第37話 ギャグラノベだよね? はいギャグです

 22世紀。

 大統領は、深い眠りから目を覚ました。


「生きてる……」


 100歳を過ぎてから、眠るたび、部屋の天井を見られるか不安になる。


 目を閉じれば、もう目覚めることはないような気がする。


 起こしてくれた世話係の手を借りながら、大統領はベッドから起き上がり、着替え、朝の支度を済ませると、質素な病人食を食べた。


 消化吸収する力が弱っているので、各種成分に分解済みの栄養素を混ぜた、合成素材で作られた料理だ。


 食事が終わると、大統領は100年間変わらない、いつも通りの業務を進めた。

 資料に目を通し、国内外の状況を把握。


 それから、政治家たちや各省庁の事務次官、県知事たちから提出された、山のような法案、政策案を精査していく。


 脊髄反射に近い即断即決ぶりには、秘書たちはいつも驚愕させられる。


 インタビューに、彼らはいつも答える。


「人間技じゃない」「進化の特異点」「最初で最後の超人類」「ただの現人神」


 その一方で、大統領自身は笑いながら言った。


「私は高校を中退した中卒男子で勉強は大嫌いでしたよ。だけど、大統領になって嫌でも覚えた。まぁ、強い意志さえあれば、大統領なんて17歳の子供にも務まるってことですよ。だって簡単でしょ? やるべきことをやる、それだけなのだから」


 午前の業務を終えると、大統領は、50人を超える子供、孫、ひ孫、玄孫たちに連れられて、宮廷を出た。ちなみに、まだ赤ん坊の来孫は、乳母車に乗って同行する。


 宮廷の敷地から出ると、外は、地平線の果てまで続くような群衆で埋め尽くされていた。


 国内外を問わず、一千万人を超える人々が大通りから続く国道の左右を埋め尽くし、人垣を作っている。


 今日は特別な日で、これから、長い道のりを歩き、集まってくれた人々に姿を見せる予定だ。


 途中からは車に乗るが、大統領は可能な限り自分の足で歩きたいと言った。


 そして、歩き出す前に、数十万人の群衆が笑顔で言った。




『だいとうりょう! ひゃくじゅうななさいのおたんじょうび、おめでとう!』




 数十万人の拍手と歓声が大合唱する。


 遠くの鐘楼で鐘の音が響き、係の者たちが白いハトの群れを飛ばした。


 それから、国際ギネス協会の会長が、数枚のギネス認定書を、大統領に見せた。


「これは、協会からの誕生日プレゼントです。貴方は、【大統領在位期間最長記録】【大統領最高齢記録】【GDPの増加記録】【人口の増加記録】【国内死者数減少記録】【支持率記録】【ファンレターを貰った枚数記録】【誕生日に集まった人数記録】【ノーベル平和賞を受賞した回数世界一】そしてあなたが17歳の時に得た【世界最年少大統領、大臣、政治家】、【一人で兼任した大臣の数】を合わせ、【世界でもっとも多くのギネス記録を持った大統領記録】です」


