第24話 ナーガ

「カイト・ブレイトバーグ。この迷宮を制覇するものさっ!」

「制覇……だと……? ハッハッハッハ! 大きく出たな小僧!」


 愉快そうに笑ってくれちゃって……

 にしても、なんで隠形がバレちゃったんだろう? 魔力の感知は……多分されていないと思いたいけど、それは希望的観測過ぎるよね……。僕の魔力量はリーファ曰くとんでもない量だってことだし、いくらうまく隠せていましたって言っても試練を担当しているような相手、僕の魔力量は見抜かれている可能性は高いよなぁ。でもここは挑発に乗っちゃうような感じでもう少し相手を探る時間が欲しい……。急がなくちゃいけないっていうのにね……


「何かおかしい? 僕は結構強いよ?」


 そう言っていかにも世間を知りませんって感じで不敵な感じの笑顔を作ってみたけど……


「ハッ! 魔力もろくにない、小僧がよく吠えるよる。気配の消し方だけはいっちょ前のようだがそれだけで制覇できるほどぬるい迷宮ではないわっ!!」


 ……あれ? 魔力量バレていない? 単純に見た目で見下してきてるだけ、なのか?

 いやいや、油断はしない方がいい、そうだよね? リーファ?


(そうね、どう見ても実力者って感じの相手だし今のあの態度も、あえて見下した感じを出している可能性の方が高いと思うわ)


 だよねぇ。まぁ僕の方もリーファと会話しているのがばれないように顔だけはさらにニタァって感じの調子乗ってますって顔を継続させてごまかしてはいるけど……ごまかせてるよね?


(それは……どうかしらね?)


 むぅ、顔に出やすいっていうから頑張っているというのに。まぁそれはいいか。

 それよりも目の前のムキムキ蛇をどうするか、なんだよね。


「表情ばかり作っていないでかかってきたらどうだ? 小僧よ」

「ぐっ……」


 バレてるよ。どうしてさ。


(あなた本当にわかりやすいものね。表情の読みあいとか絶対向いていないわね)

(うるさいよ!? 集中させて!?)


 くぅ、仕方がない。距離を保ちつつ様子見だ! リーファは作戦通り霊体のまま控えていてね。僕も無茶するだろうけど出てきちゃダメだよっ!


「ふっ!」


 素早く右手に持つショートソードに氣をのせて斬撃を飛ばしてみるけど……


「ほう、闘気の使い手であったか。ここまで来るだけのことはあったか」


 そう言いながら6本の腕それぞれに持つ業物っぽい片刃の剣のうち1本で斬撃をいとも簡単に切り裂きましたよ……


「くぅ、これなら!」


 休んでいるわけにもいかない! 回り込みながら数を打ち込んでやる!


「なかなかにすばしっこいな。いいぞ! それでこそ挑戦者だ! ハハハハ!」

「腕が多いだけあって、簡単に捌いてくるな……」


 というかこの動き、どこに回っても察知されてるっぽいんだよなぁ……

(リーファこれどういうことか分かりそう?)

(ごめんなさい。ナーガ種には出会ったことがなくて……。お母様からも話に聞いたことはあるけれどどういう種族なのかを詳しくは聞いていなかったから……)


 こっちの世界でもナーガであってるのか。リーファもよく知らないとなるとあの感知能力は種族の特性なのか身に着けた技術なのかいまいちわからないよね。どうしたものか……


「どうした? 同じ技ばかりでそろそろ飽きたぞ? 他に手がないのならばそろそろこちらから攻めるとしようか!!」


 そうなるよね! くっそ、でかいなあの蛇!! というか! 図体のわりに速い!!


「ふぅん!」

「ぐぅ!? がぁっ!?」


 一撃が重いっ! 何とか氣を纏わせて強化したショートソードで受け切ったけど、一気に吹き飛ばされて後ろの樹にたたきつけられるとかっ、どんだけだよ。こちとら地に足着けて氣による身体強化もしてるってのに!


「多少は踏ん張りを聞かせていたようだが、小僧ではやはり軽いな! そら、休む暇はないぞ!」


 蛇のくせに蛇行もせずに一直線にこっちに来た!? 強化の段階をもう一段上げるしかないかっ!


