第11話 根付き

「君は―――?」


やっぱり、女の子だった…。でもなんか氣の感じが姉さんたちやリリカちゃんとかと違うんだけども…


「大丈夫だよ!僕があいつらやっつけるからね!」


とはいってもこの猿どもも、さすがにもう油断してくれないって感じだ。

まぁ、先に木の上で突っ立ってるところを一方的に攻撃できたのはよかったけど。


「キキキキ!」「ウキャーーー!」「キーーーキーーー!」


僕らの周りを木を移りながらぐるぐる回って警戒してきた。でもって、怒り心頭ってと顔してるのは分かる。でもね、怒ってるのはこっちも同じなんだよ!!女の子によってたかってさぁ!


一息で目の前の木に迫り掌底を打ち込む。エイミングモンキーも掴まっていた木からは振り落とされずに、隣の木へすかさず飛び移り、また飛び移りと移動し続ける。


「キィーー!」

「くっ!」


背後に回っていた個体が掌底を入れた僕の止まった瞬間を逃さず投石を仕掛けてくるけど、気配を読みとっている僕には死に体の身を左に転がって、普通の5歳の体に当たれば致命傷の投石を避け続ける―――


流石に警戒度が高いと狙いもしっかりしてくる!うっとしい限りだ!でもっ!!


転がった勢いのまま別の木を足場にして一気に飛び上がり、木から木へ飛び移っている猿に振りかぶった鉈を食らわせる!今度はお前が死に体を晒してるんだよ!


「はぁっ!」

「キギャ!」


残り2体だっ!でもってここは必ず…


空中戦を制した海斗だが残る2体は宙で死に体となっている僕を見逃すはずもなく―――


「あ、あぶないっ!」

「キッキーー!」「ウキャウキャ!!」


枝を引きちぎった即席の針が海斗目掛けて放たれると同時に―――


「投げるのが得意なのが、お前たちだけとは、限らないんだよっ!」


転がっていた時に鉈を持たない手でとっさに握った、少女に浴びせられていた石を空中で体をひねりながら1体に、その勢いでさらに右手の鉈を残る1体に飛ばす!


「ギャ」「ギーーー!」


石は見事に頭を打ち抜き、鉈はサルに突き刺さり幹に張り付けの状態にする。

回転運動を維持したまま着地する僕。決まったんじゃない?これ。


「くっそ流石に空中戦は不利だったかな…」

「あぁ、肩に刺さってるわ!」

「あぁ、そうだね。でも大丈夫だよ!ほら!」


そう言ってこちらの様子を伺いに来る女の子。僕の怪我の心配をしてくれている。優しい子なのかな?


「ヘーキヘーキ!こんなのは慣れっこさ。」


いえ、実はめっちゃ痛いです…

枝を引っこ抜いてみたけど…いってぇぇえ!!2本中1本はがっつりくらっちゃたよ。引っこ抜いたら左肩に血がべっとりになっちゃった。これは服の方は捨てとかないとまずいな~。あ~~、あ~~~~~痛い!でもま、エミリア姉さん直伝のこれでっ!


両手のしわとしわを合わせて合掌!からの…


癒せヒール


一言唱えれば治せるなんて便利だよね、さすが異世界!

さて、猿どもの追撃者もいなさそうだ。群れはこの10体で全部だったかな?それなら早くこの子の怪我も治さないとね。


「え、回復魔法?じゃ、ないよね?それ!?」

「うん!すごいでしょう!待っててね今君にもかけてあげるから。癒せヒール

「え!?大丈夫なの!?あ…」


両手を少女にかざして回復魔法を唱える。これは回復魔法です!!

エミリア姉さんに教えてもらったけど、魔力というものがなんだか全くわからないんだよね。いまいちうまくいかなくて、結局氣を使ってさ、怪我しているところに集中的に巡らせることで回復を早めたとかそういうのではない。決して違う!断じて違う!


「あ、なんか気持ちいいのね…あったかい。」


よし、あちこち擦りむいていた肌も、打ち身のあとも消えて血色も多少はよくなったね。なんか全快って感じではないけど。


「もう大丈夫?」

「え、えぇ。だいぶ楽になったわ」

「よかった!」

「ところで、あなたは?その…子どもよね?あなた」

「え、あ…えぇと、そうだね?」


ヤバい…どうしよう、思わず駆けつけてしまった。そして5歳ではありえない機動力の戦闘を披露してしまった!!ヤバい!あわわわわわ…


「あわわわわわ…」

「だ、大丈夫?」

「あ、あぁわぁあ??」

「なんかしゃべれなくなってるけど…」

「あうあうあうあ…」

「おーーい、おーいってば!」

「うわうわ!何々どうしたの!?」


急にぐらぐら揺らさないでよ!あ、この子なんかやっぱり雰囲気が普通の女の子じゃないな…


「あなたが急におかしくなるからよ!大丈夫?頭でもやられたの?」

「あ、あぁ、頭は平気だよ?ちょっといろいろ焦ってしまっただけなんだ」

「何を焦っているの…?」

「まぁ、そこはいいから!僕はカイト。5歳だよ!君は?」

「そう?いいけれど。私は、リーファよ。さっきはありがとね」

「うん!ところで君はどこから来たの?なんか見かけない子だね?」

「え!私たちのこと知らないの?」

「え?」

「本当に知らないみたいね…」


そういうと女の子、リーファは考えるようなしぐさをとって、何かを決めたかのような顔をしてこっちに向いてきた。


「私たちはね、ドライアドって言ってこの森の管理者の1人なのよ!」

「へー、ドライアド!すごいね!」

「そうよ!私たちはすっごいんだから!」

「ふーーん」(ニコニコ)

「……本当にわかってる?」(ジト目)


……うん、わかってるよ。どうしましょう、ドライアドってあれやん?前の世界とかのゲームでもいたけど…。その、魔物やん?ど、どうしよう!魔物助けちゃったの!?