 会長から認定書を受け取り、大統領がお礼を言う。認定書は家族の手に託され、大統領は国民に埋め尽くされた通りを、自分の足で歩いた。


 誰もが笑顔で、嬉しそうに手を振り、大統領の名を呼んだ。


 大統領も、笑顔で左右の人々に手を振り、会釈を続けた。


 同時に、大統領は死んだ妻たちのことを想っていた。


 自分が恋した妻たち。愛した妻たち。自分をこの国に連れてきてくれた妻たち。


 彼女たちは、全員、自分よりも先に逝った。


 それはとても悲しいことだけれど、自分の死で彼女たちを悲しませずに済んだ。


 そう思えば、これが最良なのだ。


 不意に、人垣の中から、一人の幼女が転び出た。


 大統領は、老いた足で駆け寄ると、スーツが汚れるのもいとわず、膝をついてしゃがみ込んだ。


 そして、幼女を抱き起こして、彼女の服から砂を払った。


「だいじょうぶかな?」

「う……うん」


 幼女は怪我こそしていないが、やはり痛かったようだ。表情が辛そうだ。


「でも痛かったね。ほら、アメだよ。これで元気いっぱいだ」

「ありがとう♪」


 笑顔の幼女の頭をなでると、大統領は再び歩き始めた。


 国中の人々から愛されながら、祝福されながら、歓迎されながら。


 彼は笑顔で歩き続けた。


 この一か月後の朝、世話係が大統領を起こしに行くと、彼はもう起きなかった。


 訃報は世界中を駆け巡り、彼の崩御を知った人々は深く悲しんだ。


 そして、空を見上げて祈りを捧げた。


 この世で最も尊き、至高の魂の安寧を願って。



   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆



 ミイネの協力を取り付けてから一週間後の昼。


 彼女には、俺と同じ執務室で各所に親書を書いてもらっていた。


 今では、毎日パソコン作業に明け暮れている。


 ミイネはこの国の姫で顔が広い。


 その彼女から、新政府に協力するよう親書が届けば、日和見主義の企業や組織は従うし、国王派の組織も、嫌とは言わないだろう。


 事実、ミイネからの親書を受け取ったパシク国内の企業、投資家、実業家や県知事たちは、続々と初詣ならぬ大統領詣とばかりに宮廷を訪れている。


 オウカは、毎日何十人もの人々と面会し続け、彼らと親交を深めている。


「さてと、そろそろ閣議の時間だな。ミイネも参加してくれないか?」


 途端に、ミイネは視線を逸らした。


「や、やめとくわ、部屋にいる……」


 火炙りの刑に処されて以降、ミイネは少し臆病になっていた。別にオウカが火炙りにしたわけではないのだから、そこまで警戒しなくてもいいと思うんだけどな。


「じゃあ行ってくるよ」

「あ、待ちなさい」


 俺が執務室を出て行こうとすると、ミイネに呼び止められる。


 振り返ると、彼女は上目遣いに俺を可愛く睨みながら、唇を尖らせた。


「今はあんたらが政府なんだから、この国、よくしてよね」

「おう」


 力強く頷いてから、俺は執務室を出た。



   ◆


 ゾンビパニックマニアの鈴木鉄平は、5年がかりで完成させたノート50冊分に及ぶ最強ゾンビパニック指南書を作っていた。


 その内容は、全て暗記済みだ。


 計画通り、エアーネイラー(釘を打つ機械)を改造して銃を作り、モップの柄に包丁を取り付けて槍を作った。


 左手に槍、右手に銃のスタイルで、鈴木鉄平は港町を駆け抜ける。


 駆逐したゾンビの数は、100から先は数えていない。


 最初は、にゅあああああああ、とか叫んで逃げ惑っていた鉄平だが、時間の歩みと共に感覚が研ぎ澄まされ、本当の自分に目覚めていくのがわかった。


 拾った迷彩柄のジャケットを羽織り、サングラスをかけた姿で町を歩いていると、物陰からゾンビが襲ってくる。


「雑魚が」


 コンマ一秒の閃きが、ゾンビの首を刈り取り、屍のあるべき姿へと帰した。


「愚かな、槍術通信講座3級を持つオレに勝てるとでも思ったか」


 その時、少女たちの悲鳴が聞こえて、鉄平は駆け出した。


 喫茶店の玄関フードのガラスが割られ、五体のゾンビが入っていく。


 中には、3人の巨乳美少女たちが腰を抜かしていた。


 鉄平は、早撃ちガンマンよろしく、エアーネイラーの引き金を五回引いた。


 釘は狙い過たず、ゾンビたちの後頭部のやや下、ぼんのくぼ、と呼ばれる急所を直撃して、脳髄を致命的に破壊した。


「怪我はないか?」

「き、君は……?」

「俺は鈴木鉄平、日本人だ。ここは危ない。近くに大型スーパーかデパートはあるか?」

「スーパー?」

「ああ、立てこもるなら大型スーパーかデパートがいい。案内してくれ」

