死にたい僕と死んでる彼女

気になる男子高校生

出会いと別れ


 僕は学校には行っていない。理由は簡単、虐められていたからだ。

 当時、僕には好きな人がいた。でも、その人に彼氏ができた。彼女が幸せならそれでいいと思っていたから、諦めることにした。でも、僕は見てしまったんだ。あいつが他の女性とも付き合っていたところを。

 『お前が一番だよ』

 『お前を一番愛している』

 あいつは表面上だけの薄っぺらい言葉で巧みに人を操っていた。僕は彼女を弄んでいたあいつが許せなかった。


「なんだ、お前。女欲しいならいくらでもやるよ?あ、最近できたあいつあげるわ。アイツ体はいいけど、性格がめんどくさいんだよなー」


 僕の体は勝手に動いていた。初めて人を殴ったが、とても清々しい気分だった。これで彼女は救われたんだ。僕は勝手にそう思っていた。

 でも、現実は違っていた。


「ちょっと、君。私の彼を殴ったって本当?」


「え、あ、はい」


「は、ふざけんなよ。お前ごときが彼に触んな。お前のせいで、もう関わらないとか言ってきたんだぞ。まじうざい死ねよ」


「でも、あの人浮気してました……」


「お前さ本当に最低だな。彼を殴った挙句、浮気してる呼ばわり。彼がするわけないでしょ、私だけを見てくれてたんだから」

 なんでこんな人を好きになってしまったのだろう。自分が情けなくて悔しかった。

 次の日から虐めが始まった。


「ゴミはゴミ箱へ」


 みんなは僕にそう言ってきた。ゴミ箱は僕の道具入れに変わってしまった。トイレで水をかけられたり、女子の前で服を脱がされたりした。もう耐えられなかった。どうしてわかってくれないんだ。誰も僕の言うことを信じてくれない。僕は心を閉ざした。その日以来学校には行かなくなった。

 

 もう、自殺しよう。僕は生きている理由がわからなくなった。僕が死んでも誰も悲しまないし、必要とされない人生なんて生きる意味もない。学校から飛び降りて死のう。そう思って外に出た。久しぶりの外は眩しく感じると思っていたが、真っ暗だった。


「おーい。ちょっとそこの君」


 声がするほうを見ると一人の女性がいた。僕と同い年ぐらいだろうか。なんだか懐かしい感じがした。よりによって今から死のうとしている僕に声をかけるとは。


「ちょっと、頼み事があるのですが」


 彼女はどこか寂しげな表情をしていた。最後くらい人の役に立ってから死ぬのも悪くないな。


「いいですよ。役に立てるかわかりませんが」


「ありがとうございます」


「何をすればいいんですか?」


「……私を成仏させて欲しいんです」


 言っている意味がわからなかった。それだと彼女は死んでいることになる。


「私は昔、交通事故で死んでしまいました。一人大事な人がいたのですが、その人をおいてけぼりにしてしまいました」


 僕と反対だ。可能ならばこの命をあげたいぐらいだ。


「私は死にたくありませんでした。もっと楽しいことをしたかったし、あの人と一緒にいたかった。その後悔が私をここに留めているのだと思います」


「……そうか」


「だから、一緒に私の後悔を無くすのを手伝って欲しいんです」


「わかった」


「私が成仏するために与えられたのは二十四時間。それを超えてしまうと、強制的に消えてしまいます。たがらその間にしたいことをメモしてます!」


「わかった。じゃあ、何からしよっか」


「記念すべき一つ目は友達を作るです!」


「友達ねぇ……誰と?」


「何言ってるんです?すぐそこにいるじゃないですか」


「え、僕?」


「そうですよー。だって私を見えるのはあなただけなんですよ!」


 どうやら本当らしい。周りの人達は彼女が話しかけても、聞こえていなかったかのように通り過ぎていった。


「じゃあ、私とお友達になってくれますか?」


「はい」


「じゃあ、名前を教えて」


「僕の名前は……日垣ひがきわたり


「渡くんよろしくね」


「君はなんて言うの」


「え、私?なんだっけなぁ、思い出せないや」


「そっか、思い出したらでいいよ」


「了解。そんなことより次のしたいことするよ」


「……はいはい」


「えっとね、たくさんお話をするです!」


「うーん。そだな、好きな人とかいた?」


「いましたよ……」


「君に好かれる人は気の毒だな」


「なんなんですかそれ!」


 彼女はぷくぅとほほを膨らませていた。少し可愛らしかった。それから二人でたくさんお話をした。好きな食べ物の話、昔おねしょをしてしまった話。どれもしょうもない話ばかりだ。でもなんだか心地が良かった。