 たたきつけられた樹を足場にしてこちらも一気にナーガとの距離を詰める。

 速度をもっと上げてナーガと何合も切り結ぶ。だけど、くっそ、やっぱり6本の剣を持っている相手の手数には追い付けない!!

 それでも何とか紙一重でかわし続けてはいるけど……


「いいぞ! なかなかどうして、うまく捌くではないか! 先よりも速度が上がっておるな! もっと上があるのだろう? そら! もっと見せてみろお前の力を!!」


 くぅううう、何とか身体強化とショートソードの強化を駆使して防御してるけど、攻められない。防戦一方だ。しかもこいつさっきから試すようなことばかりで、全く本気を出していないじゃないかっ!

 もっと段階を上げないとだめかっ! こんな序盤の試練で全開まで出さないといけないなんて、さすがはダンジョンですねってか!


 「はぁぁぁああ!!」


 全身に氣を上限いっぱいまで巡らせる。今までの夜の特訓でもこれ以上はむしろ体がもたなかったレベルだ。これでだめならちょっと厳しいかもしれないけど、あれをやるしか、ないっ!


「よい、よいぞ! そうだ、こちらも段階を上げようではないか!」


 マジかよ!? とはいえ、限界まで引き上げた身体能力と最大限に高めた氣によって一緒に引き上げられた気配察知でさらに段階を上げてきたナーガの攻撃もしっかりととらえて捌けるようにはなってる。だから、こっちも攻めるぞ!

 ナーガの2本の振り下ろしを弾き飛ばして、さらに踏み込むための間隙をどうにか作り左足を踏み込み、氣を放出する!


「ハッ!」

「ぐっ!? これは、衝波か!?」

「貫けぇ!」


 ショートソードを水平に両手で握ってナーガに向けて突き立てる!

 しかし5歳児の背丈ではナーガの胸元には到底届くはずもなく、それでもショートソードに込められた氣が鋭い突きとなって解放される。


(カイトっ! 気を付けてっ!!)

 

「っ!!」


 リーファの声を受けて一撃に集中していた海斗もようやく気付く。

 突きの一撃を受け止めていると思っていたナーガの剣が、海斗に向かってくる気配に。

 突きを放って死に体の体を無理矢理氣を足に総動員して後ろに全力で跳ぶ。その跳び退ったところをナーガの尾が高速で通り過ぎた。


「そうだよね、尻尾もそりゃ攻撃手段の人一つだよね」

「今のはよい突きであった。しかもこちらの反撃も避けるとはな……」

「そりゃ、どうもっ!」


 斬撃を三閃飛ばして再度接近する、さっきの突きで体を貫くことはできなかったが片手剣で防いでいた4本の腕にはダメージがあったようで垂れ下がっていた。剣を握っているのでやっとといったところだろう。ならここでっ!


「しかし、しかしまだ足りぬ! この地を踏破するには足りぬぞっ!!」

「っ!!」


 ナーガの氣が急激に膨れ上がった!

 近づくのをやめてバックステップで距離をとる。するとナーガはまだ動く腕2本に持っている剣を地面に突き立て叫んだ。


「【隆起し刺し貫く大地カタクリズム】!!」


 これは、魔術かっ!?


(飛び上がるのよっ、カイト!!)


 リーファに言われるがまま全力で地面から離れて上空へ逃げる。しかしその全力の離脱も虚しくナーガの魔術によって大地が隆起しいくつもの角が生えるかのように伸びカイトに襲い掛かった!


「がぁぁっ!」

(カイトっ!!)


 くっそ……この蛇、魔術も使えるのかよ。魔力を隠していやがった!! くそっ! その可能性を考えられていなかった! 自分ができるんだから相手だって出来もおかしくないのにっ!

 隆起した土塊に強化した肉体は貫かれることこそなかったもののその衝撃に内臓がやられたような痛みを感じる。


(もう私もでるわっ! これ以上はあなた一人じゃ危険よっ!)

(駄目だ! リーファは力を温存してくれないと! みんなを助けるときに力を使ってもらうんだからっ!)

(でもっ!)

