第6話 過去の幻想

 決闘が終わり戦闘用のフィールドが解かれると先ほどのプレイヤーは何か怯えるような瞳でこちらを見上げている。ふむそんな怖い戦い方したかね?

「ま、魔術だ、だと」

「そう言えば発動したなアレ。さくらが復元したのを魔改造しただけなんだけどな」

 ひょっとしたらこのゲームでも魔術は適性が必要なのかもな。3人娘は全員使えるだろうがそれぞれ適性が違う。例えば愛子なら流体操作系統で雫なら召喚系統にデバフ系統の黒魔。そして聖奈なら神聖系統暗黒系統の付与。そして【魔術】の勇者と呼ばれる霧宮さくらはほぼ全ての魔術を使える。魔術においては超一流どころか神にすら及ぶ彼女なら【固有魔術オリジナル】と呼ばれる本人のパーソナルに合わせた魔術以外はほぼ全て可能なはず。俺もそれなりに使用できるとは言えども彼女には遠く及ばない。【万物】の適性ではそこまでは至れない。

「まあアレらが初期選択スキルに存在した時点でそんな気はしてたけどな。【魔力操作】系列も使えたわけだし」

 【魔纏】は基本的には魔力を操作・運用するだけだが極めるとかなり強いしある一定以上の強さを持つならできて当然のものだ。そして無系統に分類される純粋な魔力攻撃なら魔術でもある。


 考えてなんだが難しいなこの仕様。まあだからこそ居るだけで戦術に影響を及ぼすという兵器運用だったり中世の魔女狩り騒動も元を返せば異端視されたからこそ起きるものでありイエス・キリストやジャンヌダルクに織田信長といった歴史の変換点とでも言うべき時代に生まれた偉人は異世界からの転生者か俺たちと同類の異世界召喚に遭ったもしくは転移した者。3人を例えるならキリストと信長は転生でありジャンヌは転移であろう。そう言った世界Aから世界Bへと何らかの方法で移動した際には世界の壁を越えることになり魂そのものが大きく作り変えられ大幅な能力上昇を促す。それは基本的にはの話であるが。


 話が逸れたがようは元々地球にもそう言ったステータスを含めた全ての能力は異能として存在している。例に上げるなら悪いが解離性同一性障害のほんの一握りは障害ではなく魂が肉体という器の中に2つ以上も?あるという歪ながらも実際にはあり得ないほど有利の状況でもある。何せ魂の質や強さなどは直結して本人の強さにもなる。そしてそんなもの関係無しに魂が多いのは普通に強い。例外としては魂すらも喰らう短刀を使う俺とか。魂を封印し利用する三枝舞美に神となり魂の保管が可能になった浜崎一哉くらいだろうか。あれかつての仲間でも3人も居てしまうのか。まあ全員が全員まともじゃないけどさ。


「っと不味いなこの状態は」

 俺はこのように過剰に思考が暴走する癖がある。精神科医の話では統合失調症かもとのことだが異世界にいた頃の加速思考に並列思考の重ねがかなり異常な思考能力を常時放ってしまう。今の所の対応策はゼロに等しく常に物事を考えてしまう。

「まだ囚われてるのかね。もう割り切っていたはずだが」

 考えたくは無いが多分そうなのだろう。あの出来事に深く囚われているのか如何しても自分の護りたい人の害になるならば排除という優先事項が存在する。それは確実にあの2人の少女なのだろう。【聖女】ミミアと【魔女】アリシア。俺自身が関わったある2つの出来事でその殉死した。俺にとってもかなり深いところまで気を許して愛し合いその上でどちらとも俺のみが生き残ってしまった。自罰願望なのかそれとも完全に最悪な場面のみを想定してしまうのかよく分からない。その上で再び思ったのかもしれない。絶望の淵に居て寄り添ってくれた彼女らを亡くしてしまうのでかと。そこまで思い出すと気配を霧散させる。


「うっ嘘だろ【銃皇】と【魔導女帝】しか使えない無系統だと言うのか」

「まあ。となるとアイツらで確定か。そりゃあ敵うはずがない」

 何せ本物の戦争を知って幾度とない死線を潜り抜け強大な敵をやっつけて此処に来たのだから所詮小娘に過ぎない聖奈が勝てるはずもない。本気の装備なら確実に勝てるだろうがそれは本当の殺し合いでしか成り立たない。だからと言ってお遊びに負けるつもりも無いが。

「まるで知ってるような口振りだな」

「事実知り合いだろうし」

 いやあの2人だから戦友だろう。だって無系統レベルに魔力操作を昇華させれるのって本当に少数なのだ。

「さてあの2人は何処まで制限させられているかね」

「制限なんの事だ?」

「さあな。世の中知らない方が良いこともあるぜ。例えば俺と姫巫女の関係とか。一部のトップ層の秘密とか」

 どちらも一つだけでも知ってる時点で十二分にヤバい案件である。特に制限は色々と不味い。


 何せ先ほどはその制限が酷い状況だったわけでありあくまで現実のステータスやスキルなど全てを封じた状態で繰り広げれる戦闘だから。


 後遺症の残る瞳を押さえながら言う。

「さて【散った】」

 魔力を乗せた【呪言】を使うと殺したプレイヤーは一斉に逃げる。あっやり過ぎたかもな。


「兄さん!」

 そこまでしてようやく周囲が動き出し修道女の服を着た少女が駆け寄ってくる。

「おう色々とすまんな。セイナ」

「えっ!何で分かるんですか?」

「さあ何ででしょうか?」

 そう薄笑う俺の両眼には月と太陽が煌めいていた。

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