第35話:ランクでマウント
「役に立つと言うが、戦闘ではどれくらい期待していいんだ?」
「ランクファイブですので、中級の魔物くらいなら一人でも倒せます」
「ランクファイブ!?」
僕は驚く。
「やっぱり低いですかね……。ごめんなさい。でも、できる限りのことはしますので」
「ランクファイブなら、想定より高いくらいだ。ユウト、お前もランクを教えてやれ」
エリルが僕をけしかける。このエルフ、完全に楽しんでいる。
「僕は、その、真っ白なキャンバスなので、これからに期待というか……」
「さっさと言え!」
「えー……ランクゼロです」
「ランクゼロ!?」
これに驚いたのはメアだ。今まで聞いた中で一番大きな声だった。
「……ごめん」
「いえ、こちらこそすみません。ランクゼロの方に、無理して外に出て、こんな遠くまで付き合っていただいて」
「いや、普段も引きこもりとかじゃないし」
「ランクゼロが、凶暴な魔物を退治しようというんだから、恐れ入った。なんだったか。僕は……助けたいです……だったか。カッコよかったなー」
エリルが、協会での僕kの真似をする。このエルフ、完全にからかっている。
「ちゃんとカッコよかったですよ。お気持ちだけでも、今でも本当に嬉しいです」
「お気持ちだけじゃなくて、実力にもちゃんと期待して!」
「それで、エリルさんはいかがですか?」
おそるおそる、メアがたずねる。
僕の気持ちが嬉しいとは言っていたが、内心ではかなり不安になっているようだった。それはそうだ。ようやく見つかった助っ人がランクゼロでは、メアも落胆して当然だ。
「私はランクセブンだ。このゼロ男の、数百人分の働きはするから、安心しろ」
エリルは淡々と答える。また、僕に新しい不名誉なあだ名が与えられた。
「ランクセブンって、すごいのかな?」
勇者がランクナインと言っていた。それを聞いた後では、ランクセブンをあまり凄いものには感じられなかった。
「とってもすごいですよ! 上級冒険者と認められるランクシックスでも、数は少ないんです。その上のランクセブンに到達するのは、一握りの冒険者だけです」
メアが興奮して言う。
周りの冒険者の態度から察してはいたが、やはりエリルは相当の実力者らしい。ということは、ランクナインの勇者クラルクは、規格外ということか。
そんな男を敵に回していることを改めて知り、不安になった。悠長にレベル上げなどしても、無駄なだけではないか。やはり、どうやっても勝てる気がしない。
「なあ、お前、本当にまだランクゼロなのか?」
「へっ?」
「私がダンジョンに助けに降りた時、ずいぶんとゴブリンのドロッブアイテムがあったぞ。あれをお前が全部倒したなら、なかなかの経験値のはずだが」
「ゴブリン? ランクゼロで倒せるような魔物ではないはずですが」
メアが不思議そうに呟く。
僕は慌てて自分のステータスを確認した。魔法の見方もシャインに教わっていたので、ランクと合わせて表示する。
−−−−−−−−−−
職業 :管理人
ランク:1
レベル:158
魔法:『スリープ』『リストセグメンツ』『チェンジディレクトリ』『プロセス』『コピー』『リムーブ』
−−−−−−−−−−
「めっちゃ上がってる!」
僕は歓喜する。それに、魔法が三つも増えている。これはあとで効果を確かめなければならない。
「ランクワンじゃないですか。それに、職業が管理人って……?」
メアが僕のステータスをのぞき込む。とっさのことでステータスを偽装できていなかった。
「あー、これは、説明すると長くなるから……。いつかメアにも話すよ。いまは、剣士みたいなもんだと思っておいて」
「わかりました」
メアは素直に頷く。普通ならもっといぶかしみそうなものだが、もう会ったばかりの僕を信用してくれているのだろうか。
「メアと僕のランクと職業は分かりましたけど。エリルさんも、そろそろ職業を教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「そうだな……いつまでも黙っておくわけにはいかないよな……」
珍しく、エリルが迷う様子を見せる。そう言ったきり、エリルは次の言葉を継ごうとしなかった。
かなりためらっているようだ。僕も、急かすことなく、エリルが答えてくれるのを黙って待つ。数分は黙って歩いただろうか。ようやく、エリルが口を開いた。
「私の職業は……女王だ」
「そう呼ばれているのは、何度か聞きましたけど。それは地位じゃないんですか。地位がそのまま職業になることもあるんですかね」
世界の管理人があるくらいなのだ。女王があったとしてもおかしくはない。世襲制でもなく、もしかしたら、生まれつき女王の職を持つ者がその地位につく、といった風習があるのかもしれない。
「いろいろな職業があるということだ。あとで、魔物と会った時に、みせてやろう」
エリルが決意したように、力強く言う。
女王の戦い方というのが、想像がつかない。なにか相手を従わせるような魔法があるのか。もしくは、なにか配下の者を召喚して戦ったりするのか。僕の好奇心が刺激される。
それから魔物と会うまでに、長い時はかからなかった。三人は、草原を切り裂くように整備された、白い地面が続く道を進んでいる。やがてその道の先に、三人の行く手を阻むように魔物が佇んでいるのが見えた。
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