第13話 歩寄

 タイガーアベンジャーの事を1人の存在としてしっかり見る事。俺は、タイガーの事を見ていないってのか?

 陽が落ち始めた人気の無い海辺、そこで俺は腕組みをして目を閉じ1人考えていた。

 元々頭を使うのはあまり得意じゃねぇが、謎の獣人が言った通り、これは俺自身が答えを見つけるべきなのだろうな。

 奴を怒らせたのは俺だ……。奴を納得させるためにも、俺自身が答えを見つけるしかねぇ。


「……」


 俺とあいつの違いは、俺が強き者に、アキラに出会っていたかどうかだけだ。アキラがいてくれたから、俺は人間を信じる事が出来たんだ。あいつは、俺がアキラに出会っていなかったらなっていたかもしれない姿なのかもしれねぇ……。

 オオカミ野郎との戦いが終わった後、アキラが俺に絆創膏を貼ってくれたあの時。

 ……あの時俺は、アキラに半獣人としてではなく、1人の存在としての俺自身を見てもらえた事が嬉しかった。誰にも見向きもされなかった俺自身を、あいつは強い存在だと、友だと言ってくれた。だから、俺はアキラと同じ事をあいつにしてやりたかったんだ。


「……?」


 眉間にわずかだが皺が寄る。自分の本心と先の戦闘で自身がタイガーに言った内容を思い出し、違和感を感じたからだ。


「……俺は、目的と手段を間違えていたのか?」


 俺はあいつに言ったな。俺達はこの世にたった2人かもしれない半獣人、だから和解したいと。俺はあいつと、アキラが俺にしてくれたように半獣人である事ではなくあいつ自身を見て和解したいと思っていたはずだ。

 ……俺は、心のどこかで舞い上がっていたのか? 初めて、自分と同じ境遇の仲間に出会えた事に。俺は、あいつと半獣人の仲間同士だから和解したいと思っていた部分も確かにあった!! 半獣人である事ではなく、あいつ自身を見て和解したいと思っていたはずなのに!!

 それに気づいた瞬間、自分の愚かしさに目を見開くと怒りのままに砂浜に拳を打ちつけた。歯を剥き出しにして荒い息を吐き出しながら歯ぎしりをする事を、怒りに自分の巨体を震わせる事を止められない。


「やはり馬鹿だな、俺は。本心ではあいつ自身を見て和解したいと思っていながら、実際にあいつに行ったのは、半獣人だから和解したいという上辺だけ見た言葉とはな」


 自身の愚かしさに思わず自嘲の笑みが浮かんでくる。

 ……だが、俺は半獣人の仲間という理由だけであいつを好きなわけじゃねぇ。あいつは、アキラの守護者としての役割を果たす約束をずっと守り続けてくれた。たとえあの約束による繋がりだったとしても、獣人と1人きりで戦う俺にとっては、アキラと同じくらい大切で心強い味方だったんだ。

 約束を守り続ける信頼できる仲間。それが、俺が奴と和解したかった理由なんだ!!

 俺は少しだけ安心して、いつの間にか頭上に上がっていた青い月を見上げた。自分が本当に上辺だけを見ていたわけじゃねぇ事を、アキラと同じ事をわずかでも出来ていた事が理解できたんだからな。

 あの謎の獣人の狙いが何なのかは知らねぇが、確かにあの時俺はタイガーの事を1人の存在としては見ていなかったという事か……。

 次に奴に会うのがいつになるかはわからねぇし、これが和解につながるのかもわからねぇ。だが、奴が言った通り俺は半獣人を迫害する人間と同じように上辺しか見ていなかった。だから、俺は奴に謝らなきゃならねぇ。

 心の整理をつけた俺は、傷つけてしまった自分の同胞への謝罪の念を抱きながら空間転移の鍵を取り出し海辺を去ろうとした。だがそこに、一瞬の閃光と同時に直立したクモのような獣人が現れる。


