第34話 底辺冒険者と薄汚れたチームワーク①

「エル、アリシア! 武器なんか捨てて早くこっちに来い!」


「で、でも……」


「俺に作戦がある!」


「ホント!?」


 作戦があることを伝えると、エルとアリシアはすぐにこんを手放してドタドタと駆け寄ってきた。

 やはり戦うのは無理だと悟っていたらしい。


「いいか、俺の言うとおりにしてくれ……」


 作戦内容を伝えた途端、エルとアリシアが驚いた表情を見せた。


「わ、わたしのことを真っ先に見捨てるあのユーヤが……おとり!?」


「で、でもそんなことしたらユーヤさんとランさんが危ないです……!」


「心配するな。脱出するための方法ももちろん考えてある」


 

 



「良かったぁ。安心しました」


 俺の考えを知る由もないアリシアが、ホッと胸を撫で下ろす。


 アリシアにはもちろん伝えていないが、彼女にはランもろとも黒マスクたちを魔法で燃やしてもらう。

 これも俺の……ひいてはチームのためだ。悪く思わないでくれ。


「よし。エル、アリシア、頼んだぞ」


「うん!」「はい!」


 威勢の良い声と共に総員配置につく。


 エルはさっそく俺に言われたとおりに地面に落ちた1本の棍を拾い上げ、ランを呼んだ。


「ランちゃーん!」


「え!? ど、どうしたのですか? 相手の攻撃が来て危ないので下がっていてください!」


 後ろから急に話しかけられ戸惑うラン。

 エルを後ろ手で制す。

 まったく、危ないとかどの口が言ってるんだ。


「ユーヤがこれ使えって!」


 そう言って、エルが《転移テレポーテーション》でランに1本の棍を渡す。


「これは私の棍!? ありがとうございます!」


「あ、あとね! 『このままじゃラチがあかないから、相手とのキョリを詰めろ!』……って言ってた!」


「なるほど。でも……」


 ランが戸惑いを見せる。

 相手は遠距離攻撃の使い手。距離を詰めることが難しいのは俺でもわかる。

 だが。


「『これもチームワークのためだ!』って言ってましたよー!」


 アリシアが付け加える。

 その言葉を聞いた瞬間に、ランの目が色づき始めた。


「チーム……ワーク!」


 そう。チームワーク。

 ランがこの言葉を聞くと、俄然やる気とそしてーーに磨きがかかる。

 おそらく、ランのドジっ娘プレーの原動力となっているのはチームワーク。

 チームのためを思えば思うほどミスをし、仲間を傷つける。

 こちらからしたらいい迷惑だが、今回はそれを利用させてもらう。


「なるほど! 少々危険ではありますが、チームのためなら仕方ありませんね! 仲間のために死地に飛び込む……素晴らしいチームワークです!!」


 そして、こいつはチームワークの意味を全く理解していない。

 だからこそ、この作戦が効く。


「ではーー参ります!」


「き、来ますよ、アニキ!」


「うろたえるな! この距離を詰められるわけがねえ!」


 確かにランと黒マスクとの距離は離れすぎている。

 この間合いを一瞬にして詰めることは不可能。

 そう――

 


 ――ランでなければ。



「《縮地シュクチ》!!」


「なにッ!?」


 黒マスクが驚いたのも無理はない。

 安全な射程距離にいたランが、わずか1歩でその間合いを半分にまで詰めたからだ。


 ファイターをはじめとする近接戦闘系職の持つ固有スキルーー《縮地シュクチ》。体内の魔力を足から放出し、スピードに変換する技。

 ランが風を切る勢いで黒マスクたちに詰め寄る。


「まずい! 次の1歩でここまで来ちまう!」


「このまま、突き進みます!」


 怖気づく相手に迫ろうと、ランが地面を力強く蹴り上げた――その時。



 ズルッ。



「へ――?」



 滑った。


 踏みしめた地面に避けられたのではと思うほどに、ランの足が空中で勢いよく空回りする。

 魔力の放出先を失った足は勢いそのまはまに空を見上げ、バランスを失ったランはそのまま前のめりになって顔から地面へとダイブした。


「ぐべへッ!?」


 断末魔と共に、ランの体は地面の上を滑り続ける。

 土ぼこりを盛大に巻き上げながら進み、黒マスクの足元に来たところでやっと止まった。


 距離は詰められたが、相手の目の前でうつ伏せに転がっているこの状況。

 まさに絶望的だ。


「なにやってんだ……この嬢ちゃん……」


 地面に突っ伏すランをあ然と見つめる黒マスク。


「よくわからんがチャンスでっせ、アニキ!」


「お、おうそうだな。今度こそさよならだ、嬢ちゃん」


 黒マスクが目前のランに向かって弓を引く。

 最後の最後でドジっ娘スキルを発動させるとは、"戦力外娘"は悪い意味で期待を裏切らないな。



 だが今回はそれでいい。

 むしろそれを狙ってランを焚き付けたのだから――。



「死ねぇッ!!」


 弦に魔力の矢が精製されていく――今だ!!



「ッ!? 待ってくれアニキィッ!! 後ろに敵がぁー!?」


 迫りくる影に気づいた黒マスクの1人が悲鳴をあげる。


「ナニッ!?」


 だが気づくのが遅かったな。


 俺はもう既にお前の背後にいる――!

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