第33話 底辺冒険者とドジっ娘ファイター②

「くっ……武器が無くなってしまいました……」


 何も無い手元をランが悔しそうに見つめる。

 再三のスキル攻撃に耐えていたランだったが、武器が無くては戦えない。


「し、しぶとい嬢ちゃんだったが、もう終いのようだな」


「アニキ! 早いとこやっちまいやしょう!」


 ランのしぶとさに憔悴しょうすいしきっていた黒マスクたちの表情が緩んだものになる。

 だが、安堵していたのは黒マスクたちだけではなかった。


「やっと、終わった……」


 襲いくるランの攻撃から逃げ続けてきた俺たちはすでに満身創痍。

 なんせランが戦えば戦うほどドジっ娘プレーを連発して、流れ矢と流れ棍がひっきりなしに飛んでくるのだから。

 それでもなぜかランは戦いをやめない。

 ランのタフさに参っていたのは俺たちのほうだ。


「うぅ……ひぐっ……」


 エルに至ってはもう半ベソ状態。

 せめて新品のシルクハットだけは死守しようと大事そうに抱えこむ姿がなんとも哀愁を誘う。


「ヒ、《治癒ヒール》!」


 ボロボロの俺たちにアリシアが回復魔法をかける。

 なぜかアリシアだけはランのドジっ娘被害を受けていなかった。


「うぅ……ありがとぅ……アリシアちゃん……」


 エルがうつ伏せに倒れたまま礼を言う。


「あいたた……」


 アリシアのおかげで幾分か体力を取り戻せたが、全快とまではいかないようだ。体の節々が悲鳴をあげている。


「くっ……私はまた仲間を守れないのですか……」


 拳を握りしめるランの表情には、俺たちに対する罪悪感ではなく、自身の不甲斐なさによる悔しさだけが滲み出ていた。

 この惨状の原因が自らにあるとは到底考えていない様子。


「さあ、次で終わりだ」


 黒マスクたちが矢を構える。

 ランの手元にはもう武器がない。

 全部で7本もあった棍は、3本が遥か向こうへ、4本が俺とエルに当たったため目の前に落ちている。

 半分以上当てに来るとか、もはや悪ふざけの域を超えているぞ?


「な、なんとかしてここから生還しなければ……」


 ランのことなど心底どうでもいいが、あいつが倒されてしまってはあの黒マスク2人に太刀打ちできる人間がいなくなってしまう。

 かといってこれ以上ランが戦い続けても、俺の体が保たない。


「いったいどうすれば……」


 悪知恵と生存本能をフル稼働させて、必死に頭を働かせる。


 考えろ。

 俺が助かる方法を。


 エルのマントでランに武器を供給する――いやダメだ。

 それでは根本的な解決にはならないし、いずれ俺たちの体力が尽きる。


 アリシアの魔法で一掃する……のも市民を一緒に巻き添えにしてしまうからダメだ。社会的に死ぬのはゴメンだしな。

 かといって威力の弱い魔法であいつらを倒せるとは思えない。

 


 いったいどうすれば……。



「…………………………」



 眉間にシワを寄せ、熟考していたその時だった。



「こうなったら自分で自分の身を守らなきゃ……!」


「チ、チームワークで乗り切りましょう!」


 見ると、エルとアリシアが足元に落ちていた棍を拾って、相手の攻撃に備えようと身構えていた。

 棍の先端をヘタらせながら、へっぴり腰で構えている。


 いつもならツッコミも入れずに呆れてその様子を見ているだけだったが、この時は違った。


「棍……チームワーク……」


 頭の中に血が巡る感覚。

 そして1つの答えを導き出す。


「そうか、その手があったか!」


 この状況を打破する方法。

 しかもそれは俺が助かるだけの作戦ではない。


 同時に、あのドジっ娘疫病神のパーティーメンバー加入をも阻止する策を閃いたのだ。


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