お前の必殺技、何コマで出せるの?

ちびまるフォイ

もっとも正しい作画の使いみち

「ククク。この魔族の塔までたどり着いた人間がいるとはな」


「そしてお前はその人間に倒されるんだぜ!」


「ほう、冗談を申すとはサービス精神もあるようだ」


「冗談かどうか、試してみろ! うぉぉぉーー!!」



「待つピィ!!」



「ピ、ピリィ! どうした!? なぜ止める!

 君の妖精の国を滅ぼした大悪党じゃないか!」


「そうじゃないピィ!

 この戦闘にかけられる作画がもう限界ピィ!」


「なんだって!?」


「剣を収めちゃだめピィ!

 その動作ですら作画を浪費してしまうピィ!」


「ちょっ……俺、剣を構えたままキープするの!?」


「激しい戦闘には大量の作画枚数が必要となるピィ!

 ここは口パクだけのトークで作画体力を温存するピィ!」


「くっ……しょうがないか……!」


これまで必死に積み上げてきた修行の成果も、

カクカクした動きや作画崩壊で骨格から歪んでしまえば

本来の実力の半分も発揮できないことだろう。


自分の最大級のパフォーマンスをぶつけるためには、

この戦闘のどこに大量の作画枚数を持ってくるかが重要となる。


「どうした? かかってこないのか?

 ならば私から行くとしようか」


「待て。お前は……これまでの罪を悔いたりはしないのか?」


「なぜそんなことを聞く?」


「いいから答えろ!」


勇者は背中越しに敵へ話しかけた。


あえて口元を見せないカット割りにすることで

口を動かす作画からも開放されて作画節約ができる。


「愚問だな。仮に悔いていると答えたとして

 お前は許すというのか?」


「いや何を答えても許す気はない!」


「だったらますます意味がないな」


「そうかもしれない……あと、今日はいい天気だな」


「えっ? あ、ああ……まあ」


「こんな天気のいい日にお前を倒せて嬉しいな」


「初対面の人とのぎこちない会話か!!」


「思い出すぜ。あの日もたしかこんな天気だった……」


「え? お前剣構えたまま回想はいるの!?」


勇者は第6話のシーンを思い出した。


自分が旅に出るきっかけとなるエピソードで、

作画も安定しており、ファンにも人気が高いシーン。


それだけに作画ストックが尽きかけるたび、

伝統のように回想されるので「妹何回死ぬんだよ(笑」と

肉親を失うシーンがしだいに失笑を引き出すことになろうとは思いもしない。


「……ということがあったんだ」


「一応ぜんぶ聞いたが、それ私が聞いてなんの意味があるんだ。

 何回か回想途中に殴っちゃおうかと思ったぞ」



「ピィ! 勇者サマ! 十分に作画できるだけの

 作画パワーが溜まったピィ!

 これでどんな激しめの必殺技もできるピィ!」


「ようし! それじゃいくぜ!!

 俺の全力フルバーストを受けてみろ!!」


急に画力が上がった伝説の剣を振り上げた勇者は

1カット前とは別人の顔つきで今にも斬りかかろうとしたとき。


「ククク。待て。そう急ぐことではない」


「なに!?」


「ここでは邪魔が入る。場所を移そう」


敵は瞬間移動をして作画負担が楽になりそうな

だだっ広い荒野へと移動した。


「ここなら邪魔がはいる心配はないだろう?」


「いや、むしろ邪魔が入ったほうがお前には有利なんじゃないか?」


「さっきまでの部屋だといろいろ邪魔が多いのだ。

 やけに凝った玉座の装飾とか」


「なに……!?」


先ほどまでの場所は敵の配下である

ドクロゾンビの軍勢が玉座の後ろで大量に控えていた。


天井からは豪華で細やかなシャンデリアが吊り下がり、

禍々しく凝ったデザインの玉座はアニメーターを今にも泣かせそうだった。


そして今。

ここはひび割れくらいしか特徴のない荒野。


目をつむってぐるぐるその場で回ったら、

もう次の瞬間には自分が最初に見ていた方角すらわからなくなるほど没個性。


こんなにもラクラク作画が許される場所へ

わざわざ敵が移動させた理由はただひとつだった。


「まさか……こいつも作画枚数を消耗するほど

 すさまじい必殺技があるというのか!?」


「当然だ。時間は両者とも平等に与えられる。

 私とて日々の鍛錬を怠るほど甘くはないということだ」


「具体的にはどんな感じなんだ……!」


「めっちゃ細かいビットみたいなのが出て、

 あらゆる角度から一斉掃射しながら

 私はフラメンコを踊りミサイルが軌跡を残して飛び交う」


「なんて作画だ……ッ!!

 そんなことされたら俺にかける作画がなくなってしまう!」


「臆したか。貴様はなにをするつもりだったんだ?」


「これまでの仲間たち全員が俺の背後に浮かび、

 地面をランダムに切り刻みつつ大量の爆発が出て、

 ロトスコープ手法を使い剣を振り回しながら突っ込む」


「ロトスコープ……!?

 よくわからんがすごそうな技のようだ……」


「いくらお互いの作画を節約したとしても

 同時に同じ必殺技を描写できるとは思えないな」


「ククク。そのようだな。

 どちらかが作画崩壊の憂き目に会うだろう」


「行くぞ! うおぉぉーー!!」


二人の必殺技が激しくぶつかり合う。


「フハハハ!! 貴様の顔の作画が崩壊しているぞ!

 どうやらこの勝負、私の勝ちのようだな!!」


「いいや! この戦いは俺の勝ちだ!

 目と口のバランスと位置がおかしいぞ!!」


「なにぃ!?」

「どちらも作画崩壊だと!?」


二人は自慢の動きを表現することなく、

激しい光につつまれて最後の決戦は幕を閉じた。


世界に平和が訪れ、仲間たちは大いにはしゃいだ。


「温泉だーー!」

「胸大きくなったんじゃない?」

「ちょっと触らないでよ~~♥」



次回の温泉エピソードは、

なめらかに描写された作画と丁寧な胸の揺れが演出されたという。

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