「シャシャ、それが半端者の普段とる姿ってわけかい? ゴウキさんよ?」

「……あのコウモリ野郎に俺の情報を知らされたってとこか? 獣人」

「その通りさ半端者!! コウモリ獣人の精神感応能力で直接俺様の脳内に貴様の普段とる姿や名前などの情報を送ってもらったからな。それさえあれば空間転移の鍵ですぐに居場所を突き止められるって寸法よ」

「そうか……」


 焦るでもなく落ち着き払って返答した俺の耳に、クモ野郎の舌打ちが聞こえた。


「焦らないのかい? 俺様は今貴様の人間としての姿と名前まで知ってるってのに」

「コウモリ野郎に心を読まれて、とっくに素性は知られてんだ。常に戦場にいる心構えでいるのは当然だろ。友を危険に巻き込まないために、今の状況に身を置く事も覚悟の上なんでな」

「シャッ、友の為なら自分を危険に晒すのも覚悟の上……か。泣かせるねぇ。なら、その大事な友のガキんちょと仲間の半端者が捕まったとなったら、少しは焦るかい?」

「何? どういう事だ!!」


 クモ野郎は俺の焦りだす姿を見て、にんまりと下卑た笑みを浮かべやがった。


「今、あの人間のガキんちょと水属性の半端者は、俺の仲間ドクガ獣人の毒鱗粉で満たされたクモの糸の結界に2人まとめて閉じ込めてあるのさ!! 今でこそ、あの水属性の半端者が能力を使いガキんちょを守っているが、それも時間の問題だろうよ!!」


 俺は両方の握り拳を胸の前でぶつけ、半獣人体に変身すると両手を頭上にむけ巨大な炎弾を作り出す。


「2人を今すぐ、解放しろ!!!」

「問答無用か、単純馬鹿が!! もう少し頭を使ったらどうなんだい? 奴らの命は俺様達の手の平にあるんだぜ!」

「何が言いたい?」

「奴らを閉じ込めている結界を解き、毒鱗粉を取り除いてほしければ貴様の命を我らに差し出せという事さ!!」

「!!!」

「さぁ、どうする? 今でこそ水属性の半端者が頑張っているが、あの半端者が力尽きれば2人共あの世行きだぜ!! わかったら、とっととその炎を消しな!!」


 俺は歯を強く軋ませるが、やむなく頭上に作り出した炎弾を消失させる。


「2人の無事を、確認させろ」

「残念だがそういうわけにはいかねぇぜ、半端者!! 我らが何のために、こんな回りくどい方法をとって貴様を脅迫していると思っている」

「てめぇらの能力が俺の炎やタイガーアベンジャーの氷の前には無力だから、だろ? てめぇの吐き出す蜘蛛の糸も、仲間だっていうドクガ野郎の毒鱗粉も炎で焼き尽くすか、凍らせて砕くなり水で防ぐなりすれば意味をなさねぇからな」

「ただの突撃馬鹿かと思ったら、少しは頭も使えるってわけかい。そうさ、貴様らのような半端者が相手でも、力の相性が悪ければ戦いには勝てない。だから、奴らを人質にしたってわけさ!」

「俺を馬鹿馬鹿言ってやがるてめぇらこそ馬鹿じゃねぇのか? 半獣人は多少の毒になら耐える事ができるし、今はタイガーがアキラを水の能力で守ってくれてる。今すぐ空間転移の鍵を使って、2人を助けに向かえばいいだけの話だ!!」


 俺は空間転移の鍵を掲げて、アキラと過ごした大切な街を念じる。


「おっと、待ちな半端者!! 貴様の行動は既に織り込み済みだ。これを見てみな。ドクガ獣人と連絡がとれるように改造された空間転移の鍵だ。シャッシャッシャ、言ってなかったが、ドクガ獣人は毒鱗粉を加減して放出してるんだぜ。奴が本気を出せば、毒鱗粉をもろに浴び続けているあの半端者は即座に力尽き、霧のバリヤーも解除されて人間のガキんちょも死ぬ!!」

「!!!」

「さぁ、どうする? 人間の味方、ゴウキさんよ? 貴様が我らに反抗するようなら、今すぐドクガ獣人に奴らを殺すように伝えてもいいんだぜ!!」


 ……俺の行動1つで、アキラとタイガーが死ぬってのか?

