男達の剣術三本勝負~10年越しの決着を~

牛☆大権現

三本勝負

 俺には、ライバルがいる。

 いや、言い換えよう。

 一方的に、ライバル視している男がいる。


 アイツ自身は、俺の事なんて眼中に無いだろう。

 なにせ、一度も勝てた事がない。

 だが、俺は何ともしても勝ちたい。


 一度で良い、アイツの鼻を空かしたい。

 だから、地元を離れたのだ。


「頼もう! 」


 10年振りに故郷の土を踏む。

 汗で蒸れた防具の匂いが、鼻を突く。


「誰かと思えば、修平しゅうへいじゃないか

 今頃どうした? 」


 稽古を中断して、奥から面を外して出てきた人物

 彼こそが、俺のライバル

 黒鉄くろがね 継彦つぎひこ、35歳


「お前に勝負を挑みに来た。

 10年前の雪辱せつじょく、ここで晴らす! 」


 背中に背負った、竹刀袋を見せる。


「……分かった、稽古が終わるまで待ってくれ 」


 継彦つぎひこはそれだけ言って、稽古に戻る。


「三本勝負、有効打突ゆうこうだとつは打たれた側が決める。

 それで良いな? 」


 道場生を帰らせた後、俺達は二人だけで対峙たいじしていた。


「ああ、異論はない 」


 蹲踞そんきょ、そして互いに中段の構え。

 正中線せいちゅうせんを取り合い、竹刀が鳴る。


 俺の竹刀は巻き落とされ、継彦つぎひこの面が飛んでくる。

 __それが、罠だと気付かずに。


 俺は巻き落とされた勢いを利用して、手首を返し受け流しの体勢を作る。

 俺の竹刀を擦るように、継彦つぎひこの面が受け流される。

 継彦つぎひこが体勢を整える前に、がら空きの面を打つ。


修平しゅうへい、今の技は……? 」


「この10年、俺は古流剣術こりゅうけんじゅつを学んでいた。

 どうした、まだ二本残っているぞ? 」


 油断はしない。

 今の一本は、手の内を明かす前だからこそ。

 次は、ちゃんと対応してくるはず。


「強くなったな、剣ではお前に勝てないだろう 」


 だが、俺にとっては意外な事に。

 敗北宣言ともとれる言葉が、継彦の口から出た。


「俺の本芸ほんげいは剣道じゃない。

 残りの二本は、こちらでお相手しよう 」


 そう言って取り出したのは、短い竹刀。

 短刀を模した物だろう。



「俺を馬鹿にしているのか?

 明らかに間合いで不利だ! 」


 怒りを抑えきれず、キツい物言いとなる。


「言葉を尽くしても、納得しないだろう?

 やってみれば分かる 」


 継彦つぎひこは、開始線につく。

 奴とは長い付き合いだ。

 相手を馬鹿にするような人格じゃないのは、知っている。


 冷静になった俺も、開始線で蹲踞そんきょをする。


 相手を深く観察する。

 開始直後、小手に深くひびく衝撃があった。

 何が起こったのか、俺には理解できない。


古流武術こりゅうぶじゅつといっても、その多くは江戸時代に出来たものだ。

 俺の家では平家へいけの短刀術を、そのままの形で継承している 」


 俺は思い出した。

 この地、蛇目谷じゃのめやに伝わる伝説。

 平家へいけの落人が、大蛇だいじゃの右目を奪ったという。


 確か、その落人の名前は……


「良いのか、そんな物を俺に見せて 」


「本当はダメだ、門外不出もんがいふしゅつだからな。

 お前だから、見せてるんだよ 」


 再び、開始線で蹲踞そんきょの姿勢となる。

 次の三本目に、意識を集中させて。(完)

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