第40話 修学旅行飛行機の機長はどうなったのか?



 閣議を終えて、俺が執務室に戻ると、ミイネはご主人様の帰りを待つ子犬のように顔を上げた。


「遅かったわね、待ちくたびれたわよ♪」

「会議が盛り上がってな。親書はどんな感じだ?」

「順調よ。そっちはどう?」

「ああ、日本にODAを頼むことにしたよ。それを元に新しい産業を興して海外と貿易をして、物資不足を解消しながら国内の生産業を成長させるんだ。そうすれば――」

「もうワタシが張り付けのうえ火炙りになることもないのね!」


 俺の言葉を遮る勢いでミイネは手を合わせて瞳を輝かせた。


「う、うん、そうだな。ていうかよっぽど怖かったんだな」

「当たり前でしょ! あれから毎晩火炙りになる夢にうなされているんだから!」


 涙ながらに訴えるミイネの姿には、同情の念を禁じ得なかった。


 何かのスイッチが入ったのか、そのままむせび泣くミイネの頭を、俺はよしよしと撫でてやる。


「うぅぇぇ、こわかったよぉ、本当に死んじゃうかと思ったんだからぁ……」

「鼻水拭けよ、ほら」


 彼女の鼻にティッシュを押し当てると、チーンと彼女は鼻をかんだ。


「そうだ、それで日本とODAの交渉するんだけど、ミイネも来るか?」

「ん、それはワタシも行ったほうがいいの?」

「そりゃそうだよ。お姫様が一緒のほうが、テロリスト感がなくなるしな」


 ミイネは何か考え込むようにしばらく黙ると、目をつむって、小さく頷いた。


「うん、わかったわ。じゃあ、ワタシも行くわね」

「助かるよ」

「じゃ、そうと決まったらさっさとワタシの仕事を片付けないと。日本との交渉日程が決まっても、仕事で行けなかったら困るもの」


 ガッツポーズを作りながら、ミイネは肘を曲げて、ふん、とやる気溢れる息を吐いた。


 よくわからないけど、元気になったようで何よりだ。


「あとみんな、苗字が無いから俺の高橋を名乗るみたいなんだけど、王室には苗字とかないのか? なんとか王家みたいな」

「ないわよ。パシク国のパシク王家だもの。だから……その、ワタシも、タ、タカハシ・ミイネでいいわよ」


 キュンと頬を染め、俺のことを横目でチラチラ見つめてから、ミイネは両手を顔に当てた。


 火炙りから救って以来、なんだか好かれている気がする。


 でも、吊り橋効果に近い気もして、なんだか素直に喜べなかった。


 ていうか、姫様の苗字が高橋ってどうなんだ? 


 高橋とか、全然姫様っぽくないぞ。


「ショウタ、親書作りは進んでいますか?」


 ミイネが机で親書作成を再開すると、執務室にナナミが入ってくる。


 そして、ミイネの真面目な仕事ぶりに、喉を唸らせた。


「ほう、自分の罪を償う気になりましたか?」

「おいおい、そういうこと言うなよ」

「そうね」


 俺はフォローするも、ミイネの方が、あっさりと認めてしまう。


 意外に思っていると、ミイネはキーボードを叩く指を休めて、パソコンから顔を上げた。


「ワタシ、今まで父様がどれだけ酷い人か知らなかったわ。ううん、本当は知っていた。ワタシにも母様にも無関心で、母様が死んだ時も、涙一つ見せなかった人だから。ワタシの誕生日会を豪華にしたのも、メンツ作りだったんだと思う。最後に父様に触れたのがいつか、思い出せないもの」


