第26話 はったん、情報を得る
はったんは、『極秘・あひるランドと村の征服計画書』を持って、急いでマンホールの蓋を開け、下水に潜り込んだ。
一応、公務員宿舎に住まいを与えられているが、そこで大っぴらに諜報活動が出来る分けではないし、モグラにとっては地上より地面の下の方が生活し易い。そのためはったんは、下水道の壁に穴を空けて、主にそこで暮らしていた。どこにいてもそこが本来の住処だった。
はったんは下水の住処まで走りに走り、這いに這い、また走った。
住処に辿り着くと早速、先ほど入手した資料を開いてみた。そこには平和島ボート第一レースの出走表が事細かに・・・
「違う! 『あひるランドと村の征服計画書』だ」
そこには先ほどの極秘会議で話されていたことが記されていた。先ずは蚤ヶ島新政府による「あひるランド植民地化計画」と「島の統一支配」だ。そのためにあひるランドに大量のダニを送り込んだのだった。それに「多摩の浦の制海権奪取」と「村の蚤ヶ島化計画」だ。
サマンサ首相やピジョー副首相、それにはったん総務大臣たち、あひるランド新政府が目指している「あひるランド島の統一計画」、すなわちあひるランドと蚤ヶ島の平定、統一と完全に相反し、真正面から衝突する計画だ。
「これは大変なことになるぞ。全面戦争だ!」
はったんは呟つぶやいた。
それだけではない。今後もダニの侵攻は続くという。ダニだけではないだろう。蚤もシラミも武器を持ってやって来るに違いない。あひるランドを蚤ヶ島の植民地にし、住民を奴隷にしようという計画なのだ。あひるランドの住民たちはすべて蚤ヶ島国民のために奴隷労働を強いられることになる。
「僕はあひるランドを守らなければならない」
現在、あひるランドを混乱の極みに陥しいれているダニ騒動は始まりにすぎない。ダニを駆逐するだけでは、あひるランドは守れない。急いでサマンサたちに入手した情報を伝え、早急に対応策を定め具体化し、実行に移さなければ手遅れになるとはったんは思った。しかし「多摩の浦の制海権奪取」、「村の蚤ヶ島化計画」とは一体、なんのことだろうとも思った。多摩の浦が、公務員研修の際に貰った地図に載っていたことは記憶している。しかし村とは。極秘会議で誰かが言っていたが、多摩の浦の対岸には村があるようだ。そこには大量の資源があるという。その村に対しても蚤ヶ島新政府は植民地化のための侵略を始めているようだ。さらに枝子大統領はそこが故郷だとも言っていた。
いずれにせよサマンサたちにこの情報をいち早く、蚤ヶ島新政府が次の一手を打つ前に伝えなければならない。
はったんは、古新聞や「高島屋・秋の物産展」の広告なども含め、蚤ヶ島で入手した資料をすべてリュックサックに押し込み、穴の住処を捨てて、長く伸びる下水をあひるランドへ向けて歩き出した。
(つづく)
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