第四話 再会
その晩、辺りが再び闇夜に包まれようとする頃合いに、討伐軍の船団から一艘の小舟が音もなく海上に滑り出た。
ここ数日は天候に恵まれて、一帯の海域は極めて穏やかだ。
「どうせなら小雨でも降ってくれた方が、忍び込むにはちょうどいいんだけどな」
小舟の船尾に立って櫂を漕ぐ
「まさかまたお前の水夫姿にお目にかかるとは思わなかったよ」
さすがに
「このまま真正面からいくの?」
背中を向けたままの
「
「わかった」
おとなしく頷く
「
すると
「怖いに決まってるでしょう」
そう答えても、
「でも、
己の恐怖を振り払うかの如く、まるで自身に言い聞かせるような
***
その操船技術は小舟を操る際にも遺憾なく発揮された。
左腕を怪我していたことなど、
「ここから
先に船を下りた
「この先に抜け穴があって、そこから賊のねぐらの端っこに繫がってるんだ」
足下は岩肌がむき出して、あちこち濡れて滑りやすい。
やがて途中で重なる岩の合間にぽっかりとした穴が開く。どうやらここが
だがその抜け穴は存外に短く、ふたりはあっという間に開けた場所に飛び出した。
そこは周囲を背の高い岩に囲まれた、せいぜいふたりが定員の、行き止まりのような空間であった。
「どうするの、ここから」
同時に乾いた木と木がぶつかり合って、からんころんという小さな音が響く。それからしばらくすると、おもむろに岩の上から縄梯子が投げ出された。「上るぞ」という
「飛家の若造か」
どうやら
どれほど歩いただろうか。たいして時間は経っていないのだろうが、道中の
いったい自分は何を考えて、自ら海賊のねぐらに飛び込もうとしたのか。だが『大洋伝』のあらすじを知ったときには、賊に――というよりも
それは
とにかく
「入れ」
気がつくと傷だらけの男は足を止めて、先に行くよう促される。そこは岩山の合間に設けられた砦の裏口らしく、狭い石切り場のように切り開かれた四角い入口の奥から微かに明かりが零れていた。男の言うままに入口に足を踏み入れたふたりがくねくねとした細い道を歩き続けると、やがて突き当たりに堅牢な扉が現れる。
ふたりの後をついてきた傷だらけの男が、来客の到着を告げた。すると応という返事と共に、頑丈そうな扉がゆっくりと開く。
扉の陰から現れたのは、頭巾を鉢巻のように巻きつけた上から伸び放題の
「
思わず
やがて彼が驚愕に目を見張るまで、それほどの時間はかからなかった。
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