 沈んだ声には悲壮感が漂っていて、俺はかける言葉が見つからなかった。

けれど、ミイネはすぐに、強い意志のこもった顔になる。


「だからワタシは、父様が苦しめた分、この国を良くするわ。だってワタシは、この国の姫で、最後の王族だから」


 その顔は、初対面の時に見せたワガママお嬢様のソレではなかった。


 ギャグではなくて、実際、ミイネもこの前の一件で人として大切なことを学んだに違いない。


 そのことをナナミも感じ取ったのか、やや気圧されている。


「ふん、まぁ、貴方の協力でこの国の改革が完了したら許してやるのです」

「そのつもりよ。父様のせいで、貴方も辛い目に遭ったんでしょ?」

「そうなのです。貧しさから借金のカタに私は売春組織に売られたのです!」

「そして連れていかれた日に速攻で元締めの股間を蹴り上げてドライバーをケツに突き刺して財布を奪って逃げてきたんだろ?」

「そうなのです! そして姉様に拾われたのです!」


 えっへん、と謎の自慢をしながら、ナナミは胸を張るのだった。


 俺とミイネは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


「おっとそうでした、それでショウタ、先ほど姉様が外国経由で日本に電話をして、会談の約束を取り付けたのです」

「外国経由? ああ、パシク国には日本大使館がないからな。それで、会談はいつだ?」

「一週間後の今日、場所はこの宮廷です」

「早ッ!?」

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 運命のあの日、乗員乗客全員が飛行機から逃げ出し、拉致られた翔太だが、実はもう一人、拉致られた人物がいる。


 そう、飛行機の機長だ。


 誇りも忠義の欠片も無い副操縦士は、機長を囮に逃げ出した。


 だが、腰を痛めている機長は、副操縦士の回し蹴りで腰にトドメが入り、憐れ、逃げ出すことに失敗し、パシク国まで飛行機を操縦させられた。


 もう一人の被害者にして、先進国知識チートのできない機長がどうしているかといえば…………幸せの絶頂にいた。


 日本統治時代の名残で、パシクではひらがな、カタカナ、を使っている。


 そのため、機長はパシク解放軍の中で字の読み書きができないメンバーに文字を教える役目を与えられていた。


 前はオウカが教えていたが、大統領となり忙しくなったので、機長がその役目を負っている。


 しかし、今更ながらパシク女性は可愛い。パシク女性は美人揃いで、しかもバストとヒップの発育が素晴らしい。


「先生できたよ、ほめてほめてぇ」

「あたしもできたぜ、これでひらがなはマスターだな」

「先生、【ね】と【れ】は、どっちがどっちか、教えていただけますか?」


 十代の少女たちが、機長の周りに集まりながら、色々な単語を書いた紙を嬉しそうに見せつけてくる。


「うんうん、良く書けたね偉いね。あとこっちが【ね】でこっちが【れ】れだよ」


 少女たちに文字を教える機長の顔は、もうゆでだこのようにデレデレである。


 ——あぁ、こんなピチピチでムチムチの巨乳美少女たちに先生と呼ばれながら暮らせるなんて、ここは天国か。


 むきだしのフトモモや二の腕、そしてシャツを押し上げるおっぱいが悩ましい。


 日本での生活を思い出す。


 毎日嫁にいじめられ娘からはバイ菌のように扱われ、本当に辛かった。


 家族のために働き生活費を稼いでいるのに、


「ご飯? 食べてくると思って用意してないわよ?」

「娘を塾に通わせるから小遣い半分でいいわね?」

「ママ、お父さんのパンツと一緒に洗濯しないでって言ったでしょ」

「え? お父さんお風呂入ったの? 汚、お風呂のお湯とりかえてよ!」


 なのに今は……。


「みんな、お昼ご飯ですよ」


 ドアをノックする音に、機長は舞い上がった。


 入室してきたのは、穏やかな笑みを浮かべた、とびきりの美女だった。


「いつもありがとうございますね先生。これ、お昼ご飯です。今は食料難でこんなものしかなくてすいません。先進国からきた先生にはお辛いでしょう?」


 申し訳なさそうに言って、彼女がワゴンから差し出したのは、おにぎりとこふき芋、それにつけあわせのサラダだった。


「いえいえなんのなんの、貴方の手料理に比べれば日本食などゴミも同然です。こんなおいしいものは食べたことがありませんよ!」

「まっ、先生ってばお上手ね」


 女性が頬に手を当てると、特大の爆乳が腕に挟まれて、むちむちっと強調された。

 ウエストは細いが、胸囲と尻周りの肉付きが良く、彼女の柔和な雰囲気も相まって、底なしの包容力と母性を感じさせてくれる。


 ——なんて、なんて素敵な女性だ。もう日本なんてどうでもいい。家族なんてどうでもいい。私はこの国で彼女たちと一生を添い遂げるのだ!


 だが、幸せな時は長くは続かない。


 機長がそう心に誓った頃、高橋翔太は、日本との会談を終えていた。


 終末のラッパが鳴るまで、あと五秒。


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