第10話 女の子…?

「はぁ!たぁ!!」

「いいぞ!カイトは才能がありそうだ!」


今日はお父様に稽古をつけてもらっているのさ。

ここ最近は体も前より大きくなって家の手伝いもするようになってきたからね。その一環で体も鍛えることが始まったんだ。


「フッ!ハッ!」

「だが、幾分まっすぐすぎるな!ほらっ!」

「うぉっと!」

「ほれ、また父さんの一本だ」

「あちゃ~、また負けちゃったよ」


うまい具合に剣を受け流されて転ばされちゃったよ…

やっぱり氣を使わずに体捌きだけで大人を相手するのはきっついわ。つーか無理だよ一本取るのは。お父様には完全に遊ばれてるね。


「はっはっは、だが5歳でこれだけ動ければ将来が楽しみだな、カイトは!」


あ、そうだ、僕5歳になったよ!

身長も伸びました!110cmくらいはあるんじゃないかな!ゴブリンより少しだけ大きくなった感じかな。姉ちゃんたちよりは全然低いけどね。女の子って成長早いよね。うらやましいよ、ほんと。

え?顔はどうだって?聞いてどうするの?…ねぇ?(真顔)


「よし、今日はこんなもんにしとくか。今日は薪割りも手伝ってほしいしな」

「えぇ~、もう一回やってほしかったのに…」

「やりすぎても体を壊すだけだ、それにこの後も重労働なんだ、今日はここまでだ」

「は~い」

「今日もやられてるわね~」

「あ、あれでも頑張っているのよ?まぁ、私の方が頑張っているけれど!」

「3つ下の弟と張り合ってどうすんのよ…」

「あ、リリカちゃんにマリア姉ちゃん!」


お父様との稽古がちょうど終わったところでリリカちゃんとマリア姉ちゃんが教会から帰ってきたらしい。今日は午前のお祈りの日だったっけ、あれ、でもエミリア姉さんがいないような…


「きょろきょろしてもエミリアはすぐ来ないわよ。昨日戻ってきたばかりなんだから、まだまだ教会で引っ張りだこよ」

「あ~、そっか。エミリア姉さん久しぶりに戻ってきたからね。なんて言ったって聖女様だからね。そりゃ」

「正しくは候補ね、聖女候補。各地にいるんでしょ?聖女って呼ばれる女の子って」

「うちのお姉ちゃんが聖女様になるに決まってるわ!回復魔法だってすごいんだから!」


エミリア姉さんは10歳になってから王都の学校に行っているんだ。聖女、正しくは候補らしいんだけど、として選ばれているような少女は聖女とはどういったものなのかを教育して、その中で最も神の加護をいただいていたり、最も学業や実技なんかで優秀だったりしている子が正式に聖女として活動することになるらしいよ。エミリア姉さんから昨日聞いたからね、きっと正しいはずさ。


「まぁ、確かに11歳にして回復魔法に攻撃魔法といろいろな魔法を高水準に修めているのは頭一つ抜きんでてるって言ってもいいのかもしれないけれどね?」

「言ってもいいかもしれないんじゃなくて、抜きんでてるの!聖女様なの!」


そう、エミリア姉さんは魔法が得意らしくて、学校に通うようになる前から教会で回復魔法の初級を習ってそこからは独学で中級までできるくらいになったんだ。すごいことらしいよ?僕もいまだに魔法とか使えないし。何でだろうね?氣とは別の力は感じているんだけど…


「このお姉ちゃんと弟大好き少女は…」

「なっ!カイトのことなんか全然好きじゃないんだからっ!」

「えっ!姉ちゃん…」


勢いで言っていることはわかっているけどね。ここは好機だよね!いくしかないねっ!


「あっ…ち、ちがうの!あなたのことは弟としてとても大切に思っているわ?本当よ?」

「好きって、言ってよ…(俯きがちに)」

「あわわわ…そんなに落ち込まないで?ね?好きよ?カイト?」


見事に術中に嵌まるマリア姉ちゃん。上目遣いにマリア姉ちゃんを見つつ僕は姉の愛を試すように言ってのける。


「ほんと?(チラッ)」

「もちろんよ!」

「じゃ、僕の目を見ながら言って?」


首をかしげながら再度乞う。


「えっ…そ、それは…」

「やっぱり、嘘なんだね…」


再度俯きかけた僕の両肩をガシッと捕まえたマリア姉ちゃんは意を決して


「好きよ、カイト…はわぁぁぁ」

「うれしいな!マリア姉ちゃん!(パァア)」

「はわわわ、はわ、はわわわ…」


花が咲いたような笑顔で喜ぶ僕(マリア目線)に恥ずかしさとうれしいといわれた喜びで照れるマリア姉ちゃんであった…

この姉、ちょろいぜ?