「……」(ニコニコ)

「あなた、なんか急に汗出てきてるわよ?」

「そ、そうかな?」

「目が泳いでるわ」

「そ、そ、そうかな?」

「今度は全く目が動かなくなってるわよ?」

「そ、そ、そ、そうかな?」

「体が震えてるけど?」


だめだ!動揺を隠せない!ど、ど、どないしよ!(錯乱)


「あぁ~、大丈夫よ?私たちは基本的に人を襲ったりはしないわ?よほど森に悪さをしているような子じゃない限りね?」

「本当?」

「本当」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと!」

「ほんとにほんとにほんと?」

「だぁぁ!しつこい!」

「襲われるぅぅぅううう!」

「しないってば!」


いや、うん、もう途中からさすがにわかってたよ。そんな気配は全然感じないし、僕自身も落ち着きを取り戻してたし。どうやら話も通じるみたいだしね。というか月明りでやっと気付いたけど、髪の毛黄緑色してるのか。でもなんていうか、綺麗だな。うん、似合ってる!それと身長は僕より頭1つ分大きいくらいかな、少女ってかんじ。でもってワンピースかな?これ。洋服あんまり知らないんだけど。あとめっちゃくちゃ美少女だったわ。本当にこれが魔物なのかな?


「なぁに?私の顔をじっと見つめて?あ、もしかして私が可愛くって好きになっちゃった?」

「いや、話が通じる魔物がこの森にはいたんだなって」

「あぁそいうこと、世界には結構いるのよ?人の言葉が話せるあなたたちが言う魔物ってのは」

「そうなんだ…」


世界は広いすわ。まさかこんなことになるとはなあ~。…めっちゃ殺しまくってるけど、平気なのかな?


「助けてもらったついでで、図々しいのは承知でお願いがあるのだけど、いいかしら?」

「やっぱり、食べるの?」

「もうそれはいいでしょ!」

「ご、ごめんごめん」

「ちょっと魔力を分けてもらえないかしら?」

「やっぱ食べるんじゃないか!!」

「違うわよっ!分けてもらうだけ!正直傷とかは治ったけど森につながれなくてだんだんつらくなってくるのよ」

「森につながれない?」

「そうよ、私たちは森につながることで彼らの糧を分けてもらっているのよ」

「それが今はできないの?」

「そう、なんでかね?そうだ!あなた何か知らない?」

「いや、どうだろう…あ」

「あ?」

「そういえば、最近お父様が森の様子がおかしいって言ってたな」


僕もなんかここ数か月はやけに魔物との遭遇が増えたなぁって気はしてたんだよね。でも、この森のことを長年見てきたわけじゃないからこんなもんかと思っていたけど…


「そうね、確かにここ最近森の様子がおかしいの。普段はおとなしい魔物たちも殺気立っているし、今もこうして森につながれないし。何かに阻まれている、そんな感じがするの…」

「阻まれている、ねぇ」


この森で何が起きるっていうのかな、いやもう起きているのかな?


「そう、だからとりあえず私にあなたのその膨大な魔力を少しだけ分けてもらえないかしら?」

「あぁ、魔力ね。やっぱり僕ってそんなにたくさんあるの?」

「あなた、あれだけ戦えて分かっていないの?確かに魔力を使っている感じではなかったけれど…」

「あはは…、あれはまぁ、ちょっと違うというか、ね?」

「まぁ、いいからいいから。それだけあれば私も回復できると思うの。だからお願い?」


両手を合わせて顔の横に持っていくとか、あざといなこの子…

まぁ、しかし…


「うん、いいよ!どうすればいいの?」

「え、いいの?」

「よく言うよ…。でも、魔力の使い方っていうのが今までよくわからなかったからね。なんかコツがつかめるかもしれないかなって思うんだ」

「そう!そしたら手を貸して?」

「はい。こう?」


そうして僕の両手をリーファが握ってきたんだけど、なにか氣とは違うものが僕の中からリーファに流れているのを感じる…

これは、前からずっと感じていたけどうまく使えなかったもう一つの力だ。これが魔力か。

エミリア姉さんに教えてもらってもいまいちうまく使えなかったけど、持っていかれる分にはよくわかるな…

釈然としないな…


「カイト、あなた全然何ともなさそうね…」

「え?」

「いえ、その~、実はもう結構な量もらってるんだけども…」

「おい!!」

「ち、違うの!カイトの様子を見ながらもらおうと思ってたから!でも全然どうにもならないんだもの!」

「うーーん、それってすごいこと?」

「こんな量はさすがに異常よ!もともと魔力の多い人間だったとしても何人分あるの?って感じよ?」

「へぇ~」

「へぇってあなたねぇ…あ、あれ??」

「ん、どうしたの?」

「その…カイトの魔力、もらいすぎちゃったみたい…」

「ん?もらいすぎるとだめなの?元気そうだけど?」

「あのね、私はドライアドでしょ?」

「うん」

「最終的に私たちは自分が住むことにする場所に根付くの」

「うん?」

「私…あなたに根付いちゃった♥」


「は…?」



は?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る