第8話 平和の塔崩壊

 一方、サマンサはユーラシア大陸の果てへと向ったはいいが、飛行中に頭は取れ、そのうえピジョーに突きまくられ、踏んだり蹴ったりであった。さらにピジョーとの小競り合いのはて、二百メートルを超える塔になっていた。


 「平和の塔」などと名づけられ今後、どうするべきかサマンサとピジョーは思案にくれていた。

 そのとき塔に向かい一直線に飛んでくる物体があった。

 はじめは小さい点にみえたその物体は、塔に近づくにつれ、少し丸みを帯びた四角で、色は赤であることが確認できた。二本のハサミもついている。

「助けてくれー。ネコにやられた!」

 赤い物体が叫びながら、どんどんと近づいてくる。

「あっ、蟹だ。蟹が飛んできたぞ」

 サマンサも叫んだが、遅かった。


 蟹は平和の塔に直撃し、その衝撃で塔はドーンという轟音をたてながら崩れ落ちた。

 みすぼらしいドバトが積み重なった「平和の塔」は、こうして住民の予想通り崩壊した。はたしてバラバラになったサマンサとピジョーの体はもとに戻った。


 体がもとに戻ったことを祝し、サマンサとピジョーはリッフィー川沿いにある「リバー・バー」で旧交を温め合った。

 ここはユーラシア大陸を超えた小島であること、「あひるランド」という島名であること、住民のすべてがアヒルであることなどをピジョーから聞いた。


「ところでピジョーは、ここで何してるの?」

 サマンサはギネスビールを飲みながら聞いた。

「警備の仕事をしてる。ダフりん綜合警備のリッフィー川担当をやってるんだ」とピジョーはつまみの豆鉄砲をつつきながら答え、サマンサに尋ねた。

「お前こそ、何してるんだ?」

「伝書鳩だよ。伝書鳩といっても、いまは仕事が少ないから実際の業務はほとんど受け子だね。でも正規の受け子だよ、厚生年金とかもちゃんとしてるし、有休も結構あるよ」

「へぇ、そうなんだ。待遇はいいね」

 そう頷くピジョーにサマンサは少し声を抑えて話し始めた。


「実はいま、大変な案件に関わっててさ。うちの社長に言われて、ある一家に潜入してるの。くたびれた老夫婦と馬鹿な小学生や小汚い雑種の犬なんかがいて。そうしているうちに今度はうちの社長が行方をくらましたの。その後で突然に社長から連絡が来て、いつものように別の伝書鳩が持ってきたんだけど、とにかくユーラシア大陸の果てまで来いって。だから飛んできたの」

 ピジョーは眉をひそめながら聞いていたが、思い切ったように告げた。


「その「ユーラシアの果て」というのは、おそらくここあひるランドじゃないかな?地元の言葉では「ユーラシアの果て」を「あひるランド」というらしい。この島には色々と謎があって、島の中央がベニヤ板で仕切られている。そこにあたかも山があるように絵が描いてあるんだけど。ほら、ここからも見えるだろ。あれ」

 ピジョーはリッフィー川の対岸に見える山々を指差した。

「あれ、張りぼてだから」

「なんでそんなことしてるんだろう?」

「あのベニヤ板の向こうには、この島の者はいけない。噂では島の名前も違っていて、別の生き物が住んでいるらしい」


 サマンサは不思議そうに聞いていたが、それよりここが社長、つまりはボスのいう「ユーラシア大陸の果て」であるのならば、早く社長に会わなければと、ピジョーに手伝ってもらい急いで社長を探すことにした。



(続く)


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