウウウ……」


 魔法をくらったミノタウロスは後退りした。


 そして顔に傷が……まったくなかった。

 それどころか、完全に怒っている。


「グワアア!!」


 咆哮が響き渡る。


「やばい!」


 俺は全速力で逃げた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「グオオオ!」


 ミノタウロスが追いかけてくる。


 無我夢中で逃げているので、今どこを走っているのか分からない。


「ギャアアア!」

「クワアアアア!!」


 モンスターの断末魔が聞こえるが、後ろを振り返る余裕なんて無い。 

 ミノタウロスとの距離が、だんだん近づいてくる。


「ハァ……ハァ……」


 俺の方は、スタミナの限界が近い。

 あんな化け物のように、全速力で走り続けるスタミナなんてあるはずがない。

 スタミナを回復する魔法が使えればいいが、そんな魔法は聞いたことがない。


「ハァ、ハァ……ハァ、ハァ……」


 足が重たくなってくる。

 ミノタウロスとの距離が、刻一刻と近づいてくる。


 どうする?

 立ち向かうか?


 だが、ミノタウロスに有効な魔法は、俺にはない。


 だったら大人しく殺されるか?

 永遠に逃げ続けることは、できないのだから。


 諦めかけていたその時、前からドアが見えてきた。


「ドア!?」


 あそこのドアに入るか?

 別のダンジョンに通じているかもしれない。

 モンスターハウスかもしれない。


 だけど、まだ生き残るチャンスはある。

 仮にモンスターハウスだったら、入った時に考えればいいだろ。


「うおおおおお!」


 残ってるスタミナを全て使って、ドアに向かって全速力で走る。

 そして――。


「ひらけええええええええ!」


 ドアに向かって、タックルした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「うわ!」


 タックルでドアを無理やり開け、部屋の中に倒れ込んだ。

 

 慌てて起き上がり部屋の中を見渡すと、部屋の中央に、ペンダントが置かれた台座を見つけた。


「なんだあのペンダントは?」

『なんだ……とは失礼ですね』

「誰だ!」


 どこからか、声が聞こえる。

 無機質というか、システム的な謎の声だ。


『私の声が聞こえますか?』

「聞こえる! だけどどこにいる!」

『あなたの目の前にいますよ』

「俺の目の前?」


 まさか、ペンダントの中にいるのか?


『ええ。そのまさかです』

「そ、そうか……なぁ、あんたアーティファクトか? 古代文明の武器みたいな」

『アーティファクト? それはいったい何でしょうか? 私はアーティファクトではありませんよ』


 アーティファクトじゃない?

 だったらこのペンダントは、いったい何だ?


『その様子だとかなり慌てているようですね。私はシ「グオオオオオオオオオ!」 今のはいったい?』

「やばい、ミノタウロスが追いついてきた!」


 ドン!

 ミノタウロスはドアを破壊し、部屋の中に入ってきた。


『どうやら、あちらのお客さんに追われているようですね』

「ああ、そうだよ。もう絶望的な状況だ」

『なぜですか?』

「あのミノタウロスに、今から殺されるからだよ!」


 ああ、だめだ。

 今度こそ、おしまいかもしれない。


「アイツから必死に逃げて、この部屋に入ったけど、部屋の中にあったのは、台座に飾られた謎のペンダントだけ!」

『ほう、謎のペンダントとは失礼ですね……このペンダントは、シルバーメタルスーツを装着することができる、変身アイテムだというのに』

「シルバーメタルスーツ?」


 それって、あれだよな。

 映画「ザ・パワードマン」で主人公が装着するパワードスーツ。

 この世界に、そんなものがあるはずがない。

 だけど、もしその話が本当なら、なんとかなるかもしれない。


「このペンダントは、本物なのか?」

『本物? ええ、そうです。ちなみにパワードスーツを装着するには……』

「ペンダントを身につけて、変身って言えばいいんだろ!」


 俺は台座からペンダントを取り、首にかける。


『変身方法を知っているのですね』

「まぁな。でも詳しい話は、アイツを倒した後だ」


 ミノタウロスは鼻息をたてながら、ゆっくり近づいてくる。

 俺を殺して、その肉を食べるつもりだろう。


 そんなことはさせない。

 死ぬのはお前の方だ!


「変身!」


 その瞬間、部屋が光に包まれた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ペンダントは形を変え、俺の体は、なにか流動体のモノに包まれる。

 嫌悪感や違和感が全く感じない。

 むしろ体にフィットして、気持ちいいぐらいだ。


 そして光が収まる。

 俺はパワードスーツ――シルバーメタルスーツを装着した。


『変身が成功しましたね』


 頭部モニターから、謎の声が聞こえる。

 

「成功したな。これでアイツを倒せる!」


 ミノタウロスは、突然パワードスーツを装着した俺を警戒している。


 無理もない。

 今まで餌としか思ってなかった人間が、一瞬で謎の鎧を着ているのだから。

 誰だって驚くはずだ。


 警戒しているミノタウロスとは対象的に、俺はこれから何をするべきなのか、理解している。

 ヴィランミノタウロスを倒す。

 

「さぁ来いミノタウロス! お前の餌が、目の前にあるぞ!」

「グワアアアアアアア!」


 挑発を受けたミノタウロスは、怒りをあらわにする。


「グオオオオ!」


 ミノタウロスは俺めがけて突進してきた。


「来る!」


 両手を構え、突進を正面から受け止める。

 

 ドオン!

 突進を止めた衝撃音が、部屋に響く。


 驚くほど簡単に、ミノタウロスの突進を止めることができた。

 そして、このスーツはだと理解した。


「グウウウ……」


 突進を止められたミノタウロスは、信じられないものを見るような目つきで後ずさりする。


「そのまま後ろに下がって、ハルバートでも拾っていろ!」


 ミノタウロスをあえて挑発し、ハルバートを拾わせる時間を作った。


 その間に、俺は右手にプラズマエネルギーが溜まるイメージをする。


 シルバーメタルスーツは、装着者のイメージを読み取る。

 装着者がイメージをすれば、例えば動力源のプラズマエネルギーを、右手に溜めることができるはずだ。

 そして俺のイメージに沿うように、胸中央のリアクターから、右手に向かってプラズマエネルギーが溜まっていくのを感じた。


「今だ!」


 ハルバートを拾ったミノタウロスに飛びつき、右手に溜めたプラズマエネルギーを、ミノタウロスの顔面に叩きつける!


「プラズマナックル!」


 ドカン!

 プラズマナックルに耐えられなかったミノタウロスの頭は、破裂した。

 頭を失ったミノタウロスは、そのまま後ろに倒れた。


 やったのか?


『素晴らしいです! 初変身でここまで使いこなせるとは』


 あっけなく終わったが、現実感はまるでなかった。


 戦闘が終わって緊張が解けた俺は、パワードスーツを装着したまま仰向けに倒れた。


『あの~! もしもし? そのまま倒れられると、何もできないのですが』

「……ごめん。さっきまでコイツから逃げてきたから……休ませて……」

『いや、だからですね。変身を解除して……』


 何か言ってる気がするが、俺はそのまま寝てしまった。

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