第6話 リーダーを決めてみました

 〈テレポート〉で兵を送り、〈念話〉で指示を出す。集めた物は〈鑑定〉で調べて、見つけた水源も〈水質検査〉で調べる。

 ここに集まる10,001人の浮浪者を救うには、まさにこれしかあるまい!

 試しにこの草を〈鑑定〉、と。



 【コミエン草】

 神が誕生した地に生える草。生命を呼び込む不思議な力がある。食用としては栄養はほとんどない。



 視界に表示された文字は、まるで元々知っていたかのように、脳に直接情報を送る。不思議な感覚だった。

 なんかやたらと凄そうな草だったんだな、これ。食えんけど。


 狩りや採取に行くとしても、1万人で行動するのは無謀だよなー。念話も流石にそんなには大人数は処理出来ないし。

 転移結晶が9個まで作れるから、ここに1個作ったら残り8個。8つのグループに分ける? 切りが悪いな。1,000人単位で10グループで……いいか。


 まずは周辺情報を確認してみてからかな。メニュー画面から【マップ】を選択する。


「すごっ……」


 思わず声が漏れた。

 平面の地図をイメージしていたが、映し出されたのは、まさに立体映像ホログラム

 地形の凹凸、森林の大きさ、山の高さまでもが再現されている。現在地は赤い丸で表示されていた。


 こ、この技術を使えば精密で崇高な、『魔法お姉さん、タラリナ・カタリーノ様』が作れるんじゃないだろうか。

 俺がそう考えた瞬間、


「うぉぉぉぉおぉおぉ!」

「さすがは神だ!」

「かっみさま! かっみさま!」


 先程と同じくらいの歓喜の叫びが響いた。

 お、お前たちも同志だったのか!

 彼らに少しだけ親近感が湧いた俺がいた。


「神様、すごいですね! 流石です!」


 俺に声をかけるのは手前に座っていたエルフの青年だ。

 耳は尖り、血色の薄い白い肌を持ち、髪と瞳は自然を連想させる緑色をしている。


「ん? 地図? タラリナ・カタリーノ様じゃなくて?」

「は? 誰でしょう? そのタラタラなんとか様って?」


 間違いない。こいつは紛れもない“敵”だ!

 とはいえ俺には言い返す度胸もなく……程なくして、歓声は【マップ】に対してだと気がついた。

 幼女ユリアみたいに心を読めるわけじゃないし、当然といえば当然だよな……。


 彼らにも【マップ】は見えているのか。メニューや【ステータス】も見えているのだろうか?


「あ、えーっと……さっきのエルフの君。これは見えている?」


 メニュー画面に戻してからエルフの青年に尋ねた。


「ルインです。なにも……見えません」

「じゃあこれは? 見える?」


 次に【ステータス】に切り替えると再び尋ねる。


「それも、見えません」

「そうか。ありがとう」


 なるほど。【マップ】だけは見えるのか。

 活動場所を決めた後に、みんなにも周辺の地理を覚えてもらうのには使えそうだな。


 さて、今日の課題は食料と水の確保が最優先。ついでに拠点にできそうな場所も見つけられたら尚良い。

 現在の時刻は11:27。活動時間も考えると、あまりぐずぐずはしていられない。


 とりあえずここにいる彼らをグループに分けようか。

 リーダーは……どうやって選ぼう……。都合よくリーダースキルとかは存在しないのかな。

 そうだ! 試しにルインに鑑定、と。



 【名 前】 ルイン 〈体 力〉 7

 【種 族】 エルフ 〈 力 〉 5

 【性 別】  男  〈魔法力〉 4

 【クラス】 歩 兵 〈耐 性〉 5

 【職 業】 な し 〈素早さ〉 3

 【階 層】  1

 【能 力】 な し



 ルインの横に文字や数字が現れる。“コミエン草”の時と同じように、頭の中に情報が流れ込んできた。

 おぉ! 一般用ステータスはこうなってるのか。耐性? 防御力のことだよな、きっと。

 ルインは体力高めの素早さ低めか。能力は、なし……。果たしてこの数値高いのだろうか?

 さっきの猫耳の子はどうだろう、鑑定。



 【名 前】 シエラ 〈体 力〉 5

 【種 族】 獣 人 〈 力 〉 4

 【性 別】  女  〈魔法力〉 7

 【クラス】 魔法兵 〈耐 性〉 4

 【職 業】 な し 〈素早さ〉 4

 【階 層】  1

 【能 力】 な し



 おい! なんで魔法兵なのに魔法が使えないんだよ!

 レベルみたいなものが上がらないと能力は覚えないんだろうか。階層がレベルなら上げるのは大変そうだな。

 ヘルプせんせーい! 能力について教えてくれ!


