第13話 ソウマの技とエグゼの策

「こおぉぉぉぉぉっ!!」

 深い息吹が山中から気を集める。

 ソウマは全身にその気を限界まで取り込み、体中へと巡らせる。

 発達した筋肉はさらに隆起し、山の気の脅威的な力を示す。

『何をしても無駄ですよ、ソウマ君。本当ならもっと貴方たちと遊んであげたかったのですが、残念です』

 これから先、エグゼにはやってもらいたいことがある。

 アイテムの所在を突き止めること。

 造魔たちの強さを知るための実践相手。

 正反対の意味で、エグゼとミハエルの思惑は一致しているのだ。

 だが、この場所で

 この程度で死んでしまうのなら、その程度の男だったということだ。 

 もしエグゼが死んでしまったならば、その手をこの大陸から世界へ伸ばせばいいだけの話。

『これで終わりです。死になさい!』

「見せてやるよ、『深淵流』の奥義を!」

 ソウマは空高く舞い上がると、その両の腕を大きく広げる。 

 それはあたかも大空を自由に飛び回る華麗な鶴のようだった。

 しかし、そこに込められた力は、鶴の美しさとは正反対の、猛々しいものだ。

「『深淵流…鶴翼双爪(かくよくそうそう)!!』」

 深淵流の初歩の技『風鎌拳』は、すばやい腕の振りで真空波を巻き起こし、離れた敵を切り裂く技だ。

 そして、この技も基本は一緒。

 しかし、そこに込められた気の量が桁違いなのだ。

 気を取り込み、体内に圧縮。 

 さらに気を取り込み、体内に圧縮。 

 ソウマは常日頃、日常生活の時でさえ無意識にそれを行っている。 

 それに加え、精霊が住むほどの山や森から、限界ぎりぎりまで気をもらい、今まで貯めた分の気と一緒に解き放つ。

 深淵流の極意は正にそこにあるのだ、

 そして、その驚異的な威力の衝撃波は……。

 ソウマの両の腕から放たれた二筋の衝撃波は、真正面から山崩れと相対する。

 そして、しばしの拮抗のあと。 

 山崩れは大きく雲散霧消し、消え去った。

 しばらくは、砂が雨のように降り続けるかも知れないが、山崩れで村ごと飲み込まれて全滅するよりはよほどましだ。

『ば、ばかなっ!』

 勝利を確信していたミハエルが始めてみせる、驚愕。

「ふぅ……」

『貴様、人間か……?』

「失礼な、れっきとした人間だ!」

 これでミハエルは察した。

 ノーム最大の技をもってしても倒せなかったこの男に、勝ち目はないと。

『私はこれでお暇いたします。が、この後の展開、楽しみにしてますよ。くっくっくっく』

 そう、ソウマはノームを殺すことはできないのだ。

 もしここでノームを倒してしまえば、このあたりの土地は森も動物も生きられない不毛の地となってしまう。

「さて、どうしたもんかな……」

 ミハエルの気配が消えたノームは、再びソウマを襲うが、たいした戦力も残されてはいない。

 たしか、アーニャが魂がどうのといっていた。

 アストラルボディを攻撃するすべがないことはないが、ソウマには隠されたアストラルボディを視るすべがない。

 そこへ、意識を取り戻したエグゼと付き添いのアーニャが駆け寄る。

「ソウマ、お前化け物か!?」

「だからソウマなら、何とかしてくれるって言いったでしょ?」

「ええい、お前ら! そんな話はあとででいいだろう!?」

「そうだったな……。ソウマ!少しでいい、あいつの動きをとめてくれ!」

「エグゼ!?」

「その間に僕が何とかする!!」

 ソウマの頭に、エグゼの傷が頭をよぎる。

 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。 

 場合ではないが、あれは一歩間違えれば死にいたる傷だ。 

『させるか!』 

 ノームは苦し紛れに攻撃を繰り出すが、ことごとくソウマにかわされる。

「よっと!」

 ソウマは軽々とノームの攻撃をかわすと、背後に回りこみ、羽交い絞めにする。

「いまだ、エグゼ!」

「ありがとう、ソウマ!」

 エグゼの手にはロングソードではなく、今まさに朽ちかけんとしている『大いなる精霊王の剣』

「今までの僕は、この『大いなる精霊王の剣』に精霊を宿してその力を使ってきた。この剣を介して、精霊に呼び掛けてきたんだ」

 鞘から抜き放たれた宝剣は、刀身すら刃こぼれが生じ、致命的な亀裂が入ってしまっている。

(後一回、耐えてくれ……)

 そうして、エグゼはノームに剣を向ける。

 ノームは、静かに剣の中に吸い込まれていった。

 それと同時にエグゼも意識を手放す。 

 この悲しいノームの魂を救うために。

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