ケーキはてんさい!


 ケーキと仲良くなったわたしはスライム討伐を再開した。


「ケーキ! インフェルノブレスッ!!」


 ケーキが仲間になってからスライムを倒すために攻撃をすると、前方の森が焼け野原になった。


「もう少し弱くできないの?」


 これじゃあ色々と迷惑だよ。せっかく美味しい果実が採れるかもしれないのに……

 わたしが少し注意すると、ケーキは魔法の威力を極限まで小さくしてもう一度放った。

 今度は後方に居た一匹のスライムのみを丸焼きにして倒した。


「そう! その威力だよ! さすがわたしのケーキ! 天才だね! 兄さんもそう思うよねッ!?」

「ああ、そうだな。だな」


 兄さんもケーキのことを天才と称して褒めていた。ケーキは褒められて元気に尻尾を振っていた。


「よしっ、行くよケーキ! スライム共を駆逐せよッ!!」


 ケーキは強く吠えて前へと進みだした。


「俺、めっちゃ頑張ったのに一瞬でレベル抜かれた…………ん?」


 ある程度スライム狩りをしていて、わたしは気づいてしまった。

 経験値が貯まらない……!

 昨日はすぐに経験値のバーが満タンになったのに、今は一割にも満たない。

 レベルが上がると経験値が貯まりにくくなるって聞いてたけど、こんなに上がらないの?


「今日はこの辺にして、街にでも行くか?」


 街はログイン時に必ず訪れる場所だけど、スライムに気を取られていたのでそこまで見てないのだ。

 ゲームの世界の街がどんななのか、とても気になる。


「うん! 行きたいっ!」


 あっ、でもこんな大きな狼さん連れてたらみんなビックリして腰抜かしちゃいそう。


「ケーキ、小さくなれないの?」

「なれるわけがないだろ」


 兄さんが溜息をついてそう言った。

 するとケーキは徐々に小さくなっていき、子犬ぐらいまで小さくなった。


「小さくなった! かわいい!」

「アレェッ!?」


 わたしが小さくなったケーキを抱っこしてモフモフすると、兄さんはめちゃくちゃ驚いた声を出してた。

 ケーキは心なしか、ドヤ顔してるように見えた。


「これなら街に行っても大丈夫だよね!?」

「そうだな。ちょっとユイに連絡取ってみるから待っててくれ」

「わかった!」


 兄さんはゲーム内にある『ちゃっと』と呼ばれる機能を使って結月さんに連絡を取った。

 しばらくすると返信が来たようで、待ち合わせをした。


「ロリコンも来るらしいから、気をつけろよ?」

「ロリコンさんってそんなに危ない人なの?」


 兄さんとゆっくり会話をしながら、わたしたちは待ち合わせ場所である街の噴水広場へと向かった。


「ユイさん、こんにちわ」

「こんにちは。お姉ちゃんって呼んでも良いのよ?」

「遠慮するー」


 ユイさんと軽く挨拶を済ませると、ロリコンさんが広場へとやって来た。


「ロリコンさんこんにちわ」


 わたしが笑顔でロリコンさんに挨拶をすると、ロリコンさんはいきなり吐血した。

 ええっ!? な、なんでッ!? わたし何か変なことした!?


「俺、今日死ぬかもしれない……」

「そうか」

「なあユウキ」

「なんだよ」

「このユーザーネームにしたこと、俺は後悔してないぜ」


 吐血したのにも関わらず、ロリコンさんは嬉しそうに語っていた。

 だ、大丈夫なのかな……?


「じゃあ私たちは買い物にでも行ってくるから、アンタたちはどっかクエストにでも行ってなさいよ」


 結月さんがわたしを抱き上げて兄さんとロリコンさんに言った。


「いや待て。色んな服を着て喜ぶ幼女を眺める神イベントを独り占めしようとするのはよくないな? 幼女の幸せはみんなのものだッ! 一人ょぅι゛ょみんなロリコンのために! みんなロリコン一人ょぅι゛ょのために!」

「アンタが言うと犯罪臭がするわね」

「いや、犯罪だろ。通報しようぜ」


 兄さんが何か赤い文字でSOSと書かれたスライドをタッチしようとしていた。

 一人はみんなのために……?


「兄さん兄さん。それでロリコンさんが幸せになれるなら、わたしは別にいいよ……?」

「ダメよ!」

「ダメだ! 早まるな!」


 わたしが言うと結月さんと兄さんが同時にわたしの意見を切り落とした。

 早まるなって……そんなにいけないことなの?


「じゃ、じゃあ、またあとでね!」

「あ、ああ! そうだな! 行くぞロリコン!」

「ちょっ!? お、俺の楽園エデンがすぐそこにあるんだぞ!?」

「安心しろッ! お前の楽園は画面の中にある!!」


 兄さんがロリコンさんを引っ張って何処かへ立ち去って行くと同時に、わたしは結月さんに抱えられてその場を跡にした。


「そういえばその犬どうしたの?」

「わたしの仲間!」

「そっか」


 結月さんは生暖かい目でわたしのことを見て頭を優しく撫でてきた。

 まあ、今のケーキはどうみても可愛らしくて白いモフモフした犬にしか見えないもんね。

 まさかこんな子犬が森一帯を焼け野原にする強さを持っているなんて思えないよね。


「あっ、それならコレ使う?」


 結月は上半分が赤く、下半分が白い、アニメで見たことのあるカプセルを見せてきた。

 これは子供なら誰でも一度は欲しいと思ってしまう伝説のモンシュターボール……! どうしてここにッ!?


「テイムしたモンスターを収納して持ち運びできるモンシュターボール。これを使えば両手が塞がることはないわよ」

「貰っていいの?」

「もちろんよ」


 結月さんはニッコリとした笑顔でモンシュターボールを渡してくれた。

 わたしはケーキを地面に下ろし、モンシュターボールをケーキの背中に当てた。

 するとケーキはモンシュターボールに吸い込まれて少し揺れた後にカチッという音が鳴った。


「おおーっ!」

「おめでとうイリヤちゃん!」


 わたしはモンシュターボールを回収して早速ケーキを呼び出してみることにした。


「ケーキ! キミに決めた!」


 モンシュターボールを投げつけるとカプセルがパカッと開いて中からケーキが出てきた。

 投げつけたモンシュターボールはケーキを排出すると、わたしの手元に戻ってきた。


「おおーっ!」


 これは興奮する! アニメと同じことを再現できるなんて!


「さてイリヤちゃん。モンシュターボール、使ったわよね?」

「えっ……?」


 結月さんがニッコリとした笑顔でわたしのことを見てくるが、先ほどの笑顔とは違って何処か深い闇が混じっているように感じた。

 あっ、これもしかして、何か開けちゃいけない扉を開けちゃった感じかな……?


「まずはあの店から行きましょうか?」

「は、はい……」


 わたしは半場強制的に近くのお店へと連行されて行った――――――



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