第五話 神獣の真名
「こんなものは『大洋伝』の結末ではない」
だが
「名無しの娘よ、その本はお前には過ぎたるものだ」
「だから
「お前の名前など知ったことか!」
苛立ちを隠そうともせずに、
「気をつけろ、
それは
「私もこういう荒事は慣れていない。下手な傷を負う前に、その本を寄越せ」
右手に小刀を持ったまま、左手を突き出す
キムも
何かないかと
「こんなもんは、こうよ!」
その言葉を言い終えないうちに、
心許ない程度の明かりを放っていた火だが、長年を経て劣化した書物を燃やし尽くすには十分であった。今にも崩れ落ちそうな表紙に明るい炎が燃え移ったかと思うと、その火は瞬く間に本全体に広がっていく。
「熱っ!」
小さな炎の固まりとなった本を投げ出した
「なんということを……」
床板の上に四つん這いになりながら、わずかに燃え残った『創世始記』の名残に視線を落とす
微動だにしない
「ローラン。あなたが読んだ『大洋伝』は、今をもって書き換えられたわ。それも私ではなく、スイによって」
顔を伏せたままの
「『大洋伝』に記載のない、あなたが存在を認めなかったスイだからこそ、そんなことが可能だったの。この世界は、この世界の住人自身の手によって、『大洋伝』から解き放たれたのよ」
だが
「
彼のその言葉に、
「それは良い。真意がよそにあると知りながら、お前の策を採用し続けたこの儂もまた同じこと。だが儂は目的を果たすことかなわず、どうやらお前の目論見も外れたからには、諦めて別の道を探すのだ」
やがて
「別の道だと? 私が『大洋伝』の結末を実現するためにどれほど奔走したか、その苦労が貴様にわかるものか」
掠れた笑い声と共に、
「貴様は『大洋伝』の結末をねじ曲げた」
睨みつけるだけでは飽き足らないかのように、
「
「この世界に暮らす私が、なんでおとなしく世界の破滅を待たなきゃならないの」
だが
「だいたいあなた、この世界の作者でもなんでもないじゃない。『大洋伝』の読者だというなら黒幕気取るような真似しないで、おとなしく傍観していれば良かったのよ」
「黒幕気取りだと……」
挑発的な
「見下されたものだな。だがお前の言う通りだ。私は『大洋伝』を熟知している」
それまで
「それはつまり、『大洋伝』に記された神獣の真名を、当然私も知っているということだ」
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