(大丈夫さ。まだやれる。氣も十分、体のダメージも回復できる範囲さ)


 そう、受けたダメージは大きいがまだ死ぬほどじゃない。氣による回復が追い付く範疇だ。それに今度こそ油断は無しだ。出し惜しみもね。


「ほう、あれを受けてその程度で済ませたか、小僧。いや、小さき戦士よ」

「小僧からランクアップとは嬉しい限りだね……。でも、もう終わりにしよう」


 そう言いながらすっかり不安定な足場と化した地面に着地する。体のダメージは空中で氣によって回復させてある。まだいける。そう、まだ上がある。今ここで最大限を突き破る!


「ほう、さらに上があったか。しかし、我の魔術は終わったわけではないぞ!!」

「くっ!」


 地面に剣を刺した状態のままのナーガから魔力がさらに地面に流れる。その流れに沿って地面が盛り上がり、槍のようになってこちらに向かってくる。

 ……あれしかない。1回もちゃんとできなかったけど、ここで今決めるしかない。

 向かってくる無数の土槍を無視してただ自分の中の氣の流れに集中する!


(カイト、よけて! カイト!)


 リーファの声が頭に響くがそれすらも無視してもっと深く己の内側に意識を潜らせる。もっと深く、もっと奥に。氣の流れに集中して、外には出さずに内側だけに巡らせることに集中させる。もともと外に放出するタイプの操氣法は苦手だった。だからここは内側に氣を循環させることに特化させる。両手で握るショートソードは自分の体の一部と規定する。ショートソードにも少しずつ氣を巡らせる。自分自身が一振りの剣であると、目の前の敵を刺し貫く剣であると言い聞かせる。そして丹田からあふれ出る氣を全身に放出するのではなく大量に、高速で、循環させる。血管を、リンパ腺を、筋肉を、流れる氣が満ちるにつれて、速まるにつれて、収まりきらないその氣は熱となって体から噴き出る。しかしそれすらも無視してさらに肉体に氣を巡らせる。そしてカイトに土槍が迫ろうとしたその瞬間、最後に一言自らに形を与えるための言葉つぶやき――――――――――完成する。


 我つるぎとなりて刺し穿つ者なり、【穿牙せんが】!!


 眼前まで迫っていた土槍すら吹き飛ばし、燃え盛るような赤い光となってまっすぐにナーガに向かう。

 カイトの攻撃に今まで余裕を崩さなかったナーガも土槍を攻撃ではなく防御に回すため即座に土壁に変えて幾重にも構築する。その変換速度は恐るべきものであった。恐るべきものであったが、そのすべてを貫き、赤熱の光がナーガの胸に届く!!


「グボァっ」


 胸を貫かれたナーガが口から大量の血を吐く。


「ゴボッ、グハッ、フ、フフフハハ、ゴバァッ、すば、らしい、ぞ……戦士、よ」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ナーガを貫いた勢いのまま突き抜けた先で、海斗はなんとかショートソードを地面に突き刺して杖代わりにして立っていた。しかし海斗もこれ以上は動くことができないほどに消耗していた。限界を超えて氣を使った反動であった。


(カイト! しっかりして、カイト!)

(大丈夫だよ、リーファ、意識はまだある……。倒れるわけにはいかないからね。なんたってまだあの蛇突っ立てやがるしね……)


 そう、胸を貫かれ、大量の血を吐いてなお未だナーガは地に2本の剣を刺したまま立っていたのだった。


「戦士よ……名をカイトと言ったな?」

「はぁ、はぁ、そう、だけど?」

「その、年で、よくやる……。一体どれだ、けの、鍛錬を、積んだ?」

「さぁね。ただ、一生懸命に頑張っていただけさ……」

「そうか……。ふん、良かろう。お前の勝ちだ、カイトよ」

「え?」

「おぬしは試練に打ち勝った……。そう言っている……」

「はは……やったね……。これで次に進めるってわけだ……?」

「まぁ、そう、急く……な。おぬしに、良い知らせがある。まずは聞くと言い」


 あれ、なんかあいつだんだん普通にしゃべれるようになってないか……?


 そう思ってぼやけてきていた視界でなんとか目を凝らすと、そこには先ほど貫いたはずの胸が再生したナーガの姿があった。


 おいおい、嘘だろ……

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異世界で変身ヒーローできますか? 鍵識 兵太 @kagisiki

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