ストリートライブでスカウトされてプロギタリストになるきっかけになった私の初恋の行方

逢坂こひる

初恋

 今にして思えばアレが初恋だったというのは分かる。


 お相手は高校の同級生、逢坂誠おおさかまこと


 毎日毎日『俺のギグに来いよ』って色んな女の子に声をかけまくっていた。


 うちの学校は自由な校風で私服も認められているが、逢坂の服装は自由の範疇を超えているんじゃないかと思うほど奇抜なものだった。


 金髪にピアス。


 うちの学校は一応上から数えた方が早いのだけど……逢坂の存在は異端だった。


 正直、逢坂のことはちょっと怖いと思っていたので避けていた節もある。



 

 でもある日、クラスメイトに誘われて、逢坂のギグに行くことになった。



 つか、ギグってなんだよ……と思っていたらライブだった。


 はじめてのライブハウス。薄暗くてタバコ臭くて……ちょっと怖かった。



 でもステージ上の逢坂をみてそんな気持ちは吹っ飛んだ。



 楽しそう……そして……不覚にもかっこいいと思ってしまった。


 

 私は逢坂のステージにいつのまにか夢中になっていた。


 

 控えめに言ってギグ最高だった。



 その日から私の中で逢坂が気になる人ランキングにランクインした。




古木ふるき、この間ありがとうな」


「え、あ……うん」


 申し遅れました。古木とは私『古木こひる』のことです。


「またギグきてくれよな!」


「あ、うん、分かったまた誘って」


 少しドキッとしてしまった。ほんの少しだったけど、逢坂とまともに話したのは多分はじめてだ。


 逢坂はそんな調子でクラスの女子に声を掛けまくっていた。


 一貫して男子に声をかけない逢坂。


 なにかポリシーみたいなものを感じてしまう。




 ——そんなある日、逢坂が教室でギターを弾いていた。


 今日の練習でメンバーに貸すために持ってきたそうだ。


 ちなみに逢坂のパートはドラムだ。


 私がその様子を見ていると「古木、弾いてみる?」。


 私はそんな弾きたそうな目で見ていたのだろうか。


 でも興味があったので少しだけ弾かせてもらった。


 もちろんギターなんて弾いたことはなかった。



 逢坂が私の指を取り、少し弾き方を教えてくれた。このシチュエーション無駄にドキドキしてしまう。


「おー古木すごいじゃん! 上手い! 上手いよ!」


 めっちゃ褒められた。


 そしてなんだろう、この高揚感……。


「古木、このギターやるよ! お前絶対ギターやるべきだって」


「え————っ!」


 やるよってくれるってことだよね?


「でも、メンバーに貸すつもりだったんじゃないの? それに高いものじゃないの?」


「あ——いいの、いいの、ステージでぶっ壊す用にって思ってただけだから、安もんだよ」


「えっ……でも」


「貰ってくれよ、きっと古木に弾かれた方がこのギターも本望だよ」


 うやむやのうちにギターを貰ってしまった。


 男の子からはじめて貰ったプレゼントはギターでした。




 ——私はギターに夢中になった。


 逢坂の言う通り私はメキメキ上達した。


 腕試しに軽音部に入ったら、3年の先輩よりも全然うまかった。


 自分でも驚いた。


 まさか自分にギターの才能があったなんて……。




 ——「逢坂、新しいの覚えたの、ちょっと聴いてよ」


「おういいぜ」


 逢坂ともすっかり仲良くなって、新しい曲を覚えたら、いつも真っ先に逢坂に聴いて貰っていた。


 でも、今日は逢坂の歯切れが悪い。


「なあ古木」


「うん?」


「俺、学校辞めるわ」


「え—————っ!」


 晴天の霹靂だった。


「なんで? なんで辞めるの?」


「俺、旅に出るわ。旅にでて色んなスゲー奴とセッションして……んでドラムでプロになるわ」


「な……なんで、旅に? 必要なくない?」


「え、だってその方が面白いじゃん」


「面白いって言っても……」


「人生は大きなゲームだよ。楽しめよ古木!」


 逢坂と交わした最後の言葉だった。



 ——翌日から逢坂は宣言通り学校にも来なくなり、行きつけのライブハウスにも顔を出さなくなった。



 胸が苦しくなった。



 私、逢坂に何も伝えられていない。



 ありがとうも……好きって気持ちも。




 しばらく、落ち込む日が続いた。


 心が張り裂けそうだった。


 あんな冗談みたいな言葉だけ残して居なくなるなんて……酷すぎる。



 

 旅に出た逢坂を探すことなんてきっとできない。


 でも、逢坂はドラムでプロになると言っていた。



 手がかりはここしかない!




 私は決めた。


 ギターでプロになる。



 ——それからは猛練習の日々が続いた。


 知り合いに、紹介してもらって色んなバンドでギターを弾いた。


 そして、高校3年になったある日のストリートライブが終わった後、怪しげなお兄さんに声をかけられた。



「ねえ君」


「あ、はい」


「凄いね、君のギター」


「ありがとうございます」


「プロになる気ない?」


「え……」


 ぷ……プロ……この人プロっていったよね。


「今僕が手掛けてるグループ、ギターだけがパッとしないんだよね……君が入ってくれると嬉しいんだけど」


「なります! 入ります! プロになります!」


 これで逢坂に会える!


 この時は本気でそう思った。


 この後、お兄さんに焼肉をご馳走になり、めでたく契約書にサインし、私は某大手レコード会社傘下の事務所に入ることになった。



 プロになったものの、ぶっちゃけ、グループのほうは鳴かず飛ばずだった。


 でも、私にはギターの仕事がたくさん入ってきた。


 もとよりそのつもりだった。


 色んなミュージシャンと仕事をして、逢坂の消息を辿る、そのつもりだった。







 でも……逢坂とは会えなかった。







 業界歴だけが長くなった。



 その間もたくさん出会いがあった。



 でも、あの日置き去りになった感情を拭うことができなかった。



 このままではダメだ。



 私は、事務所にわがままをいって1曲だけリリースさせて欲しいと願い出た。


 宣伝もいらないし、自主制作になっても構わない。


 でも、数が少なくても流通だけはさせてくれとお願いした。



 事務所はこれまでの功績を評価してくれていたので、私のわがままを聞き入れてくれた。



 私がリリースした曲は……。


『言えなかった I LOVE YOU』


 作詞・作曲 逢坂こひる。




 いつか逢坂と会える日を信じて。





 ————————


 【あとがき】


 本作は1話完結の短編で、はずかしながら私自身をモチーフにしたセミフィクションです。

 懐かしい気持ちになりながら書いておりました。

 逢坂……どこかで元気にしていればいんですけどね!


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ストリートライブでスカウトされてプロギタリストになるきっかけになった私の初恋の行方 逢坂こひる @minaiosaka

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