スライム狩ってたら狼さんと仲良くなりました!



 わたしは今日もゲームをするため、兄さんが学校から帰ってくるのを待ちわびている。


「ねえ、ビスケット。兄さん、全然帰って来ないね」

「ニャー」


 ビスケットの顎を撫でながら話しかける。意外と言葉でも通じているのだ。

 まあビスケットが何を言ってるのか、わたしにはわからないけど。


「シャーベット、兄さんに早く帰ってくるように言ってよ」

「ニャー……」


 なんて言えばいいの……って、シャーベットが言ってるよ。これぐらいは猫じゃないわたしでもわかるよ。


「ニャー」

「ニャー」

「ニャー」


 猫さんたちがわたしに近寄って慰めようとしたときにその気配を感じたからなのか、一斉に鳴き始めた。

 兄さんが帰ってきた……!


「ただい――――」

「兄さんおかえりなさい!」

「おっと」


 わたしが兄さんに目掛けて跳び跳ねると、兄さんは跳び跳ねるわたしを捕らえて抱っこした。


「どうしたんだ?」

「ゲームがしたくてうずうずしてたんだよ。悪いが付き合ってやってくれ」

「ああ、わかった」


 わたしは兄さんに二階へと連れ去られながらも、猫さんたちにバイバイと手を振った。

 最近は猫さんたちもバイバイと前足で振り返してくれるようになった。


「兄さん兄さん、しよ?」

「……ああ、そうだな」


 なんか兄さんの表情が一瞬だけ変になったような気がしたんだけど、気のせいだよね?

 兄さんはわたしにヘッドギアを被せて布団の中に入れた。

 そして兄さんもヘッドギアを被ってベッドの上で横になった。


「準備はいいか?」

「うん!」


 兄さんの手を握ると、兄さんも手を握り返してきた。そこで視界は暗転した。

 次に目を開くと、わたしたちはゲームの世界へとやって来ていた。


「よし、今日もスライム狩りだ!」

「おおーっ!」


 わたしと兄さんは昨日と同じスライムがたくさんいる森へと向かった。


「ファイアボールっ!」


 スライムに目掛けてファイアボールを撃つ。

 昨日の大群でかなりレベルが上がったおかげでレベルが3以下のスライムを一撃で倒すことができるようになった。

 スライムのレベルは2~10であり、完全ランダムで現れる。


「よしっ、またレベルが上がったな!」

「うんっ!」


 再びスライムを倒そうとスライムを探すけど、スライムは見当たらなかった。

 この辺りのスライムは昨日のこともあってか狩り尽くしてしまったようだ。


「もう少し奥に行くか」

「うんっ」


 わたしたちは場所を変えることにして、奥へと進んだ。

 ある程度先に進むと、滝が流れているような音が聞こえてきた。


「兄さん、滝があるよ! 遊ぼ!」

「水着買ってないからまた今度な」

「えー……」


 滝や海で遊ぶとき、こちらの世界では水着という露出の高い服を着るのがマナーらしい。

 わたしが今着ている服は腹部が黒くて胸部が白いノースリーブと黒いミニスカートとタイツだ。そして、肩から膝ぐらいまでを覆い隠せる長さのローブを着ている。

 このまま滝に突っ込めば間違えなくびしょびしょになる。わたしは水遊びを断念した。


「……なんかいるよ?」


 滝に近付くと、何か白い物体が水浴びをしていることに気がついた。

 なんだろう、アレ……

 ジッと見詰めていると、白い物体はこちらに気づいたようで動き始めた。


「イリヤ、少し下がってろ」


 兄さんに言われてわたしは、兄さんの後ろに身を潜めた。

 すると、白い物体がこちらへと一直線に迫ってくる。


「白い、おおかみさん……?」


 とても真っ白で水を浴びたばかりなのに、ふわふわとしている毛並み。兄さんより少し低いぐらいの高さがある狼さんで、わたしが乗っかったりすることすらできそうだった。

 気がつくと、わたしは兄さんの元を離れて狼さんに抱きついていた。


「イリヤ、な、なにしてる……」


 わたしが上を向くと狼さんと目が合った。


「か、身体が勝手に……」


 これ、食べられちゃうかな?

 一応ゲームの中なわけだし、食べられても問題はないだろうけど…………否ッ!

 わたしは神子だ! 狼の一匹程度、簡単に手駒にしてみせるよッ!!


「狼さんもふもふ~!」


 狼さんをモフリ捲った。

 狼さんは抵抗する様子もなく、わたしにモフられ続けた。


「いい毛並みしてるね~」


 すると、狼さんはわたしの頬をペロッと舐めてきた。

 ちょっとくすぐったい。


「わたしだって負けないよぉ~!」


 わたしはもふもふを再開する。狼さんも負けるものかとわたしのことを舐めてくる。

 兄さんはあまりの状況にポカンとしてた。

 しばらくじゃれ合っていると、何か文字が書かれたスライドが出てきた。


『ふぇんりるをていむしました』


 ひらがなで出てきた文字を機械がそのまま読みあげた。反応がないから、兄さんは何も聞こえてないみたい。

 ふぇんりるってこの子の名前なのかな?


「兄さん、ていむってなに?」

「……マジかよ。スキル無しだろ」


 兄さんは驚いてたけど、その後きちんと説明してくれた。

 テイムっていうのは狼さんを仲間にしたことなんだって。

 わたしと狼さんはもう意志疎通ができる仲だからね! 仲間だよ! 

 ……というか、この世に存在する全てのモフモフはわたしの仲間だよッ!

 すると、新しいスライドが出てきた。


『なまえをきめてください』


 なまえ……名前? うーん、なにが良いかな?

 ビスケットたちは全員お菓子から選んでたね……あっ! アレにしよう!


「ケーキ! 白いからケーキ!」


 なんかケーキが「あれッ!? 俺、男なんですけど!?」みたいな顔をしてるけど、わたしには関係ない。

 わたしから見れば、ただ白くてスポンジみたいにふわふわした物体だ。

 つまりはショートケーキだね!


「ケーキ、これからよろしくね!」


 軽く背中を擦ってあげるけど、満足そうにしてない。

 もしかしてそんなにイヤだったかな?


「イヤならいいよ。肉まんにするから」


 わたしの即席で考えた新しい名前を発表すると、ケーキは首を左右に激しく振って肉まんを拒絶した。

 わたしが「じゃあケーキでいい?」って訊くと、ケーキは首を縦に振った。


「そんなわけでケーキだよ!」

「レベル上がりすぎじゃね?」


 兄さんに言われてステータス画面を確認すると確かにレベルが上がっていた。

 テイムはそのモンスターの討伐時と同じ経験値が入るんだっけ? だからレベルが上がってるんだね。

 ……ん? レベル30? なんでこんなに経験値が入ってるの?


「もしかして、ケーキってめちゃくちゃ強いの?」


 う、うん? これ、わたしが主になっちゃて良いヤツなの?


「…………その昔、偉い人は言っていた。『戦わずして人の兵を屈するのは善の善なる者なり』と」


 わたしは考えるのをやめて、その場を誤魔化すことにした。



「また知らん余計な言葉覚えやがって……」



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