第4話 機動会戦

 パンツを見るための最大の障害。

 それは、言うまでもなくスカートである。

 校則で膝丈±10cm以内に揃えられた女生徒たちのスカートは、その頼りなさげな印象とは裏腹に、物理法則を疑いたくなるほどの高い「パンツ防御ポテンシャル」を秘めている。

 硬い守備を誇る制服スカートのガードを打ち破るには、防御能力を上回るスカートめくり技術が不可欠だ。

 未だ確たるスカートめくり術が確立されていなかった大戦初期の段階においては、様々な技術が試みられては消えていった。

 釣り針でスカートを引っ掛ける方法。うちわで風を送る方法。スーパーボールを使った方法。

 だが、それらの方法の多くは実際には実行が困難であり、ある程度成果が望めそうな方法であっても防御が手薄になって逆撃を被るケースが多かった。

 やがて軍事研究家たちの間では、結局のところスカートをめくるのは素手が一番効果的であるという結論が大勢となり、スカートめくりの技術論よりも、いかにして素手の兵士たちが有利な状況でスカートめくりを実行できるかという戦術論の方へと研究の内容がシフトしていくことなっていったのである。

 素手による戦闘を実施するにあたっては、なによりも「兵士には腕が2本しか存在しない」という事実が前提条件として立ちはだかる。

 敵と一対一で対峙したとき、2本の腕を攻撃と防御にどう振り分けるのが最善か。片腕を防御に回せば攻め手が不足し、両腕を攻撃に使ってしまえば自らのスカートが無防備となる。

 一般に全周防御きんちゃくディフェンスと呼ばれる両手でスカートの裾を引き絞って太ももに密着させる防御姿勢は極めて高い防御力を誇り、いわゆる単手捲撃シングルハンドによる攻撃はほぼ無意味となる。こうした場合、まずは相手の体制を崩すため、足を払ったり脇腹をくすぐったりといった絡め手を組み合わせるのが常套手段となるが、いずれの場合もこちらの防御が手薄になることは避けられない。

 つまるところ、一対一の戦闘はよほどの技量差がない限り膠着状態に陥ることが多く、だからこそ、いかにして戦場で局所的な数的優位を作り出すかという点が重要とされるようになったのだ。敵に勝る腕の本数を取り揃える。いわゆる集団戦闘の始まりである。

 ただし集団戦闘といっても、隊列は重視されなかった。

 当初は部隊を密集させて隊列を作り、後列の兵士が前列の兵士のスカートを引き絞って防御する「ファランクス陣形」を唱えた学派も存在したが、何よりも重要な機動性が皆無になることから大勢の支持を得ることはついぞなかった。

 なにしろ、パンツが見えればそれで終わりなのだ。

 たとえ後列であろうとも完全に無防備な兵が存在するならば、敵は自然の発想としてそこを狙う。側方や後方へと回り込みさえしてしまえば、あえてスカートをめくらずともただ屈むだけで中を覗き込むことは難しくないのだ。まして攻撃手段を素手に頼っている以上、その射程範囲は腕のリーチに限定される。一定の距離を保って迂回挟撃を図る敵に対する牽制は極めて困難であった。容易に多方位から攻撃を仕掛けることのできる相手に対して、自ら機動を放棄し攻撃正面を限定することは自殺に等しいものと考えられたのである。

 結局のところ、こうした諸々の条件により、大戦初期の戦闘は主に10人未満の独立した小集団を多数編成し、個々の集団が相当程度の自由度を持って機動戦を行う「機動会戦」へと収斂する。

 隊員相互で攻守をフォローしながらも機動性を失うことのないギリギリの規模の小隊を形成し、その小隊ひとつがまるでひとりの人間であるかのように、自由自在に戦場を移動して、敵の小隊を撃滅する。それが機動会戦の基本的なドクトリンだ。

 なお、敵の小隊ひとつに対して複数の小隊で挟撃をかけることができれば有利に戦闘を進めることができるため、複数の小隊を束ねた中隊や、中隊を束ねた大隊という概念は一応存在するものの、特に戦場においては中隊や大隊の司令部が詳細な指揮を行うことは原則としてない。なぜなら機動会戦は敵味方の小隊同士が互いに相手の弱点を突こうと常時移動を繰り返しているため、戦闘中に上位司令部の指示を受け取る余裕などどこにも存在しないのが当たり前であるからだ。

 つまりいわゆるトップダウン式の指示命令系統として中隊・大隊の概念があるのではなく、ボトムアップ式に小隊同士が連携攻撃を仕掛けるパートナー集団としての中隊や、より上位の大隊があると理解した方が実情に近いといえる。

 このような事情から、この時代の中隊および大隊は独立した司令部を保有するのではなく、所属する小隊の中で序列の高い小隊の隊長がそのまま中隊長や大隊長を兼任するのが一般的とされていた。

 グレイネ学園第5分校もまた、この一般的な編制を採用した学園のひとつであり、黒風くろかぜ茶依子さよこはそこで「大隊長(正確には大隊長兼任中隊長兼任小隊長)」のひとりに数えられる存在であった。

 ただし、第5分校において彼女のことをいっぱしの大隊長であると認識している者は極めて少ない。

 なぜなら、彼女はこの激戦が続く大戦の時代にあって、未だ一度たりとも実戦を指揮したこともない有名な「名ばかり隊長」であったからだ。

 のちに歴史に大きな足跡を残すことになる彼女の初陣は、戦理の常識を覆す大胆な奇襲によってその口火が切られることとなるのだった。

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学園列島パンチラ大戦 スカートめくり戦記 碗蓮涼 @wanren_ryo

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