第20話 帰宅

「カイト、カイトのお父様はあなたに逃げろって言ってたみたいだけれど、その、お願いがあるの……」


「リーファ?」


 お願い? なんだろう? 今更リーファが魔物が怖いとか言いそうな雰囲気はあまり感じられないんだけれど……

 いや、だってこう話している間もリーファの後ろの方で何かの植物の蔓が数本ブンブンすごい勢いで魔物たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げって処理してるんだもん。一応魔物なのに……。ほんとめっちゃ強いですね、リーファさん……。お願いって本当に何ですか……?


「あのね、その……」


なんだか言い難そうにしてるなぁ。うーん、姉さんたちを待たせるわけにもいかないし、よし。


「決心がつかないのなら先に家に戻ってもいい? それまでに決心してね?」

「っ! そうね……。分かったわ。先にカイトのお家に帰りましょうか。お姉さんたちがいるんだったかしら?」

「そうだよ! とってもかわいくてきれいな姉さんたちさっ!」

「あら、私より?」

「うーん、リーファはかわいい系というより今は正統派な美人って感じだから、方向性が違う気がする……。難しいよ、リーファ~。」

「///! なんだか自分で自分が掘った落とし穴にでも落ちた気分ね……。言うんじゃなかったわ(ボソッ)」

「どうしたの?」

「何でもないわ。ほら、行きましょう? どっちだったかしら?」


 なんか少し顔が赤いけど、急にどうしたんだろうね?

 あと、迫ってこれない魔物さんたち、南無……


――――――――――――――――――――

 さすがに疲労もあって走るんじゃなくて歩いて来たけど、だいぶ家に近づいてきた今までも含めて、結構……


「お父様たち、警備隊の人たちがそれぞれ魔物の侵攻を堰き止めてくれているみたいだね。」

「そうね。カイトのお父さんがいたところは層が厚そうだったからまず魔物たちもぬけないでしょうけれど、ここまで静かだと優秀だっていうのが分かるわ。私も全然魔法を使っていないもの。カイトのお父さんの隊の人たちっていうのはなかなかやるのね」

「フフフ、そうでしょう?」

「フフッ、自分が褒められたみたいにうれしそうね?」

「もちろんさっ! かっこよかったよね! お父様!!」

「あぁ、あの魔剣ね。なかなかなの業物みたいね」

「魔剣? なにそれ?」

「……そういえば5歳なのよね、カイトって。時々忘れそうになるわ」

「どういう意味……?」


 なんか失礼なこと言われた気がするけど、それよりも気になるワードがあったんだよね。魔剣だって! なんだろうね?


「……まぁいいや、魔剣って何なの?」

「そうねぇ、私もあまり詳しくはないのだけれど、魔剣っていうのは剣それ自体に強い魔力が宿っていたり、魔法がかかっていたり、何らかの魔物が封印されていたりするもののことを言うみたいね。そう教えてもらったわ」

「お母様に?」

「そうよ。お母様は物知りなの! で、その強い魔力を解放したり、掛けられている魔法を使ったりしながらその剣を扱う者たちのことを魔剣使いって呼ぶそうよ」

「ふーーん、じゃあお父様は魔剣使いだったんだね! すごかったし! なんていうのかなこう、バリバリ~~~ってなって一瞬でひゅーんって移動しながらスパスパ魔物を切っていたよね!」

「カイト、あなたあれが見えたの?」

「えっ? そりゃ最初の時は何が何だかわからなかったけど、そのうち目でも追えるようになってたよ?」

「そう……私は動いた後を追うのがやっとだったわよ……(ほんと、どうなってんのかしらこの子)。」


 お父様ほんと凄かったよなぁ……。早さもすごかったけど、あの剣の切れ味もすさまじかった。剣よりもずっと大きい魔物も簡単に真っ二つにしていたし。あれが魔力の開放なのか、何らかの魔法なのかはわからないけど雷系統って感じなんだろうなってのは見た目でもわかるよね。雷剣……。かっこいい……。まぁ本当の名前はわからないけど。


「それよりもほらっ! あそこに見えるのが家だよ! やっと帰ってきたね。なんだかすごい長い時間帰れなかったみたいな気分だよ」

「でしょうね、叱られたり、叱られたりしたものね?」

「叱られてしかいないじゃないか……」


 こんな感じで疲れを感じないよう気を使ってくれるリーファとバカな話をしながらうちのすぐ近くまで帰ってきたわけだったんけど……


「……リーファ、やけに静かすぎない?」

「えぇ、あなたのお姉さん以外が全員避難したっていうことならわからなくはないんだけれど、そういう感じはしないわね……」


 なんだろう、いつもの村の活気のようなものに溢れて、いたわけじゃないけど、賑やかさというのものがまるで感じられない。まぁすでに避難して出払った後だっていうならわかるけど、気配を探ってみると数人はいそうだしなぁ。

 ……しかも、どうやら友好的な雰囲気も感じないし。


「リーファ、どこに誰がいるかは分かる?」

「うーん、なんとなくってところかしら。魔力はかなり高度に隠蔽しているようだし……」


 魔力を隠蔽……? そんなこともできるのか。ってまさか僕ってよくみんなに「お前の魔力はすごいな」って感じのこと言われているけど、僕も魔力って駄々漏れなの!?


