第4話 お金持ちになりました

「お金持ちになりました」


 誰かに対して言ったわけではない。強いて言えばかな。

 傍から見れば友達のいない、かわいそうなおっさんと映るだろう。

 だかしかし! 今の俺は他人にどう思われようが知ったことではない!


 メニュー画面の左下に小さく並ぶ9桁の数字。

 100,000,000Gと書かれたそれを見ては、俺は顔をにやけさせる。

 G――読み方は“ガルド”――とは、お金だ。欲しいものと、なんでも引き換えてくれる魔法のコイン、お金だ。


 1ガルドが日本円にして、どれくらいの価値があるのかは見当も付かない。

 だが、例え10分の1だったとしても、100分の1だったとしても、1000分の1だったとしても構わない。いや、1000分の1は困るな。流石におにぎりに1万は払えん。

 その時は、神々の法廷――あるか知らないけど――とやらに行って、幼女ユリアに大々的なデフレの要求をしてやる。


 神の凄いところはこのGガルドが毎月受け取れる! いわば不労所得ってやつだな。

 そうだ! 俺の世界は、働かざる者食うべからずの思想を完全撤廃。そして新しく、ガルド持たざる者食うべからずの思想を定着させることにしよう。




 ○




 時を遡ること30分ほど前。


 幼女ユリアが消え去った後、俺はひたすらだらけていた。

 草の上に横になり、足をバタバタとさせてみたり、ごろごろと転がったりしていた。


 メニューの使い方がわかった今、何かをしないといけないのは分かってる。いや、しないといけないんだ。

 その“しないといけない”という強制力が“ニート”の俺からやる気を根こそぎ奪う。無理矢理誰かに仕事を押し付けられているような、そんな感覚に陥る。

 まぁ、働いたことないんだけどね!


 どうにかこうにか重い腕を上げて、俺が選択したのは“new”の文字で強調された【お知らせ】だった。

 【お知らせ】の中身はメールの受信箱のようになっていて、画面の上の方に1行だけ、『神々の皆様へ』と書かれていた。

 そのまま文字に触れると画面が切り替わる。



 神々の皆様へ

 

 今月の支給金です。

 こちらからお受け取りください。

 神  :  ダールデン 殿

 階層 :    1


    100,000,000 G


             【受 取】



「えっ……お金? いち、じゅう、ひゃく…………い、いちおく!?」


 驚きのあまり10回くらい数えたが、何度数え直しても結果は変わらない。後から返せとか言われたり、利息とか付いたりしないよな……?

 額が額なだけに指が震える。怖くてなかなか【受取】が押せない。

 取り立てに悪魔みたいなやつきたらどうしよう……。

 俺は唾をゴクリと飲み込み意を決し、


「えーい、なるがままよっ!!」


 と【受取】を押そうとした時、画面に変化が現れる。

 な、なんだこれは⁈

 黒背景に赤文字で書かれた一文が浮かび上がり、真夜中の信号のように点滅を始めた。


『はやく【受取】をタップしてください』

「――――」


 なんかイラッとしたので無心で押した。

 

 まだだ、俺の戦いはまだ終わっていない!

 急いでメニュー画面へと戻す。左下の金額は――増えてるっ!

 次は【ヘルプ】をタップする。


「うわぁ……この中から探すのか。はは……しかもこれ、スクロールできんのかよ……」


 俺の目に飛び込んできたのは、膨大な文字の山だった。

 〈スキルについて〉〈テレポートについて〉〈兵種について〉〈人口の増やし方〉などなど、たくさんの項目が並んでいる。

 どうやら選択すると、その情報が開かれるようだ。


 いくらスクロールしても左下にずっと付いてくる“音符”のようなボタン。


「ま、まさかな……」


 恐る恐る“それ”を押した。


『キーワードを発言してください』

 ………………。


「これはスマートフォンですか?」

『お探しのキーワードは見つかりません』


「スマートフォンを開発したのは神ですか?」

『お探しのキーワードは見つかりません』


 いかん、いかん! 遊んでいる時間はないんだった。今こうしている間にも俺の1億Gに莫大に利息がかかっているかもしれないんだから!


「支給金について」

『1件の情報が見つかりました』


「えーっと、なになに。支給金は毎月1日、5:00に【お知らせ】より送付されます。金額は階層レベルによって変動、高い階層の方が支給額も多くなります。


 返済義務はありません。その言葉が、俺の頭の中でぐるぐると回転をはじめた。

 ようやく俺も、『母親にオレオレ詐欺まがいの電話をかけて、冷たい言葉をかけられる』仕事から解放されるんだな。

 もう……金に困ることはないんだ。なんか泣けてきた。

 そうだ、ついでに、


「Gについて」

『2件の情報が見つかりました』


「2件か。女性のカップサイズのひとつ……極めて大きい胸……」


 この情報【ヘルプ】にいる⁉ 

 いや、これは大切なことだ。胸の大きさが元の世界と同じ基準というのは貴重な情報だな。


「もうひとつは、読み方はガルド。神々の世界で流通している通貨の単位」


 Gガルドか。この100,000,000Gガルドは俺のものだ!



 そして冒頭のシーンへとつづく。

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