第15話 スミカの町とシスカの町
着いた!!」
両手を広げて喜ぶアーニャを筆頭に、ソウマ、エグゼも村に帰還した。
ノームの魂は『精霊の寝所』まで連れて行くと、何とか消失寸前で踏みとどまった。
もしあのまま消えてしまったら、この辺り一帯の山と森は死の大地と化し、スミカの村も滅んでいたことだろう。
そして、ノームが落ち着くのを確認してからエグゼたちは村に帰ってきたのだった。
ノームの力が元に戻るまでは大変かもしれないが、しばらくすればまた以前のように活気のある村に戻ることだろう。
そうして村に戻ったエグゼたちは、村人からの大歓迎を受けていた。
ノームと最も親和性のあるドワーフたちだ。一早くノームが開放されたのを感じ取ったのだろう。
「見事、俺の思惑通りにことを進めてくれたな」
長のビーンがエグゼに語りかける。
「いくら魔法力を封じられても、今まで精霊たちと長い付き合いして来ましたからね。違和感は感じ取れましたよ」
坑道の入り口を守護していた魔物が、ノームが使役する土人形だったことも、エグゼの推理を裏づける証拠になった。
しかし、確かに違和感は感じ取れたが、それだけだった。
ノームの魂に別の生き物の魂が結合しているということを見抜いたのは、アーニャだ。
さらには、魂同士の結合部まで見えるとは……。
(確かに、あの瞳があれば『黒のカーテン』の正体が分かるかもしれない)
無事にこの村は救えたものの、なにも根本的な解決にはなってはいない。
ミハエルを倒し、王政グランベルトを滅亡させる。
そして、また昔のような聖エルモワールのように、人も魔物も一緒に暮らせるような大陸を作らなくては……。
(そのためにも、早く大精霊たちと契約をしなければ……)
エグゼの顔は優れないままだった。
「どうしたの?エグゼ?」
アーニャが、浮かないままのエグゼの顔を覗き込む。
「い、いや。なんでもないよ」
今は酒場で、パーティーが行われている真っ最中だった。
ソウマは村の若い衆に囲まれ。質問攻めにされている。
「山崩れがおきたときはもうだめかとおもったぜ……」
「一体、何で山崩れは収まったんだ?」
飛び交う疑問にソウマは酒を飲み、肉を食いながら答えていた。
「あの程度の山崩れなら、俺が何とかできるさ!」
「え? あれ、あんたが止めたのかい!?」
「はははは! ソウマの旦那は冗談がうまい! あんなもの、人間になんとかできる代物じゃないぞ!」
と、やはりその件に関しては、村人から信じてもらうことができなかったようだ。
(そりゃそうだよ、間近で見た僕ですら信じられないんだから)
窓際の席に腰掛け、エグゼもちびちびと果実酒を飲んで、肉やら魚やら、野菜を食べている。
「エグゼさん、こちらにいらしてお話しましょうよ!」
エグゼの周りには、ドワーフの娘さんがたが集まり始めた。
「え? いや、ぼくは……!」
「エグゼさんの大活躍も聞きましたよ!」
「なんでも、ノームの状態が普通ではないと看破されたとか!」
「エグゼさんがいなかったら、ノームも殺されていたのでしょう?こわいわ……」
矢継ぎ早に話し倒されて、エグゼも困惑気味だ。
「お、お嬢さん、はぁはぁ」
「や、やめなさいよ、この変態!」
「こんな危険な旅なんかやめて、おじさんと一緒に……」
アーニャはあまりよろしくない輩に言い寄られているようだ。
「嫌よ、はげ!!」
「また髪の話してる…」
「よっしゃ、朝まで騒ぐぞ!」
「「「おおおっ!!」」」
こうして、シスカでの長い一日は終わりを告げたのだった。
「約束は約束だ、俺たちスミカの村は全面的にあんたら『メリクリウス』に協力しよう」
次の日。
村長、ビーンの家に呼ばれた一行は、約束どおりの契約を交わしていた。
「俺たち『メリクリウス』は他の団体や、グランベルトの脅威から、俺たちは必ず力を貸そう」
資金や物資の援助をしてもらう代わりに、村を脅威から村を守る。