 奴らの卑劣さと狡猾さ、計算し尽くされた作戦を前に、俺は拳を凄まじい力で握りしめるしかなかった。

 ……俺が戦うのは、確かに人間のためだ。だが、自分を受け入れてくれた1番大切な友を犠牲にしてまで、俺は人間を守りたいと思っているのか? ……アキラ以外の人間は、俺自身を見ちゃいねぇ。俺の苦しみ等知らずに、強いヒーローとしての俺しか見ちゃいねぇ。

 だが、それでも確かにいたんだ!! 少なくても、助けを待つだけでなく自分の恐怖から逃げなかった人間が!! 戦う力も持たないのに、恐怖に立ち向かった人間達が!! それに、たとえヒーローとしての俺だけだったとしても、人間の中には俺を受け入れ必要としてくれた奴らもいた。俺が好きなのは、やはりアキラだけじゃねぇ。守れるものなら、アキラ以外の人間も全て守ってやりてぇと俺は思ってる!!


「シャーシャッシャ、決心はついたかい半端者?」

「……ああ」


 ……それでも、俺にとって1番大切なのは、やはりアキラなんだ。俺は観念し、握っていた拳を解いた。俺なんかの命を差し出すだけで、アキラが救われる。仲間であるタイガーもだ……。人間達、すまねぇ。もう、お前らを守ってやる事ができねぇ……。


「俺の命は、てめぇらにくれてやる。だから、アキラとタイガーを……」

「その必要はない!!!」


 突然響いた声に、俺は身体を向けて身構えた。そこにいたのは仲間だというドクガ獣人ではなく、あの黄金のライオン仮面にフード付きマントを身に着けた謎の獣人だった。右腕に意識のないタイガーを抱えて、左には無傷の状態であるアキラも一緒だ。


「アキラ!!! タイガー!!!」

「な、なぜ貴様らがここに!! ドクガ獣人はどうした!!!」


 謎の獣人はタイガーを砂浜に仰向けの状態で下ろすと、仮面で素顔を隠している事が無意味に思えるほどの怒気を含んだ声でクモ野郎の言葉に答えた。


「あのドクガなら、私の青き炎の力で焼き尽くした。私の望みはこの水使いとそこの炎使いが手を取り合い、ビーストウォリアーズに立ち向かう事。貴様の糸は、炎や熱に極端に弱いようだな。炎の膜を張り毒鱗粉から我らの身を守れば、後は炎で結界を焼き尽くすだけだ。造作もない!! 貴様らの計略が崩れ去るのは当然の事!!!」


 だが、既にアキラとタイガーの元に走っていた俺の耳には、謎の獣人が放った言葉は届いていなかった。俺の傍にいるせいで危険に晒してしまった唯一無二の友と和解を願う仲間は無事なのか、生きているのか。それだけが気がかりだった。


「アキラ、無事か? 怪我はないか?」

「俺は……大丈夫だけど」


 力が抜けて膝を落とした俺は、アキラの両肩を掴んだ。嬉し涙を、こらえきれなかった。


「良かった!! 無事で、本当に良かった!!!」

「ライオンのおじさん!! 今は、俺より虎のおじさんを心配してあげて!! 俺が糸の結界に閉じ込められてる間、ずっと毒に耐え続けながら俺を守ってくれてたんだ! そのせいで、虎のおじさんは今にも死にそうなんだよ!!!」


 砂浜に力なく倒れているタイガーに視線を移すと、タイガーは白目を向き荒い呼吸を繰り返しながら苦しんでいた。


「タイガー!! なぜ、どうしてこんな状態になるまでアキラを。確かにアキラを守らなければ、俺は万全の状態じゃなくなって不都合な部分もあったはずだ。だが、そのために自分が死んじまったら目的も何もねぇだろ!!」

「虎のおじさん、言ってたよ。ライオンのおじさんと約束したって。何があっても一度約束した事は守らなきゃならないって。虎のおじさんにとって、約束を守る事はすごく大事な事なんだって思ったよ」


 タイガーが激しく咳き込み、吐血した。

 ……逃げようと思えば、アキラを見捨てようと思えばいくらでもできたはずだ。なのに、こんな状態になるまで。……死んでほしくねぇ。半獣人だから、同胞だからじゃねぇ。たとえ今は敵でも、俺は信頼できる存在であるこいつと本当の仲間になりてぇ!!