「えーっと、能力とは、誰でも、どの魔物でも、覚えることが出来る特別な力。階層が上がると所有個数が増えたり、力の強さが上がることがある」


 やはり階層なのか。

 俺はとりあえず10人鑑定してみたが、特別ステータスの高い者はいなかった。

 リーダーはこの10人でいっか……。


「みんな! いいか、くれぐれも静かに聞いてくれ。絶対だぞ! 話が進まなくなるからな」


 俺は声を張っていうと、彼らは無言でうなづいている。

 話すたびに揉みくちゃにされたり、騒がれたら明日になりそうだ……。


「俺は神、ダールデンだ。みんなにはこれから食料と水の確保をしてもらいたい。できたら大人数が寝れそうな所も見つけてきてくれたらありがたい」


 1万人の視線は相当なものだ。足が竦む。

 いつもの俺なら全力で走って逃げ出しているだろう。それでも実行できたのは『神が絶対的存在』という認識があったからだ。

 多少かっこ悪いことをしても、貶されたりしない。むしろ尊敬の眼差しを向ける彼らに、優越感に浸っていた。


「今から名前を呼ぶ10人は前に出てきてくれ! ルイン、シエラ、ワーワー…………バルデラ。以上の10名だ!」


 一人一人返事をし、前に出てくる。中には「ひゃい!」と舌を噛みながら慌てて飛び出してきた者もいた。

 それにしても大声を出したのはいつ以来だろう。


 選んだのは、

 エルフからルイン、マリベール、アンジェの3名。

 獣人からシエラ、モコモコ、キース、バルデラの4名。

 人からワーワー、フィロル、シバザキの3名。


「今から1000人1組でグループを作るつもりなんだが、君たちにはそのグループリーダーを任せたい。引き受けてくれるか?」


 みんな緊張した様子だったが、首を横に振る者はいなかった。

 人の視線にも、ちょっとずつ慣れてくる。

 今まで何もしてこなかった俺でも、神としてなら色々出来るんじゃないかって思えてくる。

 グループの決め方は多少大雑把でもいいだろう。


「じゃあリーダーのみんなは横に並んでくれ! 他のみんなは、リーダーの後ろに1列に並んでくれ! 細かく人数は数えないから横の人と間隔を合わせるように!」


 これだけの大人数だ。並び終わるまでに、それなりに時間はかかる。

 その間に俺は活動場所の選定だ。


「ルイン、この場は君に任せたいんだが、お願いしてもいいかな?」

「と……言いますと?」


 不安そうに、不思議そうに、ルインは首を傾げた。


「俺は今から、活動の拠点になりそうな場所に“転移結晶”というものを設置してくるから、この場から一時離れようと思う」

「そういうことですか。わかりました!」


 ルインは快く引き受けてくれた。

 リーダーたちに「どうかお気をつけて」と見送られ、俺は少しだけ距離をとる。


 よし、まずここに1つ作ってみるか。


「転移結晶の作成」


 その言葉と共に“それ”はまるで別の空間から取り出されたかのように顕れた。

 長さ3メートルほどの、縦に長い菱形の鉱石が宙に浮いている。透けるような青色をした鉱石は、表面はごつごつといくつのも角が残っていた。


 その後すぐに『ティン』と機械の効果音のような音が、俺の頭に響く。

 どこか懐かしい音。なんの音か分からなかったが、再び【マップ】を見ようとメニューを開いたときに解決した。

 【お知らせ】の横に“new”と新しく追加されていたのだ。開いて見てみると、転移結晶の名前をどうするか、という内容だった。


 確かに複数個作るなら、名前がないと不便だ。ややこしい名前だと覚えるまで大変そうだよな。

 『タラリナ・カタリーノ様』の魔法名を順に付けて、普及させたい気持ちを抑え、とりあえず『転移1』と付けた。


 後はどこに作ろうか。【マップ】を眺めながら俺は考える。

 水場が近く、食料が豊富にありそうな場所。森や山の麓、それに海の近くもいいな。


「これは……滝か? 近くに洞窟もあるし、ここ良さそうだな」


 とりあえずここにテレポートしてみて……いや、あまりにも条件が良すぎるか……?

 立体映像ホログラムに鮮明に映し出される、森の中で滝が流れ、それに繋がるように流れる川。


 他の生き物の生息域になってそうだったので、少し離れた見晴らしの良い場所に転移結晶を作ることに決めた。

 俺は【マップ】の行きたい場所をタッチする。


「テレポート」


 視界が一瞬、白く光ると俺は森を見渡せる平地へと移動していた。

 

「はは……なんかこの世界に来たときと同じ感じだったな」


 実はテレポートでこの世界に連れてこられたんじゃないのだろうか?

 そんな疑問を抱きながら、周囲を見回してみる。近くに危険なものは……なさそうだな。

 とりあえずここにも転移結晶を作成っと。


 俺は残り7ヶ所にも同じように転移結晶を作ると、彼らが待つ草原へと帰還した。

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