4-4 企み
さらに翌日、金曜日。カナは昨日の喫茶店に、残りの被害者とも話をしに行ったらしい。あたしはバイトのため、今回は同席していないので、帰宅後にリビングでカナの話を聞き、何となくの状況を理解した。
一人一人話を聞くのは手間だということで、例のLINEグループの四人とカナ、というメンバーで聞き取り会をすることになったらしい。また、LINEグループのメンバーの内、四分の三がまだテスト期間とのことで、テスト勉強会も兼ねることになり、カナが古文と日本史を教えつつ話を進めたのだそうな。
本多君以外に集まったのは、
しかし、肝心の不審者についてはあまり収穫はなかったらしい。予備校(詳しく訊くと田代ゼミだったらしい)の帰りを狙われたということ、不審者は嫌がらせに使った飲み物のゴミをその場に放り出して去っていったということ、目立つ染みができたため着替えてから帰ったということは一応全員共通していたらしいが、他はあまり共通点はなかった、と。須永君と花村君はワイシャツの上に着ていたセーターに掛けられたが、桐原君は夏服のワイシャツに掛けられ、須永君と桐原君は大手メーカーの缶のブラックコーヒーを掛けられたが、花村君は水色のラベルが付いた五○○mlのバニラシェイクを掛けられた、とかなりばらばらだった。あとは、被害に遭った場所についても聞き取りをしたが、これも全員ばらばらだった。
ワイシャツに直接掛けられた桐原君と、セーターの下のワイシャツにまで染みてしまった須永君は体操服に着替えて帰ったそうだ。花村君もワイシャツにまで染みてしまったらしいが、ワイシャツが白かったため、黒地のセーターを脱ぐとあまり染みは目立たなかったということで、カナのように完全に着替えることはせず帰ったとのことだ。
「花村さんは山吹台の生徒ってことだったから、『犯人に心当たりはない?』って訊いてみたんだけど、特に心当たりはないって。予備校帰りを狙われてるから、同じ予備校の生徒だとは思うけど、山吹台の子はいっぱいいるから、分かんないって」
「そうなんだ」
しばしの沈黙。もう夜も遅い。そろそろ寝る準備をしようかと、ローテーブルの前から立ち上がると、
「あっ、そうだ! 優衣ちゃん!」
向かいに座っていたカナに、上擦った声で引き留められた。
「何?」
「あの、あのさあ、明日お休みじゃない?」
「まあ、土曜日だからね」
夕方から《ふれーず》でのバイトは入っているが、それまでは休みと言って差し支えないだろう。他にもバイトを入れたかったが、入れることができなかった。
「あーと、えっとー、その」
「何?」
「優衣ちゃん! 私とお出かけしない⁉」
「……はっ?」
急にどうした。全然そんな空気じゃ無かったろうに。
「もちろん無理にとは言わないよ! 優衣ちゃんの気が向けば」
「断るとは言ってないけど。でも、どこ行くの。どこか行きたいとこがあるの?」
「ご飯食べに行く、とか?」
なぜに疑問形。
薄々、カナの目的が単なるお出かけではなく、別のことにあると勘付き始めた。カナは嘘が下手だから。
「食べるだけなら家でもできるけど」
探りを入れてみると、カナはわたわたと手を動かしながら、聞き取れないほどの小さな声で、
「えーと、その、家だと私の気合が入らないというか、気まずくて逃げたくなっちゃうから無理やりにでも外に行こうというか……」
「え?」
「その、訊きたいことがあるというか……とにかく、お出かけしよっ? ね?」
結局ほとんど聞き取れなかったが、最終的にカナは押せ押せ作戦に変えたらしい。ぐっと身を乗り出して、言い募る。
「そうだ! 優衣ちゃんの食べたいもの食べに行こうよ。お店によっては、安くなるクーポンとかもあるし! ね、行こっ」
「……別にいいけどさ」
カナにうるうるした目でここまで必死に頼まれるとどうも弱ってしまう。結局あたしはカナの目的をこれ以上追及できないまま、了承してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます