20 第二の自己
「ぐっ、まさかここまで力の差があるとは――流石は
「その名前は捨てた。今の俺の名前はノア・メイスフィールドだ」
慎重に倒れるアインの方へ近付いて行く。アインは満身創痍だが、油断は禁物だ。
しかし……改めて見回すと、周囲は酷い惨状である。
地面の石畳は乱雑に捲れ上がり、
戦闘と平行して魔術を使って住人が逃げる手助けをしていたため、人的被害こそ発生していないだろうが、それでもこれは流石に酷い。
ラヴィニアが頭を抱える光景が目に浮かんで俺は笑った。いや笑いごとではないが。
「で、まだやるか? そろそろ学園に行かなきゃ不味いから、お前に構ってる暇なんてないんだが」
というかもう最初の授業は始まっている時刻だ。
学園の方にもナタリアが教師として潜入しているため大丈夫だとは思う……が、先程の戦闘時、アインの奴の動きは途中から時間稼ぎを目的としていたように思えた。学園で何かが起こっているのかもしれない。
かといって、こいつをこのまま放置しておくのもそれはそれで危険だ。何を仕出かすか分かったものじゃない。
「く、くく――初めて聞いたときは本当に驚いたよ。まさか君が学園に通ってるだなんてね」
「ああ、俺も驚いてるよ」
本当に。
まさか俺が学園に通うことになるとは、『
「『
「知るか、馴染めようが馴染めまいがどうでもいい」
アインは倒れ伏したままぺらぺらと口を回す。
「――断言しよう。君の居場所は『
「…………」
「だから、戻ってこないかい?」
「断る」
「そうか、残念だ」
アインは本当に残念そうな表情を浮かべた。
何が悲しくてあんなクソみたいな場所に戻らなくてはならないのか。
「そんなことよりも、お前はどうやって地上に来た? 『
「そんなことって言い様は酷いなぁ。こっちだって真剣に勧誘してるのに」
「いいからさっさと吐け」
魔力を練り上げる。いつでも魔術を発動できる状態にした上で、アインの元に近付く。
突如アインが残った左足をばねのように使って起き上がり、右手に隠し持っていた
「ぐっ……」
「俺はあんまり気が長いほうじゃないのはお前だって知っているだろう?」
「ぐ、くく……残念だけど、教えるつもりはないよ」
ふと気付く。
俺がへし折った右手、そこから毀れ落ちているのは血ではなく――土だった。
「ちっ……」
「あ、気付いた?」
「最初からそうだとは思っていたが……やっぱり
「正解」
ぼろぼろとアインの身体が崩れ、土になっていく。
ただ、アインの造る
本来の
こうして破壊される段階になってようやく、普通の人間との区別ができるようになる。
土人形(ゴーレム)が自壊していく。人の身体のように見える物体が、手足などの末端から徐々に土へと変貌していくその光景はおぞましい。
アインは常にこの
当然、痛覚などが術者当人と共有されているわけでもないため、拷問も無意味だ。
「時間の無駄だったな」
『
「アーク――いや、今はノアだったかな? 今回の勧誘は失敗したけれど、僕は君を『
「残念ながら無理だな、とっとと諦めろ。そもそもお前みたいな優男に勧誘されたって嬉しくもなんともないしな。次は美少女になって出直してこい」
固有魔術。
それは、俺たち誰しもが生まれながらにして有する、
これら固有魔術は、人それぞれ異なる魂の性質を根底として術式を編んでいるため、基本的に製作者以外には決して使うことができない。加えて、魂の性質に従って術式を構築する以上、当然、その自由度は低くならざるを得ない。
――魔力が魂から生成されるように、魂やその性質は、魔術と密接に関連している。魂の性質は魔術の得手不得手に大きな影響を与えるのだ。
だが一方で固有魔術は、普遍的に使用できるように改良された一般的な魔術と比べて、魂の性質に従うため、術者に完璧に適した術式となる。
そのため、より強力無比な魔術や、一般的な魔術では再現が難しいような独自性のある魔術となるのだ。
実際、アインの固有魔術『
アイン・ツヴァイドール――その魂の性は複製。
故に、アインの造る
「ふ……それじゃあ、今日のところは諦めることにするよ」
すでに顔以外のほとんどが土に戻ってしまっている状態で、しかしアインの
俺は嘆息した。
固有魔術『
「俺をそんなに勧誘したいなら代わりに重要な情報の一つは寄越せ。たとえば、『
「そうか……ならば耳寄りな情報を一つ」
ついに頭まで土に変わり果てたアインの
「僕の役割は君の足止めだよ――学園にいるはずの王女様、無事だといいね?」
「まあ、知ってた」
お前がぺらぺらと喋ってる時点でそうだとは思っていた。
俺は
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