「このバカ姉弟が…」

「うちのは仲がいいだろう?」

「アランさん…それでいいんですか…?」

「ハッハッハ、もちろんさ!」

「この親にしてこの子ありね…」


――――――――――――――――――――


3歳のころから森には入りまくっていたわけだけども、ここ最近は外周からもう少し先に行くことにしたんだ。

出てくる魔物なんだけど、外周部はブラックドッグとかゴブリン(どうやらはぐれらしい)、ホーンラビットとか前世のゲームなり漫画なりでたいして強くない扱いのやつらばっかだったんだけど、中層って言うところまで来ると一気に魔物の種類が増えるみたいだね。例えば今戦ってる…


「ブモォォオオオ!」

「うぉっと!」


片手に持ってる木製のこん棒みたいなものを脳天めがけて振り下ろしてきたこいつ、5歳の僕からしたら2倍くらいの高さのある豚顔にデブな体型の2足歩行の魔物、オークとかねっ!

この森のオークは基本的に単独行動が多いみたいで、だいたい1対1になるからある程度集中できる。中層ではオーソドックスでそこそこの強さってところだと思う。


「ホッ、っと!」

「ブモォ!モォ!」

「ハッ、ホッ!」

「ブモォォォォォオオオオ!!」


こっちがちょこまかよけるからかなり苛立ってきたな。いいぞ、そろそろ焦れて大雑把な攻撃が…ここだっ!


攻撃を避け続けて、一番大きく振りかぶったところで体に巡らせている氣を足に集中させてオークの体を足場に駆け上がる。勢いそのまま頭の上まで飛び上がって氣を両手で持っている鉈に込めて体を回転させながら首筋目掛けて思いっきり鉈を振るう。鉈に込めていた氣の一部がその振った軌道をなぞるようにして斬撃が飛び、オークの首が一撃で落ちる。


「ブモ…」

頸動脈を斬られたオークから血しぶきが上がる…


うわぁ…あたりに血の嫌なにおいが充満しちゃったな…

というか、こいつらって1対1で戦えることが多いのはいいんだけど叫び声がでかくて結局仲間が寄ってくるんだよね…

今も2体くらいの、多分オークが別々の方向から近寄ってきてるしなぁ。

近い方を先にどうにかしちゃうか。この棍棒使おうかな。


「氣を使わないと絶対に持てないなこれ。僕と同じくらいの大きさだし…」


棍棒も持ちてを両手で持って、ハンマー投げよろしくその場で回転を始めて…


「はぁぁあああ!!」


回転運動で勢いをつけつつ十分に棍棒にも氣を込めて後方のより近い方のオーク目掛けて棍棒を吹っ飛ばす。

その数秒後にグッチャァァァ!と何かが吹き飛ぶ音があたりに響き渡る。


「よっし、命中命中。お次は前方のあいつか…」


気配関知で死亡を確認しつつ、下に置いていた鉈を持ち直して鉈を上段に構える。


「もう一度斬撃を飛ばそうかな!次はもっと遠くにもっと鋭いやつだ…!」


はぁーっと、呼吸とともに意識を集中させて氣を充実させる。鉈により多く氣を込めて、足の位置をより振り下ろしやすいように整える。そして…


「はぁっ!!」


一気にその場で振り下ろし斬撃を飛ばす!


「ブモァ!!」


短い悲鳴とともにドーンと何かが崩れ落ちる音が響く。3,4回ほど…


「あちゃ~、木も切っちゃってるや…」


そりゃ、どーーん、どーーんってなるよね…

ま、まぁいいか!少し見晴らしよくなったし!つーか早くここ離脱しないとね!