「この水使いを助けたいか? 炎使い」

「当たり前だろ!!! だが、俺には水使い特有の回復能力や解毒能力はねぇ。畜生、畜生畜生!!! 目の前に命懸けで約束を果たしてくれた助けてぇ奴がいるのに、俺には何もできねぇのか?」

「……よくも、よくもドクガ獣人を!!! 俺達は、ただ一緒にいた仲間じゃない!! 貴様の裏切りが原因で、我ら獣人の主な目的は貴様ら半獣人の討伐に変わってしまっていた。貴様らの討伐に何の役にも立たない能力しか持たない我らは、組織の中で役立たず扱いされていたんだ。それゆえに、俺とドクガ獣人はお互いに支え合い、能力の使い道を模索し続けてきたんだ。そして、今回与えられたのが最初で最後のチャンスだった。……貴様のせいだ!! 俺達がこんな扱いを受け続けたのも、ドクガ獣人が殺されたのも全て貴様のせいだ!!!」


 偶数個あるクモ野郎の目からは、大粒の涙がとめどなく流れている。


「炎使い、私にも水使いの持つ回復能力は無いが、炎を用いた解毒ならばできる。毒を能力で除去している間、私はこの水使いと少年を守る事ができない。だから、その間お前がクモ獣人の相手をしろ」

「タイガーの命を、てめぇに委ねろってのか?」

「信じられないのは、当然だ。だが、今は他に道は残っていない!! 私を、信じてくれ!!」

「……てめぇの目的は俺とタイガーが共にビーストウォリアーズに立ち向かう事。今だけは、信じてやる。だが、それはてめぇの為じゃねぇ!! 命懸けで友を救ってくれた仲間の為だ!!」

「それで十分だ! ヒーリング・フレイム!!」


 タイガーの身体が青い炎で包まれる。だが、その炎はタイガーの身体を焼く事はなく、体内の毒だけを清めているようだった。それを見届けた俺は、タイガー達から離れクモ野郎に向かい合う。


「殺してやる!! たとえ、刺し違えたとしても!! ドクガ獣人の仇、討たせてもらう!!!」

「てめぇの大切な相棒を殺しちまった事は、謝る。てめぇのように、獣人同士で強い仲間意識を持っている奴に会ったのは初めてだ」

「半端者ごときに同情なんてされたかねぇんだよ!! そうさ、獣人の中にも強い仲間意識を持っている者はいる! 貴様にとってあのガキが大切な友であるように、俺にとってはドクガ獣人は最高の相棒だったんだ!! 貴様のやっている事は、人間から見た正義でしかない。結局は誰かの大切な存在を殺しているだけだ!!」

「!!!」


 心のどこかで抱いていた重苦しい感情が、クモ野郎の言い放った言葉で溢れ出してくる。家族を求めていたオオカミ野郎や俺を認めてくれたサイ野郎、今まで目を逸らし続けてきた「心」を持つ獣人達を殺してきたという現実を、俺は正面から突きつけられた。

 人間にとってはヒーローでも、獣人にとっては大切な仲間や友、家族を殺しているだけ。心の片隅で抱いていた、「自分のしている事は正しいのか?」という疑念。

 一瞬自分の信念を揺るがされ怯んじまった隙をつかれ、クモ野郎がアキラを狙い蜘蛛の糸を吐き出した。だが、アキラに危険が迫った事で迷いは無くなり、俺はアキラの眼前に一瞬で立ちはだかる。粘着質な蜘蛛の糸が全身に絡みつく。


「確かに、俺のやっている事は人間から見ただけの正義なのかもしれねぇ。俺は自分が強き者と認め、俺という存在を受け入れてくれた人間が好きで戦っているにすぎないからな。てめぇの言う通り、俺は結局誰かの大切な存在の命を奪っているだけなのかもしれねぇ」