「あ、ちなみにあなたの魔力は駄々漏れよ?」

「えぇ~」


 心でも読めるのかな……。どうやって隠すんだろう? あぁ、思考がそれたな。それなら教えればいいか。僕より一度に複数の場所にいる相手を無力化するのとか得意そうだし。


「そしたら僕が把握している分を教えるからさ、ちょっと拘束してくれないかな?」

「拘束? 殺すんじゃなくて?」


 この子もたいがい物騒なところあるんだな……


「そんな物騒なことはしなくていいよ……。それよりも話を聞きたいってのもあるからさ」

「そういうこと。分かったわ。それじゃ、教えて?」

「うん。あっちの……」

「いやいや、待って待って。念話で言ってくれれば分かるし、早いから。それに気づかれるわよ……」

「念話って?」


(さっきもしてたでしょ? 頼む頼むってうるさかったじゃない?)


「うわ、そういえばこれ何なの? 腹話術のすごいやつ?」

「腹話術ってものが何なのか分からないけれど……。念じるだけで会話ができる便利な魔術よ」

「魔術!? 僕っていつの間に魔術が使えるようになっていたの!?」

「あ~、正しくは私と契約状態にあるから私の使えるものがあなたにも使えるってところかしらね?」

「うーん? それは別に僕が使っているってこととは違うの?」

「使っているのはカイトでしょうから大きな違いは……ないわね。とりあえず、どこに拘束したい人たちがいるか私に向かって念じてみて?」

「うん、分かった……」


 さっきもやってたってことだったし、あれか強く思えばいいのかな?うーん、とりあえず……


(あっちの家の中と向こうの物置の影とトラマーさんの家の前に突っ立っている人と農作業用の馬たちの厩舎とリリカちゃんの家の中とそっち側には3人で固まってる人と、村の共用井戸の周りにいる人たちに、あとはとあとね……)


「ずいぶんといるわね……。これが全部わかっているってのがもう恐ろしいわ……。カイトって本当に人間なのよね?」

「なんか大きくなってから失礼じゃない? リーファ?」


 通じたみたいだけど、なんかずいぶんな言われようだよね。そしてなんでうちの中とかセトラムとかリリカちゃんの家の中にもなんかいるんだろうね?


「カイトってなんだか気安いのよね……」

「いいから早くやってくれる?」

「はいはい。捕らえなさい、蔓たち!」


 そうリーファが命じたとたん僕が念じた地点から寸分も狂いなく蔓が何本も出てきて「うわぁ!」とか「ぎゃあ!」とか「なんだっ!?」とかあちこちで聞こえてきたんだけど……。本当に恐ろしいのはどっちなんだろうね? いや少なくともリーファは人間じゃなかったか。比較しにくいな……

 とにかくこれで捕まえられたかな?


「言われたところは全部捕まえたと思うわよ? ほかにもまだある?」

「うーん、もう他にはいなさそうだね。ありがとう、リーファ!」

「えぇ、お安い御用よ。で、この人間たちは何なのかしらね?」


 にこっと微笑んで返事をしたリーファは蔓で縛り上げた賊?の人たちを僕の家の前に集めながら、その人たちを睨んでいた。


「さてね。それよりも僕としてはエミリア姉さんの氣が感じられないことが一番気になっているんだよね……」


 そう、近づいてからとっくに気づいてはいたんだけど、エミリア姉さんだけ気配がないんだ。マリア姉ちゃんやセトラム、リリカちゃんとかほかの皆さんはなんだか眠らされているような感じで死んではいないっていうのが分かっていたから焦ったりすることなく、手堅くリーファに手伝ってもらったわけなんだけど……

 あ、マリア姉ちゃんが起きたな、この感じ。


「これ、カイト!? カイトなの!?」


 向こうも気づいたようで、すぐに家から飛び出てきてこっちの方を見つけるや否や走り寄ってきた……


「カイト~~~! 心配したんだからぁ~。どうしたのよ!? えっ!? なにこれ!? カイト血だらけじゃない! それに服もボロボロだわっ! 大丈夫なの!? カイト! どどど、どうしよう!?」

「あぁ……」


 まずい、結局着替えていなかったよ。ものすごい勢いで怒涛の質問攻めにされている……。まぁ、姉ちゃんの顔からは本当に心配だったってのが分かるからなんだかこっちから切り出しにくいけど……。怪我はもう治っているし、服は、もうどうしようもないけど大事なところは大丈夫だし、心配かけたのは本当にごめんなさいなんだけど、今はそれよりも……。仕方がない、マリア姉ちゃんに一番効くのは……


「えいっ!」

「きゃぁ! 何! どうしたの急に抱き着いて!? ちょっと、大丈夫なの?」


 身体接触にうちの次女は弱い。

 これが僕の経験上からくる結論だ。完全回答でもあると確信している。

 ちょろすぎるよ、マリア姉ちゃん。僕はマリア姉ちゃんの将来が不安でなりません。


「マリア姉ちゃん、僕は大丈夫だよ。お父様とお母さまにも会ったし先に家に帰っていなさいって言われて戻ってきたんだよ。もう、大丈夫だから」

「そ、そう? 大丈夫ならいいわ! っ!! そうだっ! カイト、お姉ちゃんがっ!!」


 次はもう泣きそうって顔になってきた。せわしないな……。でも僕が今一番聞きたかったことだ。


「エミリア姉さんがどうかしたの? 一応ここら辺のまとめ役の長女だから真っ先に逃げなさいってことでどっかに行ったのかと思っていたけど……」

「違うのっ! お姉ちゃんがっ! お姉ちゃんが攫われたのっ!!」








は?――――――






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 申し訳ありません。もともとこちらでは不定期の更新でしたが、少々体調を崩しておりましてはじめたばっかだというのに躓いてしまいました。

 引き続き投稿はしていく所存ですので、どうかよろしくお願いいたします。

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