第39話 パシクって苗字ないの?


 ナナミって愛されているなぁ、と思いながら、俺は話を再開した。


「日本には学校病院上下水道整備とかの社会インフラ、そして道路鉄道港湾、発電や送電とかの経済インフラを頼む。加えて、各種農業機械と遠洋漁船、それに鉱山の掘削設備だな。パシクの鉱山はどこも鉱石を掘り尽くして閉山中だけど、日本の掘削設備ならもっと掘れるだろ」


「しかしショウタ殿、そのためには一つ問題があります」


 最近ではナナミと並んで、すっかり俺の秘書ポジションに収まっているカナが、眼鏡よろしく眼帯の位置を直しながら言った。


「閉山した山は国有地以外に、個人や企業所有のものが多くあります。そうした鉱山開発を進めると、利権問題で揉めるかと」


 神妙な声を上げるカナに、俺はニヤリと、悪い顔を見せた。


「そのことで一つ考えがある。みんな、確か、国王は大企業とはズブズブで、国民には重税を課しておきながら、癒着した大企業の脱税や税の滞納を見逃していたよな。そいつらから滞納した税金の取り立てをする予定なんだけど、物納を考えている。つまり、閉山した鉱山や、利用価値が低く見える土地だ」


 あ、とみんなの顔色が変わる。


「今、ミイネに親書を書いてもらっている。いらない土地や山を国有地にすれば、脱税と滞納分をチャラにしますよってな。そうすればタダ同然で文字通り、土地と山が山ほど手に入る。それらを開発して価値を最大限まで高めてから、将来的にまた財界人に高値で売りつけるんだ。さらにそこから税金を取ればいい財源になる」


 両手の中指と親指でお金マークを作る俺に、オウカは目を見張った。


「流石はショウタ、デキる男だな」

「まぁな」


 なんてことはない。異世界転移ラノベを基に、日本の経済の歴史について調べただけだ。


「だがショウタ、そうなると情報漏洩を避けるためにも、交渉役には既存の外務省官僚ではなく、このメンバーから選出するべきではないか?」


「当然だ。オウカ新大統領。頼めるか?」


「了解した。だが、大統領が一人でのこのこと出て行ったのではナメられる。ショウタ、貴君を外務大臣に任命する。ついてこい」


「農林水産大臣と環境大臣と経済産業大臣に続いて外務大臣か。オウカは俺を過労死させる気か?」


「いや、腹上死させる気だ」


 オウカが胸を持ち上げると、俺は顔を強張らせて、鼻の下が伸びるのを防いだ。


「ごほん、ところでその場で調印する可能性もあると思うんだけど、この国って苗字がないんだよな? ナメられるって話なら、名前だけより苗字もあったほうがそれっぽいぞ」


 オウカは、鋭い顔をしながらあごをなでた。


「ふむ、そうだな。しかし今から新たに苗字を考えるのも時間がかかる……ショウタ、貴君の苗字はタカハシだったな」

「おう?」


「よし、ではこれより我ら全員の苗字をタカハシとする!」

『異議なし!』

「なんでそうなるんだよ! 俺が全員と結婚したみたいだろ?」


「苗字とはファミリーネームだろう? 我らは家族も同然だ、なら、全員で名を共有すべきだろう。そのほうが団結力も上がる。それに、貴君とはいずれ結婚する予定だしな」

「いや勝手に決めるなよ!」


「ね、姉様と姉妹になるのはいいですがショウタの妻になる気はまだありません!」


 ――まだってことはいつかするのか?


「ショウタ殿に娶っていただけるなら自分は構いません」

「おいカナ、オウカが俺に求婚しているのに愛人宣言かよ」


 オウカがまばたきをした。

「何を言っている? パシクは一夫多妻だぞ?」

「…………は?」


 会議室の長テーブルに座っている各部隊の隊長たちは一斉に立ち上がると、熱っぽい表情で、前のめりに俺に視線を送ってきた。


「あの、オウカ、これは?」


「前に言ったであろう。権力の座に就いてから近づいてくる男など信用できないが貴君は別だと。それはパシク解放軍のメンバー全員に言えることだ」

「なっ!?」


 俺の意思とは関係なく、本能的欲求に由来する妄想が、下半身に広がった。


 美女美少女数十人分の視線を浴びながら、俺はその場で前かがみになった。


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