第16話 大騒ぎ

 月曜日の教室は上遠野かとおののことで持ちきりになっていた。

「ミッチー。上遠野の演技、見た? めちゃくちゃかっこよかったよね?」

「う、うん……英梨えりちゃんも見てた?」

「うん! めちゃくちゃかっこよすぎない? 長い前髪を切れば、イケメンだと思うけど」

 上遠野はもともと顔立ちがはっきりしてるので、前髪を少しだけ切ればかっこいいと思っていたんだけど……。

「だよね! でも、なんで教えてくれなかったんだろう?」

 上遠野がフィギュアスケートをしているのはほとんどが知らないことで、同じ中学の子は知ってる人が少なかった。

「英梨ちゃんはどう思った?」

「う~ん……かっこよかった。絶対、国際大会とか行けるよ」

 英梨ちゃんが言うようにこのままフリーでもベストを出せて全日本選手権で上位だったら、大きな国際大会とかではなくても選ばれる可能性があるんだ。

 上遠野はショートは七位で、そこからまだ表彰台を狙えるところにいるはずだ。

 わたしはショートの演技を思い浮かべると、まだドキドキしてしまう。

「ミッチー、ちょっと廊下に行かない?」

「うん。いいけど」

 英梨ちゃんと廊下に向かうと、話を始めた。

「ミッチー。上遠野のこと、好きでしょ?」

「えぇ!?」

 顔が熱くなっていく。

 心臓が余計に鼓動が激しく波打っていて、ちょっと苦しくなってしまう。

 その表情を見て、英梨ちゃんはニヤニヤを抑えられないような表情している。

「あ~、やっぱりね。上遠野と話してるときに意識してるな~って感じがした」

「ちょっと! 英梨ちゃん……心を読まないでよ……」

 わたしは耳を押さえて、英梨ちゃんの話を聞かないようにした。

「あ、図星だね」

「うん、英梨ちゃん。このこと言わないでよ? 上遠野には」

「それは言わないから、こう見えて口は堅いからね」

 英梨ちゃんはそう言うと、教室に戻っていった。廊下のざわついたなかで、わたしの心臓の鼓動が体のなかに響く。

 そして、すぐにチャイムが鳴って、教室に戻ることにした。

 それから授業が始まり、今日は得意な教科が多かった日。

 今日は体育で女子は外で持久走……千メートルの計測が始まった。

「持久走……だるくない?」

「仕方ないよ~、冬は持久走がしやすいんだから……」

 校庭にある二百メートルトラックを五周する。速いと千メートルを四分以内ほどで終わらせる子も出てくる。

 わたしはジャージを着てから、走るときには上ジャージを脱ぐつもりでいるんだ。

「英梨ちゃん。大丈夫?」

「うん。後半組だから、計測は任せてね」

 わたしはスタート前でドキドキしている。

 持久走は少しだけ嫌いで、走っていれば何ともないんだけど。

 そのまま、鼻に冷気が入ってきた。

 ペースはそのままで先頭集団についていくことにした。

 みんなで聞こえているのが、とても遠くに聞こえてくる。

 でも、体力はスケートをしていた頃よりはちょっと落ちてる。

 何周したか、よくわからなくなってきたときだった。

「ミッチー! あと半周だよ!!」

 英梨ちゃんの声が聞こえてくると、ラストスパートをかけることにした。

 ここの体力がなくなる感覚はフリーの最後にジャンプを跳び終わったときに似てる。

「ミッチー! 自己ベストだよ」

 ゴールにたどり着いて、わたしは英梨ちゃんの隣に座り込む。

 耳がジーンとなる感覚と、歩くと脇腹がズキッと痛む感覚が陥っている。

「え……自己ベスト? 速くなってたの?」

 わたしは心臓を落ち着かせて、英梨ちゃんから聞いたタイムを先生に報告した。

 そこからいきなり寒気が襲ってきて、英梨ちゃんに預けていた上ジャージを羽織った。

「ミッチー、走ってくるから。タイムを教えてね」

 英梨ちゃんから上ジャージを膝の上に置いて、後半組が終わるのを待つことにした。


 放課後になると、急いで家に帰ることにした。

 今日は絶対に見逃したくないものがあったから。

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