公園のベンチに小さな男の子が座っている。

 遊び回る他の子どもたちを羨ましそうに見ながら、時折空咳をしていた。

 ケホケホと咳をする男の子のところに、小さな女の子が近寄った。


「きみは、あそばないの?」


 涼し気な空気を纏って話しかけてきた女の子に、男の子は驚いて答えに迷う。


「うん……ううん。あそびたいけど、ぼくはダメなんだ」


「ダメって?」


 小首を傾げる女の子に、男の子は寂しげに笑って答え、咳をする。


「ダメな子なんだよ……ゴホッ、ゴホッ! 体がよわくって、あそべないんだ。わるい空気をすっちゃうと、咳がでるんだ。力もつかえなくなるし……」


「そうなんだ、たいへんだね……じゃあ、これならどうかな?」


 冷たい風が女の子の体から広がり、ベンチと男の子を包み込んだ。

 男の子のまつげとベンチに霜が張り、男の子は慌てて飛びのき、目を触る。


「わっ! なにこれ……? イタズラしちゃダメなんだよ」


「あっ、ごめんね。ぼーそーしちゃったかな。ちょっとやりすぎちゃった」


「こおりがとれないよ……あれ? つかえる……?」


 男の子が呼吸をすると、地面にできていた影が奇妙に蠢いた。

 大きく息を吸い込むと、影が伸び上がり、男の子の顔に触れる。

 まつげを覆っていた冷たい霜が、溶けるように消え去った。


「すごーい! 大人でもわたしの力は溶かせなかったのに」


「そんなのつかっちゃダメだよ……溶かしたんじゃないよ、枯れる力なんだって……なんでつかえたんだろう?」


 文句を言いながらも不思議がる男の子に、女の子が笑って手を伸ばす。


「ダメダメ言っちゃダメだよ。ふふっ、わたしがきれいな冬の空気にしたんだよ? これなら、いっしょにあそべるね!」


「力つかっちゃダメなのに……ううん。でも、ありがとう。うん! あそぼう!」


 それから、ふたりは楽しく遊ぶようになりました。

 女の子が力を使い、男の子が後始末をする関係が続き、楽しく遊びました。

 それが大人の手にも余る力で、成長させることを禁じられていた事も忘れて。


 親や大人たちの目を盗んで力を使うことを覚えたふたりは、たくさん遊びました。

 女の子――美冬は、空気を強制的に冬にする能力をすくすくと成長させました。

 男の子――秋人は、影を使って枯渇させる能力を磨いていきました。


 ある日の事。


「引っ越ししちゃうの、秋人!?」


「うん……美冬のいない時だと、どうしても咳をしちゃうから……空気のいいところに引っ越そうって……」


「そんなの駄目! 私とずっと一緒にいればいいじゃない!」


「もう……駄目って言っちゃ駄目だよ、美冬。……僕を治せるお医者さんが向こうに居るらしいから、体を治したら帰ってくるよ。それまで、待ってて?」


「そんな、お医者なんて……ううん、いいわ。空気が綺麗になればいいのよね」


「……美冬?」


「私も手伝うから、絶対早く帰って来てね。そしたら、また一緒に遊ぼうね!」


「うん、待ってて。帰ったら、また一緒に遊ぼう!」


 そうして二人は別れた。

 暴走した美冬の力が東京を包む、数日前の出来事だった。

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