「ふぅ~、あいつらって体と力が大きいゴブリンみたいなもんだよな。群れてないだけましなんだけども…」


とまぁ、こんな感じでオークが多めで、あとは外周と同様にゴブリンは中層にもいる。外周部と違ってもう少し群れてて5体くらいで1つのユニットって感じで行動してるみたい。これがほかの魔物とかとの闘争で負けて数が減ったりすると外周部に移ってしのいでいるってところみたいだね。

他には植物系も増えたよ。トレントっていう樹の魔物で餌になりそうな奴が近づいてくると一気に襲い掛かって動けなくして養分にしてくるやつ。でも正直僕にとってはいい的なんだよね。氣が感じられるからどこにいるか丸分かりだしね。斬撃を飛ばすいい練習になりました。

そうそう、氣を飛ばす練習も中層に入るようになってからかな、斬撃であれば割としっかり飛ばせるようになってきたんだよね。氣自体をものに纏わせることは結構前からできていたわけだけど放出するってのができなかったからね、結構うれしかった!ただ、まだ氣弾とかは飛ばせないんだよね。某格闘漫画みたいなことがしたい!…したい!


――――――――――――――――――――


「お次はサルどもか…ちょっと多いなぁ」


流石に10体も相手にはできないかな。これは逃げた方がよさそうかもなぁ。

エイミングモンキーっていうやつらで、腕が長いニホンザルみたいな見た目してるんだけど物を投げるのがうまいのが特徴だね。森の中だっていうのに石とか、硬い木の実とか、枝を短槍見たいにして木の上から投げてくる結構厄介やつなんだ。何より群れの数が基本6体以上でいるから囲まれたりなんかしたらさすがにヤバい。まあ、中層で一番逢いたくないやつとは違うけどこいつらも結構逢いたくない部類かな。1体1体は防御力とかは低いみたいで鉈でも十分に切れるんだけど、長い腕を生かして機動力もかなりのものがあるのがね。ただこいつらって普段は割りと温厚な部類の魔物って言われているらしい。僕が遭遇した経験上では今のところそんな気配は全くないけれど…


「幸いまだ気づかれてはなさそうだ…」


気配を徹底的に殺して全身に氣を纏い、滑らかにかつ素早く体を動かすよう意識してその場から素早く離脱をしようと思ったんだけど、おや…?


「あれ…?なんか向こうで誰か戦っているのか?」


氣を巡らせているおかげで夜目が効くといっても、気配感知で感じ取れるギリギリの位置では視界はさすがに確保できないからな…。でも向こうで何かを囲んでいるのかな…?うーん、真ん中にいるのは…なんだろう?弱々しくて気付けなかったけど、あれ…人の形…かな。


より氣を目に集中させて木に登り弱々しい氣の持ち主を注視すると、そこには…


「あれ、女の子…?」


――――――――――――――――――――


「やめなさい!私の言葉が聞こえないの!?もう、最近やっぱりおかしい!この子たちもこんなに攻撃的な子たちじゃないのにっ!きゃあっ!」


「「キー!キキーー!!」」

「「ウッキウッキ!」」


エイミングモンキーの投げる石が四方から飛ぶ中で黄緑色の髪をした少女は、その身を丸めて防御姿勢をとるしかできない状況に焦りを感じていた。


「様子がおかしいから奥から中層まで出てきたけど、やっぱりおかしい!中層の木々に接続ができなくなってるし…。奥の子たちにもつながれない!どうなっているの!?痛っ!もう、やめてよぉ」


「キキキ!」「ウキャキャキャ!」


「お願い。繋がって!お願い!!」


少女はその手を何度も地面にたたきつけるものの、何も起きずただ焦りばかりが募る。


「どうしよう、こんなことなら出てくるんじゃなかった…。お母様にも連絡が取れないし、どうしよう、もう魔力…が…」


「キキ――!!」「ウky…」「キャキ!」


ボタボタボタと何かが落ちる音がそこに響く――


「え――?」


そこには10体いるうちの3体が突然真っ二つになって地に落ちていた。


「これは?」


そこにさらに何かが木の上を通り抜ける。するとさらに3体が木から真っ二つになって落ちてくる。


「ウキャ!ウキャキャキャ!」「ウッキーー!キッキ!」「キーーーー!」「ウキョ!キッキャ!」


一瞬のことに怯んだエイミングモンキーもさすがに立ち直り、何事かかと騒ぎ出す。


「キギャッ」


そのうちの1体がすごい速さで駆け抜けた陰に吹き飛ばされる。そして影がこちらを向いて語りかける。


「大丈夫!?今助けるからね!」

「君は―――?」

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