惑星クレーンゲームのアームが弱すぎる問題

ちびまるフォイ

取れたら惑星お送りします

さびれたゲームセンターに見慣れないクレーンゲームがあった。


「惑星……キャッチャー?」


ガラス張りのケースの中にはいくつもの惑星が入っている。

『取れれば惑星が独占できます!』と書いてある。


1回100円で挑戦して惑星がもらえるなら安いものだ。

硬貨をつっこんでゲームに挑戦する。


「どれを狙うかなぁ……。あれ? 地球か?」


デカい惑星の影に隠れてて気づかなかった。

『地球』とかかれた青い惑星を見つけた。


「地球を取ったら、地球を好きにできるのか!」


すぐに脳裏には中学生男子が考えるレベルの天国絵図が浮かんだ。

ボタンを押してクレーンを地球の直上へと移動させる。


「ここだ!」


クレーンは狙い通り地球の真上から下がっていく。

ど真ん中でしっかり地球を受け止めると、そのまま持ち上げてゆく。


そして、排出口のほうへ向かい。


落ちた。


「んなぁぁぁぁ!?」


クレーンのアームからはずれた地球は転がってまた奥へと行ってしまう。


「これアームゆるすぎないか! どんな調節だよ!」


およそクレーンゲームが得意じゃない人が言うであろう捨て台詞テンプレートを恥ずかしげもなく叫んだ。

文句はいいつつも再挑戦するあたり、その言葉が本気じゃないあらわれである。


「んがぁ! また落ちた!」

「ちくしょう! 今の惜しかった!」

「え……これ、無理ゲー……?」


何度か地球にアタック仕掛けてみたが手応えは感じられなかった。

ポロポロこぼれる惑星にイライラしてしまう。


「うーーん……やっぱり地球は小さいから難しいのかな」


ガラスを隔てた向こう側には代償さまざまな惑星がある。

地球はその中でも小さめの惑星。

月はもっと小さい。


「どうしようかな……」


クレーンゲームの周囲をぐるぐる回って惑星の品定めをする。

おそらく、これがキャンプファイヤーの周囲でダンスする謎儀式の起源であろう。


「土星は……これいけるんじゃないか!?」


土星の周囲にはわっかが付いている。

これがアームに引っかかって運べるんじゃないか。

惑星のサイズも大きめなのでしっかり掴めそうだ。


「ようし! 土星ゲットだぜ!!」


かぶっていた野球帽のつばを後ろに回して再挑戦。



数分後、台パンするほどに俺は荒れていた。


「うあああああ!! こんなの絶対ムリじゃねぇかーー!!」


サイズが大きい惑星はアームが締まりきらない。

土星の輪っかをひっかけるどころか表面を撫でるだけで終わってしまう。


その後も、手を変え品を変え惑星を変えてチャレンジしたが

小さな惑星は持ち上げれば落ちるし、

でかい惑星は持ち上げることすら出来ずに終了。


しだいに自分の中の天使と悪魔が

「もう諦めろ」と共通の答えを出しかけている。


「そもそも、店側が商品のもとを取れなきゃ成立しないし

 そう考えると惑星がもらえるのに100円で取れるわきゃないよな……」


これで最後にしようと財布から100円を取り出す。


もう最初のギラギラした熱意は影を潜めて、

自分を納得させるための消化試合に近い意識になっている。


排出口に一番近い木星に狙いを定めてクレーンを下ろす。


雑に狙ったこともあり、真上どころか惑星の横っちょへ位置どる。

捕まえる気のないアームが申し訳程度に動き、だらしなく表面を上滑りした。


「はいはい。これで終わり、と」


木星を捕まえることなくクレーンが上がる。

そのとき、木星がゴロと横に大きく転がった。


「……今、動いた?」


木星はあきらかに初期位置から転がって移動していた。

アームの締まる動作で惑星が転がっていた。


「こ、これだ!!!」


頭に雷がうたれたような衝撃を感じた。

捕まえて取るのではなく、転がせて取ればいい。

惑星は丸っこいのでゆるゆるアームでも転がすことはできる。


成功への道筋が見えたとたん、

さっきまでの諦めムードは消え、目には熱意が宿る。


「木星は俺のものだ!!」


クレーンを何度も下ろしては転がし、ゴールへと近づけてゆく。


今までこれほどなにかに真剣に取り組んだことがあっただろうか。

頭の中では身に覚えのない強敵との戦いや親友との別れのシーンが浮かんでゆく。

終わりはもう目の前。


ゴロン。


「やったぁ!!! 木星が落ちたぞぉぉぉ!!!」


何度も転がされた木星は排出口へと吸い込まれていった。

排出口に手を突っ込む。


「……あれ? おっかしいな。ないぞ?」


何度も排出口をまさぐってみるが、何も落ちていない。

幸せな気分は一瞬にしてどす黒く汚されてしまった。


「この詐欺ゲームめ!! 惑星くれるんじゃないのかよ!!」


これにはもう我慢の限界だった。

さまざまな不正を目をつむっていたが、景品すら渡さないなんて。

こんなのゲームじゃなくてただの集金装置じゃないか。


「ふざけやがって。もう二度とくるかーー!」


ぷんぷんと怒りながらゲームセンターを出た。

外は昼間なのに真っ暗になっていた。


ふと顔をあげると、雲を裂いて大きな物体が接近していた。




『地球のみなさん! 今、地球に木星が接近しています!

 どういうわけか表面には"景品"と刻まれてて……ブツッーー』

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