お題:しょうさつ【蕭颯】 秋風のものさびしく吹くさま。
結婚はしたい。子供もいずれは欲しい。でも一緒に暮らすというのは億劫というかめんどくさい。気を遣うという毎日はストレスが溜まりそうだ。
それは相手を本気で好きでないんじゃない? と友達に言われるけれど、好きというだけでそんな壁は乗り越えられそうもない。世間の女子が当たり前にやっていることが私にはできそうもない。
暑い季節が終わり
私ももうすぐ30歳になる。世間的には行き遅れという世代になる。大学の友達や会社の同僚はみんな25~27歳くらいで結婚ラッシュ。いい男を捕まえるために自分を磨き、飾ることにお金を費やす。仕事なんかできなくても愛想よく振る舞っていればいいのだから楽だろう。
私だって何人かと付き合ったりもした。
一晩夜を過ごすというのは楽しいのだけど、そこから先、同棲とか同居とかなると気が引けてしまう。それなりに仕事を頑張って稼いできたのでお金には困っていない。家事もできるようになったし好きな旅行にも毎年行くことができる。今の生活に不満はないのでそこに男という他人が入り込んでくるのがどうしても受け入れることができない。
特別にアウトローな趣味があってとても見せることができず部屋に人を入れられないというわけでもない。
男ではなく女が好きなのかなと本気で悩んだこともあったがノーマルだった。だけど何か物悲しい。歳をひとつ取るにつれ独身の友達は減り、ママになった子は赤ん坊の成長の話ばかりになる。聞いていて楽しいしたまに赤ちゃんに触らせてもらうと可愛いなとは思うのだけど、そのあとぐっと寂しくなる。
私の生活を侵食しない範囲で付き合ってくれる都合のいい男の人はいないだろうか。そんなことを考える私のほうがおかしいのだろうか。
結婚しても個室は別で財布も別、プライベートは保ちながら時間が合えばダイニングで夕食やお酒を共にする。互いにおかずを作る義務はない。残ったものは翌日の弁当にしてもいい。メイクや着替えは見られたくないし、お風呂を一緒になんて無理。たまにその気になったらエッチをする。そういうお互いに過干渉しない付き合いが理想。
でも勇気をもって彼氏に打ち明けたことはない。引かれて離れられてしまいそうだから。
それって付き合ってるっていえるの? 同棲っていうよりただのルームシェアじゃない? 現代のシンデレラじゃないんだから現実見ようよ。と多くの友達に言われる。でも世間一般の幸せが私個人の幸せと一致するとは限らない。好き同士でベタベタとすることが恋愛だとは私は思わない。
新しい友だちができて少し仲良くなるたびにこの話を切り出してみる。けど誰にも共感されたことがない。同じように考える女子は絶対いるはずなのにな。
少数派なのは認めるけれど一人もいないということはない。男性の視点から見ると、ただの都合のいい娼婦だよそれ、と男友達には言われた。
私の経験的に年下の男の子は性欲が強すぎて会うとだいたいそういうことになって疲れる。
友達に連れて行ってもらったバーで会った50代のダンディなおじさまに私は惹かれた。前に奥さんはいたけど今は別れてバツイチ。名前は聞いたことはないけれど売れない作家をしているらしい。物静かで雑学豊富、話題の店よりも地味だが美味しい料理店やお酒をよく知っている。年上の男性が好きという子の気持ちが理解できる気がした。
付き合うとかそういうことは棚に上げておいて、私の恋愛観をおじさまに打ち明けてみた。普通の人よりいろいろと本を読んだり歳を重ねているので、「そういう価値観もあってもいいんじゃない?」と寛容な答えだった。
ある日、おじさまに「俺の家、書斎しか使っていないから来る? 他は自由にしていいから」と提案された。
おじさまとたまに会うこの静かで満たされた空気が好きだったので、それが毎日というのはどうだろうかと一旦は考えてみた。が思い切って引っ越すことにした。
おじさまもたまに料理はする。しかも美味しい。ダイニングにテレビはないがおしゃれなジャズは流れている。素敵という単語がピッタリの空間だ。
どうして前の奥さんと離婚したのかが不思議だ。が詮索はしないことにした。
打ち合わせという理由でおじさまは編集者の女の人とよく遊んでいるようだ。付き合っているのだろうか。
たまに体を重ねることはあるけれど私とおじさまの関係は、まだうやむやだ。籍を入れるわけでもなく私としては恋人のつもりではいたけれど、おじさまにしてみれば体の大きい娘みたいなものなのだろうか。お互い束縛はしないし生活に不満もない。
けれどまた夏が終わると今までとは違う
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