第51話:勧誘

「こんなことが、これから何度も続くって言うのか」


「だからこそ、ユウトさんに、この問題を解決してほしいんです」


「無理だよ。今回だって死にかけたんだ。なんで僕なんか選ぶんだよ。勇者だっている世界なんだ。他に頼りになるやつはいくらでもいるだろう!」


「私たちがユウトさんを選んだ訳ではないんです。必要とされる時に、必要とされるところにいた。巡り合わせとしか言いようがありません」


 シャインの言葉を、僕は受け入れることができない。こんなことを巡り合わせの一言で片付けられてはたまらない。


「僕には無理だよ。今回だって、カルダさんを死なせてしまった」


「いいえ、ユウトさんはよくやってくれました。魔物を倒したのにも驚きですが、なにより魔瘴気を消せるのはユウトさんしかいなかった」


「僕には、向いてない。世界のために命をかけるなんて勇気はない。それを救う実力もない」


「いいえ、適任です。前の世界からユウトさんがなにをしてきたのか、私は知っています。その責任感と献身、他人を助ける優しさ。それはユウトさんの紛れもない力です。だからこそ、この世界でも管理人になった」

 シャインが説得を続けてくる。


 瞬時に頭に血が上るのを感じた。責任感と献身。そんなものが僕の力だというのか。そのせいで、報われることもなく、一度死んだのだ。それは僕の弱さでしかない。


「僕だけが損をするなんて……もう嫌だ。前の世界は失敗だった。あんなとこはもう繰り返さない!」


「でも、今回だって、世界を救うつもりはなくても目の前の困っていた人を助けました。ユウトさんには力があり、適性もある。それを伝えたかっただけなんです」

 シャインは申し訳なさそうに目を伏せる。


 僕は我に返って、目の前を漂う妖精を見つめる。シャインにあたっても仕方のないことだ。


「怒鳴って悪かったよ。ただ、話が大きすぎて、冷静になれない。少し考える時間をくれ」


「はい。むしのいいお願いをしていることは分かっています。強制することもできません」

 話を終えると、現れたときと同じように、唐突にシャインは姿を消した。


 カルダの最期を思い出す。人が死ぬのを目の当たりにしたのは初めてのことだった。気づかないうちに、僕も消耗していたのかもしれない。激昂したことを反省する。


 その日はそのまま一人で眠りについた。


 翌朝、目覚めて村の中を巡ると、エリルが既に旅支度を終えて待っていた。


「もう行くんですか?」


「ここにもう用はないからな。それに、よそ者は葬魂の一族を刺激する」

 エリルは淡々と言う。


 大した荷物もないので、僕もそのまま旅立つことはできる。慌てて、別れを言うためにメアを探した。


 村の一角でメアを見つけ、声をかける。もうここを去ることを伝えると、メアは驚いて目を見開いた。


「まだ昨日の疲れもあるでしょう。もう少し滞在されたらどうですか?」


「いや、治療してもらったおかげで、身体はもう大丈夫だよ。それに、葬魂の村に、僕たちがあまり長居しない方がいい」


「ユウトさんとエリルさんなら、大丈夫です。みんな感謝してます。それに、まだお礼をお渡しする準備もできてません」


「謝礼はいらん。いくつか集落を潰されたようだし、村も被害が大きいだろう」

 エリルが気遣いをみせる。


「そういうわけには……」


「ヒュドラの牙と鱗は貰ったからな。それで十分だ」

 どうやら、エリルは魔物のドロップアイテムを回収していたようだった。


「メアはこれからどうするの?」


「分かりません……。父と二人暮らしでしたし。村の人たちに相談します」

 メアは不安そうにする。


「もしよかったら、テトラ・リルへ一緒に来ない? 訳あって、ダンジョンを攻略しないといけないんだ。メアの力を貸してもらえたら助かる」


「そんなっ。私が一緒に行けばユウトさんにご迷惑がかかります。私を誘わなくても他に腕利きの冒険者はたくさんいるはずです」


「そんなことないよ。二人より三人の方がいろいろな連携もできるし、信頼できる仲間が増えたら嬉しい」

 本心からメアを誘う。


 あのヒュドラの攻撃をしのいでいたメアの力は確かなもので、きっと他にもいろいろな降霊もできるはずだ。


 それに、カルダはメアが外の世界に出ることを望んでいた。その想いにも応えたい。世間の風当たりは強いだろうが、きっと親切な人たちにも出会えるはずだ。


「私からも頼む。このすぐ死にかける低ランク男の面倒を、一人で見るのは骨が折れる。お守りが増えると助かる」

 エリルもメアを誘ってくれた。


「ひ、ひどいっ。今回の僕の戦いを見たでしょ! もう足手まといとは言わせませんよ」


「まだたった一回役に立っただけだろう。今回うまくいったのは、たまたまだ」

 昨日ほめてくれたばかりなのに、エリルはもう評価を翻す。


 メアはまだ、渋る様子を見せたが、何度も重ねて誘うと、ようやく決心を固めた。


「お、お世話になります。よろしくお願いしますっ!」

 緊張しながらメアは頭を下げる。外の世界へ出るといる決心は、やはり彼女にとって大きな決断だったようだ。

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底辺からはじまるRPG異世界運営〜最弱転生者の職業は最強の管理人でした〜【改題】 梅木学 @umekimanabu

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