第20話:世界を救うなんて

「急に頭痛がするんだが」


「魔法の使いすぎですね」


 ステータスにマジックポイントの表示は無かったが、やはり限界はあるらしい。ユウトは痛むこめかみをさすりながら、魔法の使用を止めた。


「今日はこれくらいにしておくか。しかし、これだけでめっちゃレベル上がったな。もしかして、成長するのってけっこう余裕なんじゃ……」

 ステータスを見ると、レベルは三十四まで上がっている。しかし、使える魔法は増えていないようだった。


 少し期待していた僕は落胆する。


「これ以上は、魔法を使うだけではなかなか上がらないと思いますよ。必要な経験値も多くなりますし」


「そんなものか」


「楽しようとしないで、ちゃんと管理人としてお仕事してくださいっ」


「そう言われても、いまいちまだ管理人の仕事ってのがよくわからないし」

 僕は困って髪をかきむしる。


「世界を救ってください」


「なにをそんな大げさな……」

 冗談を言われているのだと思い、笑いながらシャインの方を見たが、その表情は真剣そのものだった。その表情を見てつられるように笑いを引っ込める。


「世界を救うといったって、人々を脅かす魔王もいなければ、大規模な厄災の話もなく、皆が街で平和に暮らしているじゃないか」


「いえ、この世界に、危機が迫っています。このままではこの世界は、長くは持ちません」


「唐突にそんなこと言われても信じられるかよ。それに、僕に何ができる。本当に大変なことが起きているのなら、それを解決するのは勇者とかの役割だろう」


「勇者はあくまで、この世界の理の中にある職業にすぎません」


「じゃあなんだ、その危機ってのは、この世界の枠から外れたなにかだって言うのか」


「ええ、その通りです」

 シャインは表情を変えずに断言する。僕は返す言葉を失った。


 キノコのような迫力のない魔物、平和な街、活気にあふれたギルド。ゲームのようなこの世界に、なにか暗い影のようなものを感じたことはなかった。


「私はいま、ユウトさんがこの世界に管理人として生を受けたことには、意味があると思っています」


「この世界に転生した意味……」

 転生課のアイルの言葉を思い出す。


 ロールプレイングゲーム。それぞれの役割を持ち、人々が生きる、バーチャルな世界。


 ユーザの活動は、その世界があってはじめて成り立つ。そのユーザの力の及ばない事象ということは、この世界基盤そのものになにか異変があるということだ。


「真面目に話を聞いていただけますか?」

 シャインは、じっと僕の目を見据える。


 さきほどまで魔法ではしゃいでいた、浮ついた気持ちは消え、深呼吸をすると、小さく頷いた。


「その危機がなんなのか、詳しく聞かせてくれ」


「コンソールを探して欲しいのです」


「コンソール? もう少しわかるように、順を追って説明してくれないか」

 困り顔をすると、わかりました、とシャインは頷く。


「この世界には神がいます」

 突飛なことをシャインがいう。まだ話が見えないが、ユウトは辛抱強く話を続けることにした。


「それは、魔界と同じように、神界が存在するとか、そういう意味か?」


「いえ、この世界に神界は存在しません。それに、この世界の人々が信仰する神とは概念が異なるものです」


「どういうことだ?」


「この世界を創造し、維持する役割を持った存在がいます。ルート神、と私たちには呼ばれています」


「それは管理人のようなものか」

 さらに問いかけると、シャインは首を横に振る。


「管理人の上位の概念にあたります。私たちのような魂の管理者と、ユウトさんのような職業としての管理人の、中間にあたる存在でしょうか」


「なんだか管理する人ばかりだな……」

 混乱してきて頭をかかえる。


「それぞれ役割が違います。その神は、他の世界に干渉しないという点では、私たち魂の管理者よりも下位の概念になりますけど。しかしこの世界においては、その神が絶対的です」


「その絶対的な神様とやらが、危機にどう関係している?」


「実は何年も前から、神が姿を隠しているのです」


「神様が……ひきこもりに? それになにか問題があるのか」


「ルート神がこの世界の基盤をつくっています。その上で、ユーザたちがどう過ごそうと、基盤が壊れてしまってはどうしようもありません」


「そのルート神とやらは、世界の基盤を、壊そうとしているのか?」

 僕の上位概念にあたる神が、この世界の脅威であるならば、ユウトにできることはなにもない。


「破壊的な動きはなにもありません。ただ、ある日を境に、この世界に興味を無くしたように、姿を消した。そう見えます。私たちにもなにが起こっているのか分からなくて」


「シャインたちに分からないものが、俺にわかるとは思えないが」


「私たちでも力の及ばない場所が、この世界にはあります。ユウトさんなら、きっとそこにたどり着ける」

 シャインは期待に満ちた目を僕に向けた。

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