または、街道の整備警護をして安全に他の村へ行き来をできるようしたり、交易をできるようにする。
それが契約の取り決めだった。
「もう、ツクヨミの街からここを守る警護団は出発している、あと5日くらいで到着予定だ」
「まぁ、わしら相手に警護なんざ必要ないがな」
屈強なドワーフたちが数多く住む村だ。めったなことはないであろうが。
「なに、そいつらが暇してる時は、鉱山でびしびし鍛えてやってくれ! いい筋トレになるだろう」
そういって、ソウマとビーンはお互いに笑い合う。
「俺たちも、これから取れた石炭を馬車でシスカの町まで運ばなければならん。道中に用事がないなら、馬車に乗って行ったらいい。歩いたらあと4日はかかるが、馬車なら2日半程度でつくだろう」
「それはありがたい。少し予定から遅れているからな」
「ぼ、僕は『メリクリウス』のメンバーじゃないんだが……」
「いまさらナニ言ってんだ!旅は道ずれ、世は情けだ、一緒に行こうぜ!」
こうして三人は、ビーンお騎乗する馬車の荷台に乗り鍛冶の町、シスカへ向けて出発した。
シスカの町まで、あと半日、というくらいのところで、一人の壮年ドワーフとであった。
ビーンは馬車を止めて馬から降りた。
「叔父貴、ルドルフの叔父貴じゃないか、どうしたんだ?」
どうやらビーンの親戚のようである。
「どうした? じゃねぇこのアホ! 石炭が届かねぇから、こうして心配してそっち向かってたんだよ!」
何事かとエグゼ、ソウマ、アーニャも降りてきた。
「ルドルフさん……」
ルドルフとばれた壮年のドワーフ。
この人も何回か会議の場で見たことがある。
確か、これから向かうシスカの町で町長をしているはずだ。
そして、ルドルフ本人も鍛冶職人で、その腕はシスカにいる腕っこきの職人の中でも、群を抜いているそうだ。
「まぁ、いい。石炭は取れてるんだな?」
「訳ありだが、なんとかな」
「ふむ。その訳とやらも道中聞きたいものだ」
「あの3人が、スミカの村の英雄さ!」
そう言ってエグゼたちを紹介する。
「どうも! 俺はソウマ、こっちはエグゼで、この子はアーニャ。3人とも、『メリクリウス』という反乱組織のメンバーだ」
「ふむ、わしはシスカ町の町長、ルドルフじゃ。ん? アンタは、確か王の護衛の……」
やはりルドルフも、エグゼのことを覚えていたようだ。
「まぁ、お前さんも大変だっただろう。ワシやシスカの町では、お前さんのことを悪く言うやつはおらん。
ワシや町の有志はあの時、真っ先にエルモワールに行こうとしたが、『造魔』とか言ったか…。敵が強すぎてツクヨミの街より東には行けんかった」
ルドルフはその時、己の無力さを痛感したのだ。
もちろん本職は戦士ではない鍛冶屋だが、腕には自信があったし、若い頃は冒険者として旅に出たこともあったからだ。
「王都にも行けんかったワシには、渦中の只中で命がけで戦ったお前さんを責めたりはできん」
「ルドルフさん……」
ソウマとアーニャも、エグゼがどのような状況に立たされているのか、理解し始めていた。
過去には英雄とあがめられ、いまだに尊敬してソウマを受け入れてくれる人もいるが、大半はスミカの村の酒場でもあったように、エグゼに敵意を向けるものが多い。
たしかに、エグゼは国を守れなかった。
そして今の圧政を受けて、その憤りは国を守れなかったものに向けられた。
ミハエルが謀反を起こしたのも、王族の方々が亡くなったのも、その戦争でたくさんの兵たちが死んだのも。
誰かのせいにして、その怒りを解消しているのだ。
ルドルフは馬に跨る。
「儂も乗せてってもらうぞ、ビーン」
「もちろんさ!」
道中はビーンによる、エグゼ達の活躍話で花が咲いていた。
こうして一行はつかの間の仲間を連れて、シスカの町に到着した。
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