「三つ目はなんと、カップルになるです!」


「カ、カップル!?」


 俺は緊張してしまった。そんないきなり言われても。


「じゃあ、渡くんわたしに告白してください。安心してください。嫌でも絶対に振ることはできませんから」


 最後の一言は余計だ。僕は深く深呼吸をしてから言った。


「君が好きだ。僕と付き合ってください」


「はい!喜んで。じゃあ次行きましょう」


「いや、もうちょい余韻に浸れよ!」


「そんな時間ないですよー。まぁ、こんな可愛い子と付き合うことが出来たから嬉しいのは分かりますよ。渡くん見るからに彼女出来なさそうだから」


「うっせーし」


 ぷぷっと笑ってくるので、睨みつけてやった。


「えっとぉ、ケーキを作りましょう」


「いきなりかよ」


「私ケーキ屋さんになるのが夢だったので」


 夢かぁ。俺にも夢ってあったっけな。


「てか、どこで作るんだよ」


「そんなの、渡くんの家に決まってるでしょ」


 そう言ってスタスタ歩き出す。


「僕の家そっちじゃないよ」


「早く言ってよ」


 顔を赤らめながらキーっとこっちを睨みつけてきた。


「ホットケーキがいいな」


「了解」


 ホットケーキなんていつぶりだろう。懐かしいな。昔よく作ってくれたっけな。あれ?誰が作ってくれたんだっけ。


「できたぁ!」


「やったな」


「はい、あーん」


 恥ずかしいが、ちょっと良かった。味もとても美味しかった。


「おいしいですか?」


「あぁ、上出来だ。これならケーキ屋さんになれたかもしれないな」


「……そうですか」


 美味しかったのでもう一つ食べることにした。


「お食事タイムはもう終わりですよ。次は遊園地に連れて行ってください!」


「遊園地かぁ。懐かしいな」


 昔誰かと一緒に行った気がする。確かあの子はジェットコースターによく乗ってたっけな。


「ジェットコースター乗りたいなぁ」


「ははは、いいね」


 つい笑ってしまった。


「何で笑ってるんですかぁー」


「なんでもないよ」


 彼女はジェットコースターが本当に大好きらしく、十回も付き合わされた。さすがに吐きそうだ。


「大丈夫ですか?もぅ、たかが十回でだらしがないですね」


「……ごめん。僕は大丈夫だから次したいことに行こう」


「そんな、無理ですよ」


「いいんだ。ほんとうに大丈夫だから」


「わかりました。じゃあ観覧車に乗りましょう」




「わぁー、景色が綺麗ですよ」


 辺り一面は夕日に照らされて、赤く染っていた。


「本当だな」


「あー、楽しいなぁ。あと、元気になったみたいでよかったよ」


「うん。なんか、昔ここに来たことあるような気がするんだよな」


「……そうなんだ。話変わるけど、次がラストだから」


「そうか……」


 観覧車が着く頃にはあたりは暗闇に包まれていた。月がこんなに美しく感じるのは何故だろう。


「最後は学校に行きたい」


 学校か。僕が一番行きたくない場所であり、死のうとしていた場所である。彼女が消えたら僕もそのあと消えようか。


「わかったよ。じゃあ行こっか」


 彼女は手を握ってきたので、握り返した。彼女の手はもても冷たかった。何故か僕は胸が痛くなった。

 彼女は学校の屋上へ、駆け上がった。


「ねぇ、みてよ。星が綺麗」


「そうだな。俺は月の方が綺麗だと思うけど」


「……あっそうですか」


 彼女の顔はよく見えないが、照れているのか耳が赤くなっていた。


「星や月ってすごいよね。どんだけ周りが暗くても輝くのだから」


 彼女の声はとても優しかった。


「渡くん。私ね本当は自分の名前知ってるの」


「え?」


「交通事故にあった日、私は好きな人といたの。その人は私を庇ってくれたんだけど、打ちどころが悪く、私は死んで彼は助かったの。でも、彼は記憶をなくしてしまったの」


 切ない話だと思った。好きな人を庇ったのに死なせてしまい、その人の記憶まで忘れてしまうなんて……悲しすぎる。


「でね、その人にね新しく好きな人が出来たの。それでさ、その人は好きな人のために頑張ったのに誰にも信じてもらえず、虐められたの。仕舞いには自殺しようとしてるし」


 あれ?その人は知っている気がする。


「あのね、渡くん。約束して、絶対に死なないって。何があっても、死んでいい理由にはならないから」


「あ、あの……」


 横を見ると彼女の姿が薄くなっていた。


「私はもう時間みたい。あ、あと私の名前は飛鳥あすかだから。忘れないでね私の事、大好きだよ渡くん」


 そう言って消えてしまった。

 ――思い出した。僕は昔、千景ちかげ飛鳥あすかと付き合っていたんだ。

 僕本当に馬鹿だ。『飛鳥を一番愛している』『絶対守る』とか言っておいて、他の女性を好きになり、飛鳥も守れなかった。僕はあいつと同じじゃないか。


「違うよ。渡は違う。だって私を庇ってくれた。今回だって好きな人のために全力をつくしてた」


 飛鳥の声が聞こえた気がした。これは僕の都合のいい妄想かもしれない。でも、僕は絶対に死なない。今度こそ飛鳥との約束を守ってみせる。

 

 そして俺は死んだ。九十四歳だった。


「渡くん、約束を守ってくれてありがとう」


 飛鳥が迎えに来てくれた。


「飛鳥、待っていてくれてありがとう。もう離さない。飛鳥僕と結婚しよう」


「はい!喜んで」

 

 

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