 俺は全身から紅蓮の炎を発すると、全身に絡みついた蜘蛛の糸を焼き尽くす。


「だがな、俺が迷っちまったら、その間にも誰かが死んでいく!! アキラも、タイガーも、今俺が迷ったら死んじまうんだ!! 今迷いを断ち切らなけりゃ、他の人間達も傷つくかもしれねぇ!! だから、俺はてめぇら獣人共の命を奪う事を覚悟する!!! てめぇらの絆を断ち切る事で恨まれても、憎まれても、自分が罪悪感を感じたとしても、その気持ちは全て背負って生きてやる!!!」

「貴様の覚悟など知ったことじゃねぇんだよ!! 死ね!! スパイダースレッド・ハープーン!!!」


 奴の口から吐き出された大量の糸は、無数の鞭を形作ると先端が鋭利な銛のように変化する。それらは、四方八方から俺を襲う無数の刃となった。


「すまねぇ、ブレイブトルネード!!!」


 無数の蜘蛛の糸で形作られた銛を焼き尽くし、俺が放つ灼熱の竜巻はクモ野郎の恨みもろとも奴の身体を飲み込んだ。

クモ野郎が光の粒となり消滅した後、陽が沈み薄暗くなっている海辺を俺の炎のわずかな残り火が照らしている。その前で、俺は再度苦しさを感じていた。

 ……人間を守るという誓い、それは絶対変わらねぇし変えねぇ。だが、これからも俺は獣人達と戦っていく。その中で、また誰かの大切な存在の命を奪う事になる。俺の心は、その重さに耐えられるだろうか。

 認めたくねぇ現実を受け止めきれず、弱気を感じている俺の傍に、暗い表情をしているアキラが駆け寄ってきた。


「……ライオンのおじさん、大丈夫?」

「……大丈夫に決まってんだろ、アキラ!! 俺はこの程度じゃへこたれねぇし、強いんだ」

「でも、おじさん、すごく悲しそうだよ。それにあの獣人、おじさんを結局誰かの大切な存在を殺してるだけだって」

「それは覚悟の上だ! 綺麗事だけで済むならそれが1番いいだろうが、結局相手の命を奪う上で汚れる存在がいないってのは無理な話だ」

「……俺、情けないよ。おじさんに何もしてあげられなくて」


 俺はアキラの肩に右手をかけた。

 ……お前がいてくれるから、その優しさがあるから、俺は頑張る事が出来るんだぜアキラ。


「アキラ、俺はお前がいてくれる限り、この程度の重荷には負けねぇ!! だが、もし耐えられなくなったら、その時は弱音を吐かせてくれ。それでおあいこだ」

「……うん!」


 俺の炎の残り火と一緒に海辺を照らしていた、タイガーを包む青い炎が消失する。


「この水使いの解毒は終わった。後は、こやつの生命力に賭けるだけだ。炎使い、早くこやつを安全な場所へ!」

「ああ。だが、1つ教えろ。お前はなぜ、アキラとタイガーが空間転移の鍵であの街へ移動した事を、移動先を知っていたんだ? 空間転移の鍵は移動先となる人間の名前だけでは効果を発揮しねぇ。もっと詳細な情報が無ければ意味がねぇはずなのに」

「それもいつか教えよう。だが、今は言えん」

「……信用したわけじゃねぇが、感謝はするぜ。……。そうだ、名前だけは教えてくれ! これから先また会う機会があるなら、呼び名くらい必要だろ!」

「好きに呼ぶがいい」

「なら、ライオンの仮面を着けてるから『ライオン仮面』って呼ばせてもらうぜ」

「ライオンのおじさん、ネーミングまんますぎるよ」

「そっ、そうか? なら、お前なら何て呼ぶんだ?」

「うーん、金色の仮面を着けてるから『ゴールデンマスク』とか?」

「俺とそんな変わらねぇじゃねぇか!」

「おじさんよりはマシだよ!!」

「ハハッ、好きに呼べと言ったろ! ライオン仮面、今後はそう呼べ!!」


 俺達のやり取りが面白かったらしい「ライオン仮面」は、わずかな笑いを見せると空間転移の鍵を使い光に包まれて立ち去って行った。

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