「は、はい!」


 少女たちは立ち上がろうとして、赤面した。

 彼女たちは恐怖で失禁し、短パンやスカートを汚していた。


 鉄平は、紳士的に目を背ける。


「さぁ、早く行こう。そこなら必要なものが全て手に入る」


 少女たちは、静かに頷いた。

「あの、鉄平さんは、どうしてそんなに冷静なんですか?」

「なんてことはない。こうした状況を見据えて、長年対処法を研究し、訓練してきただけだ」

 鉄平はクールに告げた。


「この状況を見越していたんですか!?」


「ああ、そのためにゾンビモノを500本見て勉強して通信講座で槍術と射撃術を習った」

「ゾンビモノってなんですか?」


「対ゾンビ用の教材だ。日本ではメジャーだぜ」

「え? 日本て日頃からゾンビ対策しているんですか?」

「ある意味そうだな。だから俺に任せろ。武器の作り方、扱い方、バリケードの作り方、立てこもり方、逃げ方、全て教えやる」


 男前過ぎる頼もしい声に、少女たちはうっとりとした。

「「「はい、鉄平くん!」」」


 ——翔太。俺は今、夢を叶えているぜ!


 鉄平は外に出ると、青い空に友の顔を映した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 60000PV ! 600フォロー! 980♥! 230★! コメント21件!

 一日7332PV達成です!

 皆さん、応援ありがとうございます。

 本作に★をつけてくれた

aupoさん KENT93さん yuponponさん tyanntyannさん Lonly_Cornさん 

鳳 銀さん azalea79さん 

 エピソードに♥をつけてくれた

kazu1202さん ryulion21さん yo4akiさん maroyanさん gyalleonさん

yuma02さん zyuugoさん yanma0x0さん kctonkiさん crimson00starさん

ウミガメさん bacon24さん koyosukeさん tamine-TAさん kaminokehosiiさん

bystonwelさん tuzaki-miyabi811さん コギタンスさんkeketakaさんyohikorotaki10さん

yuryさん 鳳 銀さん kaleidさん farandollさん jiro40さん

おうむさん n5hl_14n5さん hibaru55さん taisuke441さん AKIRA0214さん

nufunufuさん tyanntyannさん shirogane-kaichoさん yutaka0221さん

sasuraibito2010さん rntoさん KENT93さん 空真木 我道良さん

 コメントをくれた

ききららさん japtoolさん kctonkiさん サキハさん farandollさん

tamine-TAさん keketakaさん shirogane-kaichoさん

 私をフォローしてくれた

shiki789さん REXさん mh683724さん St205さん h9312451さん

ラズリさん kotakinakoさん 555913000さん keitanishiさん かげほうしさん

 本作をフォローしてくれた

bookbearさん index9614さん 緋箒 楓さん kazuma0626さん tukiyo02さん

mahuyuさん hdhahさん bacon24さん rinyui1114さん ioliterさん

nononspecialさん masa37さん kazu1202さん りンゴ君さん hotarokishさん

yoshy412さん nagare23さん kakuyom-yukiさん namiheiwww1さん 嶺上開花さん

奥沢賢一さん nukoroaさん TBMさん shino1422さん mormor333さん

cvjetlolさん 岡島 緑郎さん Elsinore7010さん 月読真琴さん koyosukeさん

rogu632さん keketakaさん koko2525noronoroさん agjdmwtpさん hesanさん

nop1111さん 1998Tigerさん newataraさん skytyさん kappa_chanさん

ジトさん tatikonさん Hamagikuさん 空真木 我道良さん amatorunnerさん

U--naさん bbjonnyさん shoyu1213さん アルエさん mainolityさん

 ここまでの